ハイエルフの訓練とミヨの言い分
五村で、リリウスたちが単独で森に入る訓練が行なわれた。
リリウスたちは無事に戻ってきたらしい。
よかった。
しかし、隠れて同行したリアたちは不満だった。
あんな温い訓練で、役に立つのだろうかと。
俺としては、リリウスたちはまだ子供なんだから、温くていいと思うんだがな。
正直、単独で森に入ることにも反対したかった。
なので、リアたちがリリウスたちを大樹の村の周辺の森に入れようとすることには、全力で反対した。
冷静になれ。
リリウスたちはまだ子供。
同じく隠れてリリウスたちに同行したフウマは……
問題なし。
あ、リアたちを何回か糸で縛ったのね。
いや、謝る必要はないぞ。
リアたちがなにか変なことをしようとしたんだろ。
子供たちのピンチを演出する、みたいなことを。
止めてくれてありがとう。
そして今日。
リリウスたちのことは横に置いて、リアたちハイエルフが訓練として森に入る。
さすがに雪が積もっているので、安全を考えて数日で終わる予定だそうだ。
できれば、リアたちにも危ないことはしないでほしいんだけどなぁ。
「遠くまで行きませんし、森は私たちの庭です。
ご安心を」
そう言われると反対しにくい。
でも、追跡者役は必要なのか?
森に入ったリアたちを追いかけるのは、クロの子供たちの一団。
彼らはやる気満々ではなく……
渋々といった感じ。
寒いんだからコタツに入って温まろうよーと、不満顔の者もいる。
本来なら、冬に強いフェンリル一家やフブキを代表とするインフェルノウルフの亜種であるコキュートスウルフが適任なのだが、フェンリル一家やコキュートスウルフは冬の村の護衛の主力。
それを訓練で外すわけにいかないと、リアたちが遠慮。
コタツに入っているクロたちに頼み込んだ。
コタツのなかに逃げ遅れたもの、もしくはコタツのなかから蹴りだされたものが、ここに揃う追跡者役だ。
まあ、リアたちも無策で頼んだりはしない。
ちゃんとアンを呼んでいたらしい。
「追跡者がいないと緊張がありませんので」
そうかもしれないが……
その、訓練なんだろ?
やる気の少ないクロの子供たちが追跡者だと、不適格じゃないか?
俺の疑問にリアたちは目をそらした。
「村長。
やる気まんまんのインフェルノウルフを相手に、ハイエルフがどうこうできるとお思いで?」
しかし、リリウスたちの訓練が温いとかどうこう言ってたのに……
「いくら私たちでも、子供に素手でドラゴンに挑めとは言いません」
そ、そうか。
そのレベルか。
「それでは、訓練を開始します!」
リアたちはそう言って、森のなかに入っていった。
冬なのでそれなりの厚着で重装備なのに、雪面に足跡が目立たない。
すごいぞ。
ここから数時間後に、クロの子供たちが追跡を開始する。
のだが……
それまで待機はかわいそうだな。
よしよし。
時間まで遊んでやろう。
ああ、リアたちの訓練につき合ってくれる礼だ。
そんな俺の行動がよかったのか、悪かったのか……
やる気になったクロの子供たちにより、その日のうちにリアたちハイエルフは全員、捕まった。
無事に訓練が終了してよかった。
海綿。
海塩石鹸。
海藻石鹸。
シャシャートの街で最近になって生産、販売されている人気の美容用品だ。
美容関係には敏感なビーゼルの妻であるシルキーネさんも、注目しているそうだ。
なぜ、それらが俺の前に並べられたのだろうか?
並べたのはシャシャートの街から戻ってきたベル。
そしてベルは、隣室から縛られたミヨを連れてきた。
「ミヨはこれらの品の生産に関与しておきながら、村長に報告を怠っておりました。
これは反逆だと思いますが、どう処分しましょう?」
ベルが淡々とそう言うと、ミヨが慌てて抵抗した。
「ち、ちがいますやん。
反逆なんかするわけ、あらしませんやん。
誤解、そう、誤解なんですわ」
どうしたミヨ?
