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ミケルの理解

これも二話にするつもりだったけど、分けどころがむずかしく……

ちょっと長めです。


 僕の名はミケル。


 今年で十七歳になるレイワイト王国、コーリン教教団の一員。


 まあ、ミケルと名で呼ばれるより、大司祭フーシュの息子と呼ばれることのほうが圧倒的に多い。


 それは仕方がないことだとはわかっている。


 なにせ僕には語れる実績がない。


 それがちょっと気になる、人族の男。



 今日、母が城の中庭で暴れたと聞いた。


「暴れたのではなく、訓練です」


 事前通達はしなかったのですか?


 かなり騒ぎになっていましたが?


「王家側からの要望がそうだったのです。

 アルフレートくんの力を、少し見せてほしいと」


 あれは王家の主導でしたか。


「どちらかと言えば、宰相たちの主導でしょう」


 どの宰相も、優秀ですからね。


「ええ。

 とくにコーリン教との距離の取り方が絶妙なので、いろいろと助かっていますよ」


 そうですね。


 そういえば神官戦士長のオブライエンさまと、急に距離が近くなったように思いますが?


 対立していたのではないのですか?


「彼とは長いつき合いですからね。

 こちらの事情を汲んで協力してくれたのでしょう。

 あと、対立は演技です。

 言ってませんでしたか?」


 ……聞いてません。


 演技だったのですか?


「ええ。

 そうすることで、神官戦士団への不満は私に。

 コーリン教への不満は彼に行くでしょう?」


 な、なるほど。


 母はそういったことを平然とやるから、悪辣あくらつとか言われるのではないだろうか。


 息子としては、恐れられるよりも、したわれる母であってほしいのだが……


 あの、母さん?


「なにかしら?」


 さきほどから、大鏡おおかがみの前で変なポーズを決めているのはなんなのですか?


「変なポーズではありません。

 コーリン教の秘伝のポーズです」


 そ、それは失礼しました。


 どういったものなのですか?


「宗主さまが編み出した、相手との対話をスムーズに行なうためのポーズです」


 宗主さまが!


「ええ。

 言葉の通じぬ相手にも、通じるのですよ」


 そのようなポーズがあるとは、知りませんでした。


「秘伝ですからね。

 ですが最初は秘伝ではなく、広く信者に勧めていたそうなのですよ」


 へぇ、そうなのですね。


「ええ、ですが……宗主さまはあるとき、突然、このポーズを封印したのです」


 なぜでしょう?


「わかりません。

 ですが、このポーズを惜しんだ一部の信者が、記録を残して代々語り継ぎ……秘伝としたのです」


 なるほど。


「しかし、だからと言って伝統化しているわけではなく、自由に独自解釈アレンジを取り入れてもよいとされていまして……

 まあ、人の体形はそれぞれですから、ポーズを固定するとできる人とできない人ができてしまいますからね」


 そうですね。


「だから、私は私に合うポーズの追求をしているわけです」


 それはわかりましたが、急にですか?


