ワープ
何時も通りの時間に目覚め、何ら普段と変わらぬ朝を迎える
昨日初めての覚醒を経験したとしても 普段と変わりはないらしい
身支度を整え、食事をするために食堂に向かう 宿屋の受付に座っている女将のリーンに挨拶をし食堂の扉を開いた。
中には既に食事を終えた冒険者達が、今日は何する? どこそこの店の娘が可愛い、とか思い思いに語っていた。
食堂のカウンター越しに朝食を頼む メニューは、パンとスープとサラダと紅茶を頼んだ。 いつものようにパンとスープを2度おかわりして、食事を終えた。
リーンに鍵を預け冒険者ギルドに向かう きのう覚醒をしたので、今日からEランクの冒険者だ。
ギルドに入ると中は、冒険者がまばらにいる程度で、おもっていたよりは静かだった。依頼の貼ってある掲示版に向かい Eと書いてある依頼を見回していく、雑事系依頼が多いがちらほらと討伐の依頼もあった。
一通りの依頼書を確認したあと ダークウルフ討伐の依頼に手を伸ばした。 この依頼にしたのは、報酬がいいの一言に尽きた。
※ダークウルフ討伐依頼 報酬は、1頭当たり1000G 証明は、ドロップアイテムの提示 追記 少なくとも10頭以上討伐されたし 場所は、1番ダンジョンの西側の森付近
ダークウルフは群れで狩りを行う魔物で、少なくとも10数頭で群れているので、一度に大量に稼げるとおもったからだ。
1番ダンジョンが何処にあるかは解らないが、このパーン商都からセルラト平原にあるダンジョンには、巡回馬車が有り、どのダンジョンへも半日もかからずに行ける
「この依頼を受けたいんですけどいいですか」
「あっユーくんおはよ~」
レミーにあいさつを返し依頼書を渡す
「ダークウルフ討伐依頼ね Eランクの依頼だけどいい?」
頷きランク確認のため左手の腕輪にステータスを表示させ見せる
「Eランク確認できました」
事務的な返事の後にレミーは、ユークに何か言いたげな目で見つめていた。
「な なにか?」
「あのね ユーくん その装備で行くつもり?」
「何かおかしいですか?」
「ダークウルフの特性てしってる?」
「一応はしってますけど・・・」
「知ってるならいいけど 群れでこられたら その装備じゃ危ないんじゃないかな~って、思ったの」
確かに普通のEランク冒険者なら危ないかも知れない、ましてやし単独での狩りとなると心配されるのも当然だ。
ユークの場合、母アルバに引き分けた事もある。 実力的にはEと言うよりBランクに近いので、気付けなかったのだ。
「確かにこの装備だとキツいかもしれませんね」
レミーの好意を無にするのも気が引けるので、軽く同意しておく
「もし 装備の強化をするなら 良い武具店を紹介するけど」
もとより装備の強化も必要だと思っていたので、紹介してもらうことにした。
武具店の場所を聞き、レミーにお礼を言ってギルドをでた。 紹介された武具店は、南門から西門に向かう途中にあるバーナード武具店だ。 目的の武具店に入ると中はかなり暑かった。
「いらしゃい なにがいるんだ」
奥から金づちを持った小柄な男が出てきた。
「冒険者ギルドで紹介を受けてきたんですけど、片手剣と何か良い防具ってありますか?」
男はユークの上から下までをざっとながめ、笑顔で頷いた。
「片手が良いのか? 他にも色々あるぞ」
「まだ片手剣が一番使いやすいので、片手剣でお願いします」
そう言うと、ちょっと待ってろと言い残し奥に入っていった。
男は片手剣2本と防具数点を持って出てきた
「片手だと この2本がおすすめだな」
カウンターに置かれた2本は、エストックとレイピアだった。
両方を手に持って、感触を確かめさせてもらったが、どちらもしっかり手入れされており手に馴染んだ
「どちらが丈夫かといえば、エストックの方だが、レイピアも軽くて使いやすい、どちらにしてもそのダガーよりは4ランク以上 上の品質だぞ」
見た目もそうだが手に持った感じだと、扱いやすさも段違いだった
「値段聞いてもいいですか?」
「レイピアが1万5千で、エストックが3万だ 多少値は張るが一級品だと相場だぞ」
確かに高いのだが武具が高いのは当たり前の事で、ましてや〇〇の剣とかの名前の無い剣とは違い、レイピアやエストックと名前のある武器は高くて当然である
長持ちしそうな理由から エストックを買うことにした。
「あと防具だが今の防具と同じ様な感じだと、竜革のジャケットと靴か、硬革のジャケットと靴、後は鎧系があるが どれがいい?」
竜革製の武具は、防具の中でも最高峰の武具だ。それだけに値段も桁違いに高い。硬革製は、安価で防御力もそこそこで広く冒険者に人気の防具だった。
(鎧は重いから辞めた方がいいかな)
「竜革と硬革の値段教えていただけますか?」
「おうよ 竜革が各1万 硬革が3千だ」
「エストックと硬革のジャケットと靴を下さい」
「あいよ! あわせて3万6千だがギルドの紹介なら 3万5千にまけといてやるよ」