いつもと違って、変な方言が入っているぞ。
「どういった誤解でしょうか?」
気にせず進めるのね。
「決まってますがな。
これらは村長を驚かそうと準備していたサプライズなんですわ」
「これらはサプライズと?」
「もちろんですがな。
あとでパーッと発表して驚いてもらおうと思ってたのに、ベルやんが先走るからバレてもうたで」
「では、私腹は肥やしていないわけですね?」
「あたりまえや。
金は一切、受け取っとらんで」
「現物はもらってますよね?」
「あ、あれはサンプルですがな。
こんな感じの商品になりましたよーと」
「サンプルにしては膨大な数だったように思いますが……」
「ウチが配れば宣伝になるからと、多めにくれたんや」
「ビーゼルさんの妻であるシルキーネさん。
彼女が関わるアポロ美容店に、貴女を窓口に販売していると調べがついているのですが」
「き、貴族が関わる案件やから、それなりに対抗できんといいように扱われるやん」
「なるほど」
「わかってくれたか」
「判断するのは村長です。
では、次です。
シャシャートの街の周辺に、街を拡張していますね?」
「そ、そら。
シャシャートの街は拡張できる場所に限りがあるから」
「飛び地を多用していますね?」
「今後の拡張を考えてや。
シャシャートの街は交通の要所でもあるからな。
なんでもかんでも繋げたら、詰まってまう」
「ふむ。
では、飛び地なのは拡張性を重視して。
ほかの意図はないのですね?」
「あらへんで」
「では、シャシャートの街の北部……以前、爆発事故があった場所の近くにある飛び地ですが、そこで人工的な磁鉄鉱の生産をしていますよね?
これはなんですか?
厳重に隠されていたのですが」
「あー、そ、それは……」
「そして、シャシャートの街の北西部の飛び地では、新しく港を作ってますよね?
それだけでなく、化石燃料の加工施設まで建設してますよね?
これらに関して、一切の報告がありませんでしたが……
これもサプライズですか?」
「じょ、冗談。
冗談ですやん」
「どのあたりが冗談なのでしょう?」
「お、怒らんで聞いてくれる?」
「聞きましょう」
「多目的人型機動重機を生産するときに、必要な素材を先回りして用意しておこうと」
「なるほど。
高騰する前に買い占め、独占しようとしていたと?」
「そ、そこまで悪辣なことは考えてへんで。
老後を考え、ちょっと節約したいなーと思っただけで」
「老後対策にしては、過剰な金額になりますよね」
「物価も年々上がっているから、そんなに大きな額やないと思うで」
「額の大小の判断も、村長にお任せしましょう」
そう言ったところで寸劇終了。
二人して俺を見る。
いや、見られても困るんだが……
まあ、その、なんだ。
いまの会話の方向で、周囲を納得させたいというのは理解した。
こっちの財産を勝手に流用したとかじゃないんだろ?
報告が遅れた程度で怒らないよ。
俺の言葉に、ベルとミヨが安堵した。
まあ、文官娘衆とかから小言はあるかもしれないが。
そこは甘んじて受けるように。
「はーい」
で、ミヨ。
報告をしなかった本当の理由は?
「美容品関連は、いざというときに村長の奥さんたちへの賄賂と考えていたので」
なるほど。
「磁鉄鉱とか化石燃料は、王国時代の技術をなんとか復活できないものかと」
ふむ。
報告が遅れたのは、俺の周囲にドラゴンが多いからか。
「えへへ」
笑ってごまかさないように。
まあ、ドースたちが技術云々で気を配っているのも、安全を考えてだからな。
そう嫌ってやるな。
「はーい」
あ、俺からミヨに罰は与えないが、ベルが個人的にお仕置きするのはかまわないぞ。
「ありがとうございます」
「え?
村長?」
ミヨはベルに心配をかけないように。
とりあえず、人工磁鉄鉱と化石燃料の加工は……ドースに相談だな。
うるさくは言われないとは思うけど。
ああ、そうだ。
俺は部屋から出るベルを呼び止める。
キッシンリー夫妻の様子はどうだった?
「……真面目に働いていましたね。
というか、今回の件はその夫妻からの密告で判明しましたから」
そうなの?
「ええ。
ミヨに何度も意図した報告遅れはよくないと言ったけど、聞き入れられなかったと」
……なるほど。
キッシンリー夫妻は立場が弱いからな。
犯罪や不正ではないが、誠実でない行動を強要されると困るか。
ベル。
「はい」
ミヨへのお仕置きは、少しキツめに。
「承知しました」
すごくいい顔のベルだった。
Xにも書いたのですが、尻をやられました。




