冒険するアルフレート
僕の名はミケル。
いや、もう……なんと言ったらいいか。
うん、ちょっと疲れたミケルです。
アルフレートくんに注意された。
魔獣や魔物がいる場所に行くのはたしかだけど、目的は魔獣や魔物ではない。
冒険者登録もしたのだから、冒険に行くと言うべきだと。
なるほど。
納得できたし、反対意見もない。
では、改めて。
冒険に出発!
リーダー、アルフレートくん。
荷物持ち、僕。
同行者、王子三人、貴族のお嬢さん三人。
護衛、三十人。
うち、十人が女性。
少し離れたところに、追加の護衛が二百人。
その後方、水や食料などを積んだ馬車が二十台。
……
これは冒険だろうか?
ただの行軍ではないだろうか?
目的地も、アルフレートくんが同行者たちに気をつかって、魔獣被害があると訴えている近場になったし。
「気をつかったのではない。
畑を荒らす魔獣は許せん。
それだけだ」
うん、だとしても……過剰戦力だよね。
「護衛は戦闘に参加しないという話ではなかったか?」
たぶん、目的地に先行している部隊がいると思うよ。
「それはそれで、そのあたりに住む者たちの安寧に繋がる。
悪いことではない」
うーん、大人だなぁ。
親の権力をフル活用して、同行者になった王子たちと比べちゃ駄目なんだろうな。
移動に二日、目的地で二日の四日間で、魔獣を二十匹退治した。
アルフレートくんは手を出さず、ほぼ貴族の娘さんたちが倒した。
王子たちは三人かかりで一匹、倒している。
ただ、あれは直前に貴族の娘さんがダメージを与えていたから倒せたのであって……
まあ、機嫌を損ねても面倒なので言わない。
自信を持つことには繋がるだろう。
慢心は困るけど。
僕?
僕は荷物持ちだよ。
過度な期待はやめていただきたい。
退治した魔獣から採れる素材の売却で、少額ながら収入を得ることができるらしい。
実際に動いている護衛の給金を考えると、大きく赤字だろうけど……細かいことは考えない。
護衛たちは僕たち以上に魔獣を倒している。
だけど、アルフレートくんが言うには、護衛の倒し方が雑で素材の価値が大きく落ち、値がつかないそうだ。
貴族の娘さんたちはちゃんと素材になる部分を残して退治していると、倒した魔獣を並べて説明してくれた。
まあ、だからと言って護衛たちが悪いわけではない。
狩って収入を得ようとする冒険者と、狩って安全を確保しようとする護衛の違いだ。
襲ってくる魔獣や魔物の倒し方まで考慮してたら、護衛なんてできないからね。
とりあえず、畑を荒らしていたと思われる魔獣は退治した。
なので、冒険の目的は達成したといえるだろう。
あとは王都に戻るだけ。
だから僕は少し気を抜いていた。
反省だ。
夜の野営中。
僕たちは怪しげな四人組と遭遇した。
日が暮れたばかりの時間で、周囲は暗いけどまだ誰も寝ていなかった。
野宿用のテントを前に、見張りの順番を考えていたところだった。
三十人の護衛たちも、近くにいた。
人数が人数なので、焚火も一つや二つじゃない。
僕たちの周囲だけで七つ。
この焚火が一気に消えた。
そして、護衛たちが倒れる音。
王子たちも倒れた。
アルフレートくんが魔法だと小さく言う。
起きているのは、アルフレートくん、僕、あとは三人の貴族の娘さん。
アルフレートくんの近くにいた者だけだ。
護衛は……全員が倒れたわけじゃないんだろうけど、焚火が消えたからわからない。
わかるのは、見慣れぬ怪しげな四人組がいること。
暗いのでシルエットしかわからないけど、男二人、女二人……かな?
不気味に低く笑っている。
敵か。
僕は剣を手にし、声をあげる。
動ける護衛っ、周辺警戒!
ほかにもいる可能性がある!
警戒はしないといけない。
だが、焦る必要はない。
時間を稼げば遠くにいる二百人の護衛が駆けつける。
護衛対象の焚火がすべて消えているんだ。
異変があったと気づくだろう。
貴族の娘さんたちはアルフレートくんか僕の後ろに。
僕より戦えるだろうけど、だからと言って前に出すのは違うだろう。
……
あれ?
アルフレートくん?
あの、いつもならもう動いていない?
なぜ立ったまま?
話を聞くのが礼儀って……
冒険者ギルドでは、話の途中で殴ってたのに?
とりあえず、かまえてかまえて。
武器を持って!
