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真名は魂を縛ります
高瀬青年は困ったように笑った。
「ごめんね、見ず知らずの男と二人きりなんて嫌だよね。」
「いえ、こちらこそお世話になります。」
そんなもの欠片も気にしていなかったのできちんと否定したいが、今は頭痛と眩暈であまり流暢に喋れない。
「でもこれだけは信じて。この家は綺紗が幸せで充実した生活を送れることを保障する。」
(ーーーまた…)
高瀬青年が“綺紗”と言うと、何故か症状が治まっていく。
黒泱綺紗。
母の友人と出来たばかりの友人しか使わない名前だが、呼ばれても症状が治まったことはなかった。
「綺紗?」
若干眉尻を下げた青年が、また私の名前を呼ぶ。症状は完全に治まった。
「……名前」
「名前?」
「あ、いえ…………燈夜さん。と、お呼びしても構いませんか。」
「勿論!お兄ちゃんでも良いよ!」
「燈夜さん、で。」
咄嗟に思いついたことを口にしただけだったが、思いの外青年が喜んでくれたので安堵する。
「よろしく、綺紗。」
「…よろしくお願いします、燈夜さん。」
「うん、ふふ。」
不思議なくらい優しい顔で笑うので、何故だかほんの少し、罪悪感が生まれた。