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プラティ族は、旅を続けなくてはいけない。
てな訳で、サピドゥルの首都、シュロスタを抜け、北上することにした。目指すは隣国のウティ。何と言ったって、芸術と美食の国だもんね。おいしいものたくさん食べたいし、新しい衣装だって揃えたい。
なので、ウティまでの連絡船が出ているテスの街がとりあえずの目的地。距離としては、馬車で10日くらいかな。
シュロスターテス間は、プラティ族がよく通る道なので見慣れた感がある。あと、他のパーティにも出会いやすいんだよね。
夏の光がさんさんと降り注ぎ、昼間の旅はきつい時期になってきていた。幌の中にいれば少しはましだけど、馬たちは大変だと思う。
森の中に入ればまだましになるとは思うけど、周りにはそんなものはなく、畑ばかりが広がっていた。
行けども行けども同じ景色に飽きて、アーテルは馬車の隅で伸びきっていた。その隣でララが寝息を立てていた。彼女は昨晩一睡もせずに火の番をしてくれていたので、眠いに違いない。リュシェーナは一番後ろで、飽きもせずに景色を眺めていた。
ルーチェはアーディンでのんびりとした曲をかき鳴らし、あたしは衣装の繕いをしていた。
大きく変わったのはレイシアの位置で、今まではエフェルと一緒に御者席にいたが、すっかりニーナに奪われてしまっていた。今は静かに薬草の整理とかしている。
どうやらエフェルはニーナに一目惚れをしてしまったらしい。何かというと、エフェルはニーナの近くにいたがっている。
ニーナもそれを嫌だと思っていないみたい。むしろ、嬉しそうにしている。
ニーナは美人だし、エフェルもいい男といえばそうなので、2人並ぶと絵になる。
かわいそうなのはレイシアの方で、あたしやルーチェと一緒にいることが多くなった。仲の良いエフェルトニーナを見る度にため息をつくレイシアを、何とかしてあげたいんだけどね。
ちなみに、あたしもルーチェも、お互い好きだから一緒にいるわけではないんだよ。まぁ、弾き手と踊り手という関係だからっていうのはあるけど。ララとリュシェーナ、エフェルとレイシアというコンビを組んでたから、お互いずるずると一緒にいるわけ。
ヒヒーン、ブルルルッ
馬がいななく声とともに、馬車は急停車した。
「どうした?」
「どうしたの?」
あたしとルーチェはほぼ同時に、馬を御していたエフェルに訊いた。
「矢が、飛んできたんだ。ちょっと様子見てくる。ニーナは幌の中に入ってて」
「分かったわ。気をつけてね」
心配そうにニーナはエフェルを見送った。
「私も行くわ」
さっきの衝撃で起きたのだろうか?
ララが弓矢を手に取ると、馬車を降りた。
「リュシェーナ、何か気付いた?」
ルーチェが訊くと、リュシェーナは首を振り、
「馬車の後ろだけを見ていたから、何も分からなかったよ」
と、申し訳なさそうに答えた。
誰かに狙われる覚えは、ない。
強いて言えば、怪盗ヴィーヴォラが計画を邪魔されたことによる腹いせに、とか?シムドがまたちょっかいを出してきたとか?矢を放って威嚇するモンスターとか、ニーナの喧嘩相手とか。
考えても、分からないものは分からない。
「遅いね」
あたしが言うと、レイシアとリュシェーナがうなずいた。
「待つしか、ないだろう?」
ルーチェはアーディンを弾き始めた。
ゆったりと、落ち着いた曲。
「よく弾いてられるよね」
あたしの言葉に、ルーチェは何も答えず弾き続けた。
そう言えば、弾き手が楽器に魔力を込めると、聴いている人の感情を操れると聞いたことがある。
ルーチェはもしかして、あたしたちの不安を取り除いて、気持ちを落ち着かせる曲を奏でているんじゃないのかな?そう言えば、さっきよりも不安な気持ちがなくなったような気がする。
しばらくして、エフェルとララが帰ってきた。
「どうだったの?」
レイシアが訊くと、
「よく分からないわ。どこへ行っても誰もいないもの」
ララが首をひねった。
「何もないことが分かったんだ。先を急ぐぞ」
エフェルはそう言いながら、馬車に乗り込んだ。
「ニーナはそのまま幌の中にいてくれよ」
「分かったわ」
エフェルの言葉に、ニーナはそう言ったきり黙ってしまった。