相手がなにか言うから聞けって、悠長な。
「夜分に失礼……ふふふ」
「我らは光に弱くてな。
このような時間の訪問になってしまった」
「私たちがここに来た目的は……」
「待ちなさい。
自己紹介を忘れていますよ」
「そうね。
名乗るのが礼儀ね……ふふふ」
「ちっ。
言ってやれ」
「任せた」
「はぁ……わかりました」
一人がそういうと、四人は揃ってそれぞれの武器をかまえた。
「月下のカーラ」
「粉砕のアスワン」
「不動のマルコシアス」
「蛍火のネカ」
「私たちは夜光蝶。
四つの死神の鎌です」
そして、四人の目が赤く怪しく光った。
それは暗闇のなかで、さらに恐ろしく不気味に見えた。
僕は思わず、剣で斬りかかろうと足を踏み出した。
距離は……もっとも近くにいる者でも三十歩ぐらい。
魔法を使う相手なら、まっすぐ向かうのは悪手。
僕が右から行けば、アルフレートくんは合わせて左に向かう。
まずは一人落とし……
アルフレートくんに肩を掴まれ、止められた。
まさか罠があるのか?
……違う?
自己紹介されたら、こっちも自己紹介するのが礼儀?
そうだろうけどっ!
いや、いまはそういう場合じゃないでしょ!
慌てるなって。
こ、ここに立って不敵な笑みを浮かべていろ?
貴族の娘さんたちにも立ち位置の指示を。
ほんとうにそんなことをしている場合じゃ……
僕の心配をよそに、アルフレートくんはマントをたなびかせた。
「丁寧な挨拶、いたみいる」
暗闇なので、どんなポージングをしているのかはわからないけど。
「名乗られたからには名乗り返そう。
私の名はアルフレート。
アルフレート=マチオ。
偉大な父と母から生を受けるも、まだなにも成していない冒険者。
……いや、そのような大層なものではないな。
ただの哀れな迷い子だ」
アルフレートくんが、こっちを見る。
え?
僕も自己紹介する流れ?
え、えーっと、ミケルです。
僕に続き、貴族の娘さんたちも自己紹介した。
そして沈黙。
……
護衛はなにをしているんだ?
周辺を警戒しろとは言ったが、こっちをまるっきり無視か?
あと、遠くにいる護衛。
まだこっちに来ないのか?
もう戦いが始まるぞ。
アルフレートくんが必死に時間を稼いでくれたのに。
沈黙を破ったのは、僕の隣から。
アルフレートくんだった。
「質問がある」
「なにかしら?
……ふふ」
カーラと名乗った女が、応えた。
「その赤い目、どうやった?
魔法か?
それとも薬か?」
目?
怪しく光っている目のこと?
アルフレートくん?
いま、気にすること?
「ふふふ……よくぞ聞いてくれた!
そう、これ薬!
すごいでしょ!」
「すごい!
ほしい!
どうすれば手に入る!」
アルフレートくん?
「そう簡単に教えられないわ。
これは秘薬中の秘薬なんだから」
「夜光蝶に入れば、教えてもらえますか!」
アルフレートくぅん!!
そっちのカーラって人も、どうしよかなぁーじゃない!
なんだ、これ!
戦いになるんじゃないのか?
「ミケルよ。
安心しろ。
彼らに敵対の意思はない」
え?
そうなの?
「うむ。
敵対の意思があるなら、二日前に襲ってきている」
……え?
「ずっと私たちの近くで、様子をうかがっていたぞ」
そうなの?
き、気づかなかった。
「こっちが帰ろうとしたから、話しかけてきたんじゃないかな」
え、えー?
ま、待って。
じゃあ、焚火を消したのは?
「演出だろう。
あの目を目立たせるための」
護衛とか王子が倒れた魔法は?
「それも演出だ。
私の周囲にいた者にはかけていないし」
……………………
え、演出なのは飲みこむとして、なぜ、そんな演出を?
「それは彼女らに聞かねばな」
アルフレートくんはそうカーラたちに促すと……
カーラたちは顔を見合わせて、一人が答えた。
「ひ、人見知りで……大勢の前に出るのはちょっと恥ずかしくて」
実にくだらない理由だった。
焚火、つけるぞ!
アルフレート「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!(イェェェェェェェェェッ!)
くぅーぜんぜつごのぉっ!(空前絶後の)
ちょーぜつここうのかなしきせんしっ!(超絶孤高の悲しき戦士)
やみをあいし!(闇を愛し)
やみにあいされたおとこ!(闇に愛された男)
我こそはアルフレート!
アルフレート=マチオォッ!」
ミケル 「……」
貴族の娘さん「かっこいー!」
四人組 「ま、負けた……」
アルフレート「……目指す方向と、ちょっと違うなぁ」
理解ある護衛「出オチ感が強いかと」
アルフレート「べつの挨拶を考えよう」




