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俺は高校教師になって駅伝部の顧問をやることになった  作者: 糸魚川孝紀
顧問就任1年目
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プロローグ

 ―――――――新潟の秋も終わりかけだ。雪が降る手前の11月下旬、外では冷たい風が吹き荒れる。

 こんなクソ寒い中、私立二ノ丸高校では教員の中途採用試験が行われていた。もちろん俺はそれを受験しにきているわけだ。

 いや、ここは「ブラック企業からの退却をしにきてる」とでも呼ぶべきか。労働基準法を明らかに無視しているブラック企業を退職するために、上司にネチネ文句を言われながら有給をとった。絶対に……ぜーったいに受かりたいんだよこの試験!!

 近年は不景気で教員が人気だ。そのせいで倍率は5倍、かなり厳しい試験になっている。

 しかも試験は筆記と面接の豪華2本立て。午前中の筆記はどうにかなったが、俺は面接が大の苦手だ。シーンと緊張した雰囲気が生理的に無理。就活でも結局最後までそれを克服できず、何も話さなくても笑顔で俺のこと受け入れてくれたブラック企業に入ってしまったのだった。

 筆記試験そっちのけで面接は前日まで何度も練習したが、やはり不安は拭い切れない。直前の休み時間もずっと落ち着かずにいた。

 面接試験の時間になり、係員に従って控え室に移動した。面接までの待ち時間は色んなことが頭を巡り完全に疑心暗鬼になった。

 本当にもう死にそうだった。どうせこのままブラック企業にいても死ぬ運命しかないと分かっているが、それにしても今の状況は死にそうだった。

 廊下で15分くらい待つと俺の順番になった。隣接する面接室にノックをして入る。

 ガチャリとドアを開けると、暖房の生ぬるい風が俺の頬を掠める。とても暖かい。

 座っていた面接官は2人。堅物そうなおじさん達で、俺のことをガン見してくる。ちょっとマジで怖い。手に汗握りながら面接用のイスの横に立つ。

「お名前をお願いします」

「はい。栃岡翔と申します。よろしくお願いします」

「では座ってください」

「失礼します」

 ゆっくりとイスに腰掛けた。座り方を確認し、再び面接官達を見る。

 うわぁめっちゃ堅物そう。やっぱり私学の高校教員だからなぁー。どんな顔して怒ったりするんだろう…

「初めの質問ですが、なぜ教員を目指そうと思ったのですか」

「はい。それは、学ぶことの喜びを ーー」

 次々とありきたりな回答をしていく。教員の採用試験はテンプレが命だとネットで書いてあったが本当だったようだ。うんうんと頷く面接官たち。

 ブラック企業からの脱出を共謀した同僚との練習の甲斐もあり、ここまでは順調だ。自分のボロが出てしまう前に終わらせなければ……

 面接官達は2人交互に質問を浴びせている。彼らも彼らでありきたりな質問しかしないが、まだまだ気は抜けない。

 3つ目の質問になった。

「では教員になるにあたり、本校を選んだ理由をお答えください」

「はい。理由は2つあります。1つ目は、高校時代に学んだこの学校に恩返しをしたいと思ったからです。2つ目は男子駅伝部の活動に携わりたいと思ったからです」

 面接官達は顔をしかめ、なにやら相談を始めた。おいマジかよ。やっぱり二つ目の動機が部活ってのはマズかったのかぁ………… 二ノ丸高校って進学校だし、そう考えると勉強のことももうちょっと触れた方がよかったかな?

 自分が駅伝部のOBだからって、それを押しすぎるのは良くない。それこそ今の駅伝部の様子はまったく分からないしーーー

「栃岡さん」

 2人のうち、年増の面接官が口を開いた。

「は、はい!」

「すばらしい動機じゃありませんか。駅伝部を指導したいんですよね?大歓迎です」

 え、えええ?

 なんだこの歓迎ムード、願ったり叶ったりだ。強化もしてない駅伝部の顧問が好印象?信じられない!

 難関と評される教員採用試験で、こんなことが起こるなんて!

「本当に、良いんですか?」

「えぇ、ぜひともお願いしますよ」

 俺は深々と礼をし、床の木目を見た。

「こちらこそよろしくお願いします!」

 それは木枯らしの吹く、寒い日のことだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >私は実は高校駅伝は1回しか走ったことないのですが、 同じ経験者です 導入部分が面白そうですね
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