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ガラスの靴

 舞踏会の翌日、センデレスは王の部屋に呼び出された。

「おはようございます、父上」

「おはよう。ここに座りなさい」

「はい」

 王は、顎髭を撫でて息をついてから話を切り出した。

「舞踏会のことなのだが」

「はい」

「気に入った娘は居たかね? 今週いっぱいは、来客用の建物に泊めているから、今から会いに来させることもできるぞ」

「……友達になりたい娘なら」

「友達か。まあいい。それはどの娘だ?」

「猫人族の長の娘です」

「猫人族」

 王は目を見開いた。

「もしや、ゴニャムの娘か」

「ゴニャム?」

「わしが王子時代に旅をしていたとき、猫人族の村には世話になってな。そこで、ゴニャムというとても強い青年と剣を交わし、親友になったのだよ」

「その男が、今の長ということですか?」

「ああ。もし、お前とその娘が結ばれればとてもめでたいのだが」

 センデレスは、少し考えてから答えた。

「彼女は、私のことをあまり好いていないようです」

「ふむ。いつも言っておるが、お前は真面目すぎるのだよ」

「……大きなお世話です。そういうことではなくて……彼女には、他に好きな人がいるようなんです」

「何? そうだったのか。やはり、猫人の娘は、猫人の男のほうがいいということなのだろうか」

 落胆の表情を浮かべる王を見て、センデレスはいたたまれない気持になった。次の言い訳を考えていると、タイミングよく部屋の戸がノックされた。


「入れ」

「失礼します」

 部屋に入ってきたのは、若い召使だった。彼は、木の箱を持っていた。

「陛下、広間の端に落ちていたものをお持ちしました」

「落し物か。どれ、見せてみろ」

 召使は、木の箱を大事そうに机に置くと、ゆっくりとふたを開けた。そこには、小さな靴が一足入っていた。靴は、窓から入る日差しを浴びてきらきらと輝いていた。

「……ガラスの靴か。それも、一足」

「ええ」

「ふむ」

 王は指でとんとんと机を打ちながら、何かを思い出そうとしていた。

「そうだ。灰被り姫だ」

「灰被り姫?」

「ああ。ガラスの靴が出てくるおとぎ話があってな。ある架空の世界の城で、王子の妃選びの舞踏会が開かれた。王子はある娘にひとめぼれしたのだが、娘は時計を気にして名前も告げずに慌てて出て行ってしまった。王子はその娘を妃に迎えたいと言ったのだが、手がかりは、城の階段に落ちていた片方のガラスの靴だけ」

「片方の靴」

 召使がつぶやいた。

「そこで、王は、『ガラスの靴が合う娘を王子の妃とする』というおふれを出し、国中の娘にその靴を試させた。そして、靴が合う娘が見つかり、めでたく結婚したという話だ」

「……父上は、何をおっしゃりたいのですか」

「それはもちろん、この靴の持ち主を探して、その娘とお前が結婚することを勧めようかと」

「おとぎ話と一緒にしないでください。しかも、その話では靴は片方、こっちはご丁寧に一足落ちています。わざと置いて行った恐れもあるではありませんか」

「みもふたもないことを言うでない。我が息子ながらなんと無粋な。……しかし、お前は自分では決められないのだろう? ひとまずこの靴が合う娘と一緒に過ごしてみなさい」

「それは名案でございますね」

 召使はにこにこしながら言った。

「そんな」

「仕方ないだろう? いずれお前は王位を継がねばならないし、これも国の未来のためなのだから」

 父の言葉が重くのしかかり、センデレスは頷くしかなかった。



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