「最近はやっていませんでしたが、貴方が生まれる前は普通にやってましたよ。

 私がコーリン教に興味を持ったのは、このポーズがきっかけですし」


 そ、そうなんだ……


「語り継いでいる人との出会いがありましてね。

 極めたとまではいいませんが、それなりに誇れるぐらいにはやっていたのです。

 ただ、やはり若いころと今では関節の可動域がどうしても……いやですねぇ」


 あはは。


「ですが、若いころには貫禄かんろくが足りなかったポーズが、いまではできるので表現の幅は広がったのかもしれません。

 あ、貴方も興味があったらやってみなさい。

 仕事の気分転換にもなりますよ」


 ……検討します。


 そろそろ食堂が開く時間ですよ、母さん。


「そうでした。

 食堂にまいりましょう」





 現在、僕の仕事はアルフレートくんの案内役。


 世話係ではない。


 そういったのは別の人が用意されている。


 従者……いや、本来は王家の者につくべく訓練していた侍従が数人ほど。


 あと、護衛を兼ねた庭師も数人。


 彼らは地位の高いコーリン教の神官騎士だったと思うけど、そんなことをさせていいのかな。


 まあ、僕の気にすることではないか。


 案内役の僕はアルフレートくんが出かけるときに、できるだけ同行して道に迷わないようにするだけ。


 神学的な意味ではなく、物理的に。


 アルフレートくんは、このあたりのことをまったく知らないから。


 彼は遠方からやってきた大事な客人。


 僕が子供のころ、治癒の難しい病をわずらったことがあるのだけど、その病の治療薬を作ってくれた人の息子さんだと母から紹介してもらった。


 最初は大人しい子で、大丈夫かなと少し心配だった。


 なにせ、母が後見人。


 母はなにかと政敵が多いから、その母を困らせようとアルフレートくんを狙うことは簡単に予想できた。


 予想外だったのは、アルフレートくんの胆力。


 敵意剥き出しの貴族の子弟からの嫌味を、軽やかに笑って流していた。


 貴族語だなんだと言って、まともに相手にしない。


 そうすることで疲れるのは相手だけ。


 そのうち、諦めて去っていく。


 すごいと感心したものだ。


 僕なんか、母のことを言われて三回ぐらい決闘騒ぎを起こしているからなぁ。


 見習わないと。


 ちなみに、その決闘は行なわれる前に母が潰した。


 相手の家ごと。


 母の怖いところだ。


 ただ、そんなアルフレートくんでも、王子たちとのやりとりは……


 母とオブライエンさまが暴れたので気にしたのかなぁ。


 しばらく休んだ。


 外に出るようになって驚いたのは、体の成長。


 別人と思ったけど、母が成長ですと言ってたので僕は飲みこんだ。


 そして、体が大きくなったアルフレートくんは行動的になった。


 王子たちと揉めたことなどは欠片も気にせず、それでもちゃんと和解した。


 なかなかできることではない。


 本人は「いまだに悩みばかりで足が動かない」とか言っているけど。


 僕としては、十分なぐらいに動いていると思う。


 そうじゃなきゃ和解した王子たちを使っていろいろとやらないよね?


 うん。



 たとえばトイレ。


 アルフレートくんは、この国のトイレが不衛生だと思ったそうだ。


 慣れてしまっている僕には普通だけど、彼には大きなストレスだったらしい。


 じゃあ、どうするのかなと思ったら、彼は与えられている屋敷のトイレを改造した。


 しかも、職人に頼むのではなく自分の手で改造していた。


 材料も自分で買い集めていた。


 僕が同行したから、間違いない。


 自分で材料を吟味していた。


 これで終わりかと思えば、いつのまにかレイワイト王国のトイレ事情の改善と、それにともなう上下水道の整備事業が発足していた。


 王子たちを旗頭にし、三つの王家だけでなく、コーリン教からも多額の資金が投入され、実行された。


 そんなことに税金を使うなと反対する勢力もいたけど、相手にせずに放置。


 賛成している勢力の関係するトイレは綺麗になり、上下水道の整備が進められる。


 反対する勢力の関係するトイレは汚いままで、上下水道の整備があと回しになるだけだった。


 そんな扱いになっても、なにせ反対しているのだから文句も言えない。


 コーリン教関連はすべて協力姿勢を見せたので、トイレはすぐに綺麗になった。


 驚いた。


 トイレがあんなにも快適空間になるなんて。


 トイレって重要。



 次に食事事情。


 どうも、このあたりの食事がアルフレートくんの口に合わなかったらしい。


 なので、どこかから料理人でも連れてくるのかと思ったら、街に料理店を出す方向で話を進めていた。


 どうしてそうなった?


 いや、まあ、新しい料理を出す店ができるのはありがたい。


 試作で食べさせてもらった料理は、どれも美味しかった。


 母も喜んでいた。


 こういった料理を扱う店が増えることを期待する。


 期待するけど、なぜ代表者を王子にするのだろう?


 あー、いや、トラブル防止と考えれば無名なアルフレートくんよりは王子のほうが正解か。


 でも、どこで知ったのか、アルフレートくんの新しい料理のレシピを寄越せと商業組合が脅してきて、断ったら露骨に営業を妨害された。


 馬鹿なのかな?


 それとも代表者の名が王子であることを見落としたのかな?


