すりこみ
初投稿です。
どうぞ宜しくお願いします。
すり込みとは、恐ろしいモノである。
なにしろ、理屈が通用しない。
生活レベルや立場の違いだとか、全てをとびこえて理不尽なほどの好意を寄せてくる。
幼い頃、目の前の人物は人見知りで無口だった。
当然友達も少なく、どちらかと云えばいじめられっこで。
そんな彼をかばったり、かまったりしたのは私の性分だった。
江戸っ子なおじいちゃんを持つ、おじいちゃんっこの私は、義理人情を重んじる鉄火な子供だった。
母から、鉄火マンなどと揶揄されるくらいには。
「べらんめぇ、弱い者いじめなんてやってんじゃねぇよ。ほら、こっち来な。あたし達といっしょに遊ぼ!!」
今思うに、時代劇にでも出てきそうな子供だった・・・。
思えばその時、絶対の愛情とやらを抱かれたに違いない。
そのころ、やたらとかまい倒していたのは確かに私の方だった。
でも、子供のすることでしょうに。
その子がいい家の坊ちゃんで、庶民の暮らしを知るために公立小学校へ通っていたと判ったのは卒業式の日。ほとんどがそのまま公立の中学に進学するというのに、その子だけが有名私立に進学する事を先生が話した時だ。
その時から、その子との接点は無くなった。
今みたいに、携帯だのスマホだの無かった時代だからね。
LINEなんかでつながってなどなかったんだよ。
そして、中学一年生の時点で普通の女の子にシフトチェンジをした私にとって、鉄火マンは黒歴史となった。いや、みんな知ってたけどね。小学校いっしょだったんだから・・・。将来クラス会なんかで、そこをつつかれると私が暴れ出すからそっとしておいてくれたなんてことを思い出話に話されそうで怖い。
で、いま。
入社式で、新社長就任の話は聞いていた。
名前を聞いて驚いたことに、あの子だった。
いやー、飲み会の時のネタが出来たわーなんて。そんな事をのんきに思っていたあのときの自分をはたいてやりたい。
私の配属先は総務だったはずだ。
なんで、秘書課。
秘書検定など、一度も受けた覚えはない。私が受けたのは簿記とパソコンの各種スキルとTOEICだけだ。声を大にして訴えたら、秘書室長にうすら寒く笑われた。
そんな資格いらないらしいからって。
なんで、どうして。その疑問はすぐにはれたけど。
・・・私は普通のOLを希望していたんだ。オフィスレディだ。オフィスで働きたいのだ。
なんで、社長の自宅で社長のお膝にのっていないといけないのか。
それが業務だって、誰が決めた。
あなた、こんなことやってる場合ではないでしょう。会社行きなさい。
自宅で仕事するんじゃありません。
社長がドウシテも必要に駆られて外に仕事に行く時、ドウシテ監禁されるのかな?
400字詰め原稿用紙三枚以内できっちりと説明して欲しい。
入社式の後、あれよという間に連行されて、奥様なんて呼ばれて。
奥様は業務じゃないでしょう。
いつの間に婚姻届なんて出ていたのか。
サインなどした覚えはないとわめいたら、社員契約書の下にカーボン用紙と婚姻届引いていたんだって。
カーボンでのサインとか。何で受理した役所。そんな書類無効だろう。え、その辺の細工は上々だと?
私の同意はどこに行った!え?一年生の時お嫁さんになってくれるって云った?ああ、そんなこと云ったかな。って。子供の口約束だし。
家族が心配してるから・・・え!?家族も知ってる???
玉の輿だって喜んでるって???
いつの間に囲い込まれた私。
いまだにシャイで無口な、あの子から彼になった人にあっという間にほだされて、名実ともに夫婦になったのは、つい先日の話。
無口なぶん観察眼が鋭くて、私がまんざらでもない事など早々に見抜かれていたらしい。
でも、これはないだろうよ。
ああ、これから時間をかけて教育して監禁を解かさなければ。
人の嫌がることをしてはいけません。
人の意志を無視してはいけません。
まずはこっからだな。
他の人に出来ないなら、私がやるしかあるめぇ。てやんでぇ、べらんめぇ。
こちとら江戸っ子でい(じいちゃんが)。
一年生の時のプロポーズ、いつも強気な私が恥ずかしさにもだえながらウンと言った時のことは強く脳内レコーダーに記録されて、随時脳内再生されていたらしい。
すりこみ・・・というより執着?
見た目とスペックは平々凡々を地でいく私と、全てがやたらハイスペックなくせに中身が非常に残念な彼との、物語が始まろうとしてる・・・のかな?
がんばろ。
素人の拙作、お目通し頂いて感謝申し上げます。