「いいんですか!」
「ああ 今後もよろしくって、挨拶代わりだ」
お礼を言い金貨3枚、銀貨50枚を支払い手入れの仕方も聞きすぐに防具を付け替えた。 革の装備をリュックに入れいちど宿屋にもどった
「お帰り~早いね~」
リーンに、荷物を置きに帰っただけだと告げ、鍵を受け取り部屋に入り、リュックから出してポーチに移した。
もう一度身支度を確認して、今度こそ依頼に向かうべく宿を出た。
商人ギルドに行き、1番ダンジョン方面の乗り合い馬車に乗り込んだ。セルラト平原には、1~5番ダンジョンの5つのダンジョンがあり、この番号は、大きさの小さい方から振ってある。目指す1番ダンジョンはセルラト平原の南西にあり商都から馬車で3時間弱で着く
乗りあった冒険者は居なかったのだが、既に1回1番ダンジョン方面に馬車が出ており、たまたま武具屋に寄って遅くなったので人が居ないだけらしい
セルラト平原は、平原といっても小さな森林があっちこちにある。 依頼のダークウルフもそんな森林に巣を作っている。
1番ダンジョン近くで馬車を降り、ダンジョンを横目に西に向かう 15分ほど歩くと森が見えてきた。 さらに15分歩き森の近くに到着した。ここで探索のスキルを発動する。
近くに魔物の反応が3箇所確認できた。どれもが複数の群れなので、目的のダークウルフだと思われる。
この森は、この3つのグループの縄張りなのだろう
一番近くのグループに向かって駆けだした、しばらくすると16頭前後の、ダークウルフの群れが視界に入った。木の陰で呼吸を整え群れの真ん中目掛けてファイアと念じた
途端 群れの真ん中に紅蓮の炎が巻き上がった。 密集していたので効果は抜群だった。その後もファイアを連発して、あっさり討伐完了となった。ドロップアイテムを集めたが皮しかなかった。
もう一度、周囲の気配をみるもこちらの異変に気づいたのは居なかった
次の群れも直ぐに見つかる 探索さま様だ
同じ様に群れの中に魔法を打ち込み 今度はエストックを抜き駆け寄った
ユークの存在に気づいたダークウルフが、大きな雄たけびを揚げ仲間に合図を送る。 いっせいにユークに向き直り突進してきたが ダークウルフの動きと言えど母アルバの動きには劣り、ユークには丸見え状態なのだ。
1頭、また1頭と交わし様に胴や首を刎ねていく、ものの2・3分で残りを殲滅していた。
辺りは一面血の海となっていたがしばらくすると吸収される
この世界は、魔素で出来ているからだ。 魔素とはそもそも、魔法であったり、魔物であったりと、すべての源なのだ。大地は魔素を吸収して生きている。ただ 所々で魔素が溢れ、そこに動物が長時間触れると魔物化してしまうのだ。
ゴブリンやオーク等の人型の魔物も元は、人間の死体から生まれたとされている。
そんな大地が魔素を噴出して出来るのがダンジョンであり、放置しておくとダンジョンは、無限に成長を続けていくのである。ダンジョン内で魔物を討伐してもしばらくするとリポップされるのは、魔素の吸収より噴出す方が多くて吸収されてもすぐ吐き出されるからである。ちなみにダンジョンが成長しないのは魔物を倒して出るドロップアイテムをダンジョン外に持ち帰るので、バランスが取れてて成長しないのだ
逆に言うならダンジョン攻略の冒険者が多いダンジョンは、ダンジョンが消える場合もある。しばらくすると同じ場所で魔素が噴出されて、またダンジョンができるのだが・・・
残りの群れも魔法と剣で屠りアイテムを回収してワープで宿屋の裏庭に出た。宿屋の裏庭は、何も無くて人も寄り付かないと知っていたからだ。ギルドに向かい、受付のレミーに依頼の終了を告げ、ドロップアイテムを見せた。
レミーは、ドロップアイテムを数えるのも忘れ固まっている。
「レミーさん?」
問いかけに我に返ったようで、何か解ったとばかりに頷いて言葉をはいた。
「余りにも早いからちょっとね」
そうなのだ、ユーク自身も忘れていたが往復6時間はかかる道のりで、さらに討伐までしてるのに、出かけてから5時間もたっていないのだった。
行きは3時間馬車に揺られていたが、帰りはワープで一瞬で移動してしまっていたのを、すっかり忘れていた。
余り知られるのもまずいと態々 宿屋の裏庭に移動したにも関わらず時間までは、気が廻らなかったのだ
確信をつくレミー
「ユーくん ワープのスキル持ってるんだ」
「・・・・・・」
黙して語らず
「沈黙が肯定って、言葉しらないの?」
とレミーは微笑を浮かべていた
「あまり 教えないほうがいいかな~と」
ぼそぼそ囁くユークに理解しているレミーは、あわせて、声を小さくしてはなしかける
「そうだねー でも、もうわかっちゃったし」
「・・・」
「他の人には言わないから安心して、もっともレアだけど、他にも持ってる冒険者は居るからね。でも貴重なスキルもってるね! 冒険者として有効だよ」