 王子の後見人になっている貴族が、騎士団を率いて商業組合を脅し返した。


 ……


 正確に言えば、商業組合は潰した。


 王子の手がける店に手を出したら、そりゃそうなる。


 ただ、アルフレートくんが商業組合が潰れるといろいろと混乱すると言ったので、残すことになった。


 商業組合のトップを含めて上層部は総入れ替え。


 新しい商業組合はアルフレートくんの支配下に落ち着いた。


 まさか、店を囮に商業組合を手に入れる策だったのかなと疑ったけど……商業組合になにも求めていないので違うのだろう。


 新しい商業組合の頭が御用伺いに来ても、侍従に任せていたからなぁ。



 そして畑。


 畑仕事がしたいとアルフレートくんが望んだ。


 三つの王家とコーリン教は、土地が欲しいのかと用意に動いたけど違った。


 アルフレートくんは言葉通り、畑を求めただけだった。


 しかも、そんなに広くなくてよかった。


 アルフレートくんが望んだのは、家庭菜園を少し大きくしたぐらいの規模だった。


 それぐらいならと安堵した王家の一つが、所有している王城近郊の土地を与えた。


 ただ、アルフレートくんはこれを直接受け取らず、王子の一人に任せる形に。


 王都近郊の土地のやりとりは貴族がうるさいから、間違った対処ではないと思う。


 王家も王子も納得した。


 だが、世のなかには信じられない馬鹿がいる。


 なにも功績がないのに王城の近くに土地をもらうなんて、生意気だーと騒ぐ貴族の子弟たち。


 いやいや、もらってないから。


 土地の所有者は王子だから。


 アルフレートくんはそこを耕しているだけだから。


 そういった話が耳に入らない貴族の子弟たちは、部下に命じてアルフレートくんが耕した畑を荒らさせた。


 これにはアルフレートくんが大激怒。


 めちゃくちゃ切れた。


 これまでの温厚な態度はどこにいったのかと探してしまうぐらいに。


 アルフレートくんは、荒らした実行犯はもちろん指示した貴族の子弟たちを捕まえ、畑の横に埋めようとした。


 僕としてはそのまま埋めたほうが国のためかなと思いつつも……しぶしぶ止めた。


 裁きは王家に任せるべき。


 あー、アルフレートくん。


 生き埋めからはりつけに変更しろって意味じゃないから。


 少しして、磔になっている貴族の子弟たちの親が事件を知り、王家と減刑交渉。


 権利が細切れになって、なかなか活用できなかった王城近郊の土地の問題が解決した。


 王家は複雑な顔をしつつ、それらの土地をアルフレートくん……ではなく、アルフレートくんの代理人になっている王子の一人に渡し、管理を任せることになった。




 最後に無人島。


 アルフレートくんが、街は少し騒がしいからと人の少ない場所を求めた。


 それが無人島。


 三つの王家とコーリン教はその要望に対し、どこがいいですかと最重要機密の地図をアルフレートくんに提示。


 アルフレートくんが選んだのは……レイワイト王国を含め、周辺国から絶妙な位置にあり、それぞれが領有を主張したけど、開発するのが微妙に面倒で、結局どこも手が出せなくなっていた無人島。


 さすがにそこは問題が起きる。


 あと、その無人島に人はいないけど魔獣や魔物が多い。


 でも、アルフレートくんは向かった。


 王子たちを連れて。


 しかし、問題は起きなかった。


 なんでも、少し前に無人島の上空をドラゴンが飛んでいたらしく、魔獣や魔物は怯えて逃げたそうだ。


 アルフレートくんは幸運だ。


 そして、周辺国はなにも言わなかった。


 そちらは、コーリン教の最強武力集団が動いたから。


 母がやりきった顔をしていた。


 オブライエンさまも協力したのかな。


 いい笑顔だ。


 えーっと……それで領有はどうなったのかな?


 各国が領有の主張をひっこめたと。


 では、レイワイト王国の領有ですね。


 違う?


 レイワイト王国もひっこめた?


 そうなのですか?


 では、あの無人島の領有は?


 アルフレートくんの土地と。


 へ、へー。


 ん?


 あれ?


 それって、領主じゃなく王にならない?


 い、いいのかな?


 いや、いいんだろう。


 うん。





周辺国 「おいおい、勝手にあの島に入るのは許せんなぁ」

フーシュ「あそこは神の島となりました。文句があるなら武力でどうぞ」

周辺国 「……さすがにそれは増長しすぎであろう。生きて帰れるとでも?」

フーシュ「ドラゴン、観測できてますよね?」

周辺国 「なんだ、急に? 流れのドラゴンだろ? よく聞く話だ」

フーシュ「ですよね」

周辺国 「………………まさか?」

フーシュ「私としては、貴方たちに救いの手を差し伸べているつもりです」

周辺国 「コーリン教の利益のためではなく?」

フーシュ「貴方たちが無事に生存することが、コーリン教の利益です」

周辺国 「わかった。当面は様子を見る」


オブライエン「騎士団とか連れてくる必要、あったのか?」

フーシュ  「どこでも短気な者はいますから。上が納得しても……ほら来ました」

オブライエン「はははっ、よし陣を組め! 蹴散らすぞっ!」

フーシュ  「こちらも陣を! 駆け抜けますよっ」


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― 新着の感想 ―
ミケルは人族?それならフーシュも人族だったんでしたっけ? フーシュはあまりも武勇伝が多いので、魔族かと思ってましたw
フーシュの歳を重ねることで貫録が出たポーズに「両腕で挟んで寄せてあげる」というものがある、はずだ!経産婦だし(偏見)
始祖さん(cv小野D)のポーズが源流か。 フーシュさんはジョジョ立ち考察勢か。
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