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おっさんこわい

作者: 坂上周二

町で若いのが寄り集まって怖いもの自慢をしているときだった。

もちろん私には怖いものなど存在しない。ので、若い連中が次から次へと怖いものをあげていこうが、へのかっぱだといい連ねた。

蛇だ、狸だ、毛虫だ、お化けだ、もじゃもじゃもうねうねも私を驚愕させることなどありはしない。しかしここで一人の女が口を開いた。

「お前にはこわいものがないのか」

と女は言った。その瞬間私は総毛立ち、がたがたと震えだすこととなった。

今の今まで忘れていたというのに、私は心底怖いものを思い出してしまった。ああこわい、なんとこわい、といっていると皆が興味津々と言った様子でそれは何かと語りかけてきていた。

わたしはこう答えた。

「お、おっさんこわい」

「おっさん、それはどんなどうぶつだ」

「どうぶつじゃないんだ、そこいらにいるものなんだ。おお、思い出すだにおそろしい」

と私の顔色がみるみるうちに真っ青になっていくのを見、連中はひそひそと会議を始めた。寄り集まった一人が私に聞いた。

「それはどんなものなんだい」

「おお、話さなければならないのか、いやだいやだ、おそろしい。あのうえからじろりとにらみつける針のようにとがった目の恐ろしいこと!逆向きに、大地の理を無視して油でぎらりと撫で付けられたオールバックを見るだけでこの身が竦む。

口元、鼻下、はてにはあご周りにまで及ぶあのおぞましいもじゃもじゃよ!おお、背筋が凍るようだ!誰か、誰か毛布を持ってきてくれまいか。震えがとまらないんだ!」

そこまで一気にまくし立てると、私の身はがたがたと瘧にかかったように震えだしていた。

あわてて一人が座布団を敷いたので、私はそこに横たわると、次いで来た毛布を引っかぶり、顔をちらりもさせなくなった。

すると若いのはこれはおもしろいとくすくす笑い出し、私のあまりの挙動にこれは是が非でもいたずらをせねばと思い立ったようだった。すぐに数人が外へ出て、目付きの尖った、ぎらぎらとしたオールバックの、あごひげのおっさんを捕まえて戻ってきた。

連中は震える私の枕元におっさんをそっとおくと、そのままふすまの向こうへ逃げ出して、大きな声で私を起こした。

「ねえさん、もう朝ですよ、そろそろおきなってば」

「わかった、おきる、そのかわり、もうおっさんのことははなさないでおくれよ」

私が顔を出すと、目の前にはかっちりした服装のおっさんが正座していた。このとき彼は40近い年齢であったに違いない。大きな目は落ち窪み、鋭利な黒い瞳が異様な輝きでこちらを見据えている。頬が少しこけてみえた。

「ああっ、まくらもとに、おっさんが!うぎゃあああああ!」

叫びながら、私は彼の頭に手を伸ばした。波打つ髪は黒いばかりで、きらきらと輝いていた。

私は精一杯、うんと体を伸ばした。上へ上へ伸び上がり、撫で付けられた髪をくしゃくしゃに乱すと、冷たい瞳が不機嫌そうに細められた。

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