まんぷく亭
コンラット戦技大会も無事終わったのだが、街は開催前よりも賑やかだった。
ユークに憧れてと言うよりもコンラット騎士団の強さに憧れた冒険者が、近くに居れば自分も強くなれる。
もしくは強くなる為のヒントなりを探れると思い移住して来たからだった。
当然ギルドや国は大歓迎ではあるが、その分無法者が増えるのは道理であった。
治安の良さゆえ街の巡視等は全く行っていないコンラットだからこそ無法者が集まり出すと止められないと言う欠点もあった。
流石に殺人等をすると国が黙っていないと知ってるのだろう、そう言う犯罪は起きていないが、喧嘩や人攫い等は報告されて来ていた。
ユークは何とかしようと街の巡視を騎士隊に求めたのだが、ダンジョンの警備等で人手が足りないと余り効果は良くなかった。
セドリックもどうにかしようと考えていた。
「ユーク様、ドリー様の店を市街警備の拠点にするのは如何でしょう」
「???」
「街の治安維持は市民に任せるのです。 ドリー様の店なら国営ですし無法者も手が出せません。」
「違う区域で起こる犯罪は抑えられないよ?」
「はい全区域に国営の店を作ればいいのです。店は武器屋でも娼館でも何でも良いのですよ」
「国で娼館を経営するの?」
「いえ、国営の名前だけ与えるのです。後は国営店で情報交換して貰い。無法者が現れたら知らせて貰えばいいのです」
「それだと国営にしなくても良いと思うけど?」
「国営にして減税等の待遇を与えてやると裏切りません。無法者達との癒着も防げます。」
「成る程、最高責任者を本当の国営のドリーさんの店にする訳だね」
「そうです。この国は良くも悪くもユーク様の威光で成り立ってます。ましてやユーク様の優しさや怖さも世界中に知れ渡ってます。至る所に監視する店が有ると知れれば無法者も大人しくなるでしょう」
良い考えだとカーラ達も頷いていた。
あらゆる職種に国が関与していれば自ずと犯罪も減るだろうと言う事だ。
店の選別もセドリックが責任を持って信用の置ける店を探してくれるらしいしもし造反すればきつい処罰を与える事も通達するとの事だ。
当然旨みが無ければいけないという事で、税金の免除や他国との優先的な取引等も掲げる。
了解したユークはミーシャとリオをつれてドリーの店に向かった。
元の建物の使い回しなので外観の工事はしていない。
内装もワンフロアと調理場と化粧室位なので既に終わっていた。
「こんにちわ~」
「あら、ユーク様、店の視察ですか?」
ドリーが調理場から顔を出して聞いて来る。
「そうです。それとドリーさんに話がありまして」
「私に話って、もしかしてプロポーズ?」
「そんなわけ無いです。ドリー様はまだ懲りてないのですね」
ドリーの言葉にミーシャが答える。
「じょ、冗談よ!ミーシャ様ったらレミーより冗談が通じないのね」
「レミーのお母様だから我慢してますが、ご主人様にまた何か迷惑をかけたら第一王妃の権限で死を与えますから覚悟しておいて下さい」
ミーシャが脅して震える振りをしながらドリーはユークに抱きつこうとしてくる。
「それ以上ご主人様に近づかないで下さい」
リオに止められて渋々ドリーは離れた。
ユークはドリーにセドリックと話した事をドリーにも話した。
「解りました。何か有れば此処にはジャネット、ジャニス、ジョアンと言う元冒険者も居るからね。」
そうなのだフレイザーの奴隷だった3Jが今はドリーの奴隷としてこの店で働いている。
「彼女達はあくまでも国の管轄ですから本当の奴隷の様に無理はさせないで下さいね」
ミーシャの言葉にドリーは『解っている』と、答えるのだった。
「他の店はこれから選抜するのでまだ決まってませんが、元締めはこの店でドリーさんに担当して貰います。何か有ればギルドにも話を通しておきますからギルドか城に連絡下さい。」
「解りました。それよりも大事な事が決まってなくて店が開けられないんですよ」
「店って、もう営業できるのですか?」
「はい、ジャネット達も料理や給仕は得意だったから直ぐにでも開店出来ます。」
「そうなの?」
ユークはジャネットを見て聞いてみた。
「はい、ドリー様にもご指導して頂きましたし元々フレイザー様の食事から身の回りのお世話までしてましたから得意なんです」
「そうなんだ。それで大事な事って何?」
ユークはドリーに視線を向け直して聞いてみた。
「名前ですよ!店の名前が決まってないんです。」
確かにユークも考えてなかったが名前位なら好きに付けてくれても良いと思っていた。
「名前なら好きに付けて下さい」
「ですが国の店ですから勝手には付けられません。ユーク様が決めて下さい」
ぱっと言われて思いつくはずも無かったが、名前さえ決まれば今からでも開店できると言われると考えるしかなかった。
「何か候補とか有ったら聞かせてくれないかな?」
ドリーも一応候補は考えてたみたいだ。
魅惑の妖精亭とかドリーのドリームキッチンとかドリーとユーク愛の巣とかいまいちセンスを疑う名前が多かった。
他にもユーク&ドリーの店やら国王の愛人の店とか食事の店には似つかわしくない名前ばかりだ。
3Jの希望の中に【まんぷく亭】と、言う名前が有ったので、食堂だしそれでいいだろうと店の名前は【まんぷく亭】に決定した。
「本当にその名前でいいの?愛の巣とか最高だと思うわよ」
ドリーの意見はミーシャに即座に却下されていた。
名前が決まりオープンは明日からに決定した。
オープン前の練習としてユーク達を客に見立てた練習がしたいと3Jが言うので引き受ける事にした。
メニューも既に決めているらしく紙に書かれていた。
材料の仕入れをしなくてはいけないと言う事なので、昼にもう一度レミーやカーラ、クララも連れて来ると約束して城に戻った。
「エマ!」
「はい、なんでしょう?」
「レミーとカーラを呼んで貰える? 出来ればクララも!」
「畏まりました」
エマに頼んで暫く私室で待っているとレミーとカーラが入ってきた。
「旦那様、何かごようですか?」
レミ-とカーラに試食の事を話す。
「お母さんの店もう出来てたんだ」
レミーに頷いて、昼から食べに行く事を話し終えた時にエマが入ってきた。
「ユーク様、クララ様は鉱山に行っておられる様でいらっしゃいませんでした」
「そうなの、解った僕が呼んでみるよ」
ユークは念話でクララに話しかける。
(クララ聞こえる?)
(ユーク様!聞こえますよ)
(今何処にいるの?)
(今はアポロと遊んでました。)
(そうか、クララはお昼ご飯って帰ってくるの?)
(その予定ですけど、何かあるのですか?)
(ドリーさんの所に皆で行こうと思ってね。クララも一緒に行かないかなと聞いてみたんだ)
(ドリーさんの所ですか?)
ユークはレミー達に話した事をクララにも説明した。
(もうお店出来たんですね。 そう言う事なら一緒に行きたいです!)
(それなら早めに戻ってきてね)
(解りました。)
これで良しとユークは昼までのんびり過ごす事にした。
「あ、あのユーク様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
エマがユーク達が出かけると自分の仕事が無くなり暇なのだと言ってくる。
「勿論良いよ!」
「ご主人様、余り大人数ですとドリーさんも困りませんか?」
ミーシャの意見も最もだが店を営業するなら少しの人数が増えた位でどうこう成ってたらやっていけないとユークは思っていた。
ミーシャに言うとレミーやカーラ達も『そうですね』と、同意して来た。
「大勢と言っても7人だろ、あの店は50人は入れるからね。」
「そうですね、お母さんもそれ位予想していないとこの先もっとキツくなります」
「だね、最悪従業員を補充するとかも考えないといけないし」
ユーク達が話しているとクララが帰って来た。
「お待たせしました。」
「まだ大丈夫だよ!」
クララも帰ってきた事だしと、ドリーの店に移動する事にしたのだが、途中セドリックと遭遇して結局セドリックも同行する事に成った。
合計10名まで膨らんだ団体に市民達は何事かとユーク達を眺めていた。
更に人数が増えたのはユージンとドロシーに城門で出会ったからだ。
2人共面白そうだと同行する事になったのだ。
看板には手書きで【まんぷく亭】と書かれていた。
「まんぷく亭が店の名前なんですか?」
カーラが聞いてくるので、ユークは頷いて、皆を連れて中に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
ジャネットが侍女服姿で出迎えてくれる。
「ユーク様、人数が少し増えてませんか?」
「うん皆行きたいって言うから連れてきた。もしかして無理だった?」
「いえ大丈夫です。」
ジャネットはユーク達を席に案内してメニューを持ってきた。
各々が思い思いに注文したが、厨房のドリーは『りょうか~い』と、元気よく答えていた。
ユークは日替わり定食を頼んだのだが、ミーシャとクララもユークと同じが良いと日替わりを頼んでいた。
意外だったのはドロシーさんがガッツリステーキを頼んでいたのとユージンがサラダしか頼んでいなかった事だろう。
「ユージンさんはそれだけで足りるのですか?」
「ああ。俺は元々ベジタリアンだからな」
ユージンの言葉に一斉に笑い声が上がった。
「そんなに変か?」
「そうですねどちらかと言うと変です!」
ユークとセドリックが遠慮無しに言い放つ。
「い、いいじゃねーか!健康第一なんだよ」
「ドロシーさんとイメージ的には正反対ですよね」
クララも同じ事を思っていたらしい。
「あたしゃ~昔から肉食系だからね、冒険者はスタミナが大事だからね」
肉食系の意味が違う気もするが、突っ込むと面倒そうなので放置しておく。
暫くすると3Jが次々に料理を運んできた。
ゆっくり食事をしてから感想を言う。
「全体的な味は凄く良いと思う。でも量が少し多いかな。金額と合ってないと思う」
ドリーは国からの資金で運営するからと採算度外視していたのだ。
「そうですね。このままだと確実に赤字になりますね。」
セドリックもその通りだと言っているので間違いないだろう。
「価格の見直しが必要だね」
ステーキを食べ終わったドロシーも一つ良いかと話しだした。
「この肉はダメだね。安い肉では無いんだろうけど余り美味しくないよ」
「かなりのお肉ですよ。焼き方が悪いのでしょうか?」
ドリーはドロシーに聞き返す。
「いや、普通の店なら十分だろうさ。しかしこの店は国の店だろ。」
「そうですね」
「この国の店って事はユークの店って事が知られてる訳だ。」
「はい」
ドリーはドロシーの言う事が正しいと頷き返事を返した。
「それなら肉も普通では手に入らない肉を出すべきだと思わないかい?」
「普通では手に入らない肉ですか?」
ドリーが