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「俺達はこれから出発するから、元気で旅を続けるんだよ」
次の日の朝、宿の食堂で朝食を食べていると、ミロンドさんがやってきた。
「どこへ行くの?」
ルーチェが顔を上げた。
「ルマ川を下って、ラーデンへ出るつもりだ。ルーチェは?」
「テスからウティへ向かうつもりだよ」
「そうか、気をつけてな」
ミロンドさんはうんうんとうなずいた。
相変わらずのいい男だよね、ミロンドさんって。大きくて、優しくて。ちょっぴり渋めで、強くて。
あたしはミロンドさんの横顔を見ながら、ぼんやりと考えていた。
そのいい男ぶりから、男女問わずファンが多いんだとか。そんなミロンドさんに愛された、アイリーさんはどんな気持ちだったのだろう。
あの日、不安になっていたあたしに声をかけて、おまんじゅうをくれたアイリーさんの事を思い出した。朝霧のような、美しさの中にもはかなさをもった人。
それに、アーディンの演奏はすごかった。未だにあの演奏以上のものを、あたしは聞いたことがない。今なら、体が勝手に動き出してしまうレベルだよね。もしかしたら聴き入っちゃうかもしれないかな。
「……しておいてね」
ルーチェがあたしを見ていた。
「ん?えっ?なに?ちょっとぼうっとしてた」
あたしが訊き返すと、
「全く。また寝てたんだろ」
ジトッとした目で見られた。
その一人息子、ルーチェはあたしの近くにいるが。
すっごく身近な存在なので、よく分からない。ただの友達って感じ。
「寝てなんか、いません」
あたしは反論した。
「はいはい。で、こっちもそろそろ旅立つから準備しておいてって、言ったの」
ルーチェがもう一度言ってくれた。
「あの、ミロンドさん」
ニーナが立ち上がった。
「ん?何だい?」
「あの……母のこと、よろしくお願いします。私、母のことをずっと憎んでいたんです。だからあんな事言っちゃって。でも、本当は、母は寂しがっていたんじゃないかって……」
最後の方は、言葉になっていなかった。
「大丈夫だよ。サーシャさんはそんなに弱くはないよ。ニーナちゃんも、大変だったね」
ミロンドさんはそう言うと、ニーナの肩をぽんぽんとたたいた。
「はい。どうもありがとうございます」
ニーナは涙を拭うと、しっかりとした声で言った。
「じゃあな」
ミロンドさんはそう言うと、片手を少しだけ上げて手を振ると、食堂を出て行った。
「……俺達も準備して、出発するか」
ミロンドを見送った後、エフェルが言った。
「ウティ、楽しみだね」
リュシェーナがうっとりと言った。
「なにが一番楽しみ?」
レイシアが訊いてきたので、
「それはもちろん、おいしいもの!!」
あたしは自信を持って答えた。




