親の心は子知らずといったものです
『明人さんが職場で火傷して入院する。帰らないから高瀬さんのお宅にお世話になって。』
早朝、初めて母からメールが来たと思えばこれだ。因みに明人さんとは父親である。顔を合わせたことはない。
高瀬さんとは父親の勤め先の社長で、風邪で倒れた時第一発見者となった母の友人の旦那様だ。
メール画面の下部に記入された住所を見ると県外だった。更にその下には別の住所と学校名まであった。どうやら転校するらしい。巫山戯るな。
今の私が母親がいなければ困ることなど金銭面とたまにある学校の書類以外ないのに、何故漸く友達の出来た学校を転校しなければならないのか。正直母親に反論するのは全身が震えるが、なんとか考え直して貰おうと改めて携帯画面を見ると新着通知の文字
『転入手続きは高瀬さんか済ませてくれたから、必要な荷物を持って夕方までに高瀬さんの家に向かって頂戴。』
早すぎる。
養って貰っている身で不満など言えたものではないが、あまりにも突然で此方の意思などお構いなしな内容に、読んだだけで気力が削られた。
生まれて初めての母親からの会話がこれか。
肺に取り込んだ空気を全て溜息に変えて、窓の外を仰ぎ見る。
見事な快晴だ。
晴れた空を見ると、このまま飛んで何処かに消えてしまいたい気持ちと何かに急かされるような焦燥感が芽生える。
前者は純粋な気持ちだが、後者は自分でもよくわからない。
けれどこの家から飛び出して自由になれるならなんだって良いとさえ思うことがある。
今まで母親を一人にしてしまうのが心残りで実行出来なかったけれど、他所へ放られるくらいなら最初から逃げ出していれば良かった。