その通りである 冒険者は、基本移動が多い職業だ。」大半を移動と事前調査に費やされるのが常で、そのどちらにも移動系スキルは役に立つのだ。
「あ あの このスキルに付いて詳しく調べたいんだけど 本か何かありますか?」
「ここのギルドにも資料室は有るけど、レアスキルについてのものは無いわね ほとんどの人が持ってるスキル関連の本や文献は有るけど・・・ 」
「そうですか・・・」
「王都の図書館に行って見れば? あそこなら確実にあると思うわよ!」
王都の図書館にはもともと行くつもりだったので、機会があれば行って見ますと答えておいた
思い出したかの様にドロップアイテムを数えて、今度は、数の多さに呆れていた
皮が42枚牙が2本で討伐数は、44頭となる
「ユーくんってちょっと変!」
「変って・・・」
「だって Eランクになって直ぐなのに、たとえ移動系スキルが使えるからと言ってこんな短時間で44頭もダークウルフを狩れるなんて、普通じゃ絶対むりだよ」
「えっと その 魔法も何個か使えるようになったので、密集してたから楽に倒せたんですよ」
苦し紛れの言い訳もしてみた
「あら 魔法も使えるの なら理解できるわ」
あっさり納得してもらえたようだが このあともう一度呆れ返してしまうことになる。
報酬の4万4千Gとアイテムを受け取り 買取カウンターに持っていった。
アイテムを売却して、220X42+450X2で1万140G を受け取った。本日の報酬は5万4千140Gで、買い物分は帰ってきて、少し浮いた。
時間的にお昼を少し廻った所なので、もう一度依頼の掲示板を見に行ってみたが雑事系しか見当たらなかった。
暇なのでDランクの依頼も見てみると こちらは討伐系の依頼しかなかったが、ダンジョンに関しての依頼は無かった。
気になったのでレミーに聞こうとレミーの前に進む
「レミーさんちょっといいですか?」
「なに? 依頼?」
「いえ ちょっと聞きたいことが・・・」
最初ナンパはいいけど休みが~とか自己妄想爆発だったレミーだが、ユークの全力否定に項垂れていたのだが
ユークがダンジョンの依頼が無いことを聞くと つまらなそうに教えてくれた。ダンジョンは、入る事で経験地とアイテムが大量に獲得出来る可能性が高いので、依頼にしなくても冒険者が集まるから、依頼として出す必要が無いのだそうだ。ついでに商人ギルドから王都まで、ワープで連れて行ってもらえる移送屋が居ることも教えてもらった。
ユーク自身ワープは使えるのだが、一度でも行った事のある場所にしか移動できないので、ワープを使うなら一度は行っておく必要が有る
レミーがギルド長と相談した結果、ワープを使ってる所を見られると困るだろうと言うことで、使ってない倉庫なら自由に使っていいと言われた。もちろんギルドの個別依頼を受けるのが条件だが、広く知られるまではしかたがないので了承しておいた。依頼の内容次第で、と断りは入れておいた。
(ダンジョンか いいな~)
もとよりダンジョンに行きたかったユークは、後一つランクが上がればと、何の気なしにステータスを確認してみたら
赤になっていたのだ
そんな様子を眺めていたレミーだが赤の文字に固まっていた。
きのう覚醒したばかりで、もう次の覚醒になってるのだ当然である
「ユーくん やっぱり変だよ」
また言われてしまった。
「昨日だよ覚醒の儀式したの。どうやったら1日で次の覚醒になるのよ!そんなの今まで見たことも聞いたこともないわよ!」
カウンターから乗り出し、ユークの顔に詰め寄るレミー
「ち ちかい・・・」
ユークの言葉に「はっ」となり、真っ赤な顔をして、離れた しばし頭から湯気が上がっていたように見えたが気を取り直して
「昨日あれから何か倒したりした?それとも今日ダークウルフ以外で何か倒したとか?」
「昨日少しワープと魔法の練習がしたくて、サラスの森まで行ってきたんですけど、そこでオークの集落を見つけたんで、オーク相手に魔法の練習してきた位かな~」
「オーク倒したの あれってCランクの魔物だよ は~ 無茶するね~」
ふつうはそう言う態度になるのが普通なのだがユークの場合、アルバと共にオークは何度も討伐しており言い方を変えれば慣れた相手だったので、オークが手ごわいとすら思っていなかった。
「オークの集落潰せば、EからDランクに位 直ぐ上がるわよね!納得したけどこんな無茶してたら、幾つ命があっても足りないわよ 今後はよく考えてね」
しぶしぶ納得してもらったが しっかりお説教もいただいてしまった。
「で、覚醒していく?」
レミーに頷き金貨10枚渡し昨日も案内された奥の部屋に入った。
覚醒自体は昨日と同じなので割愛する
ステータスを確認して、ランクがDになってるのを確かめた。色も白で、まだ成長できることにほっとした。 一度商人ギルドから王都にいって、帰ってくるから倉庫を使うことをレミーに断り冒険者ギルドをでた。