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それから数日の間、ルーチェはほとんど1人で過ごした。
ミロンドは朝早く出かけて、夜になると帰ってきた。ミロンドが買ってきた夕食を2人で食べてから、ルーチェは寝るという生活が続いた。
昼間の間、ルーチェは窓から人の流れを見たり、アーディンをかき鳴らして過ごした。
時々、フェルセが遊びに来てくれた。
フェルセは黙って占いのカードを眺めていたこともあったし、ルーチェと一緒に話すこともあった。また、2人でマーロの街を散歩することもあった。
そんなある日、サーシャがやってきた。
「ルーチェ、お母さんのところにいく?」
サーシャの言葉に、ルーチェはびっくりした。
「会いに、行っても、いいの?」
ルーチェは小声で訊いた。
「少しだけならね。だいぶ落ち着いてきたし、いいんじゃないかなと思って」
サーシャはルーチェを安心させようと、微笑んだ。
母に会いたい。
それはルーチェがずっと願っていたことだった。けれども、どこか不安はあった。自分の知らない間に母が変わっていたらどうしよう。ルーチェはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると
「行く」
と、答えた。
今日も朝からよく晴れていた。
ラーデン特有の強い日差しを浴びて、2人は歩いた。少し歩いただけで、ルーチェの額に汗がにじんだ。
「ねぇ、サーシャさん」
「なあに?」
「父さんはいつも、母さんのところにいるの?」
「ううん、いないよ。どこに行ってるのか、分からないね」
「そう、なんだ」
父さんはいつも母さんのところにいる。
ルーチェはずっとそう思っていた。思い返せば、父さんは昼間どこで何をしているか一言も教えてくれなかった。
「あの部屋にいないの?ルーチェ、1人?」
「うん、夜になるまでずっと1人だよ」
「ええ~!寂しくなかったの?」
「ううん、ソルシェも来てくれたし、大丈夫だったよ」
それでも1人じゃかわいそうよね。
サーシャはぶつぶつ文句を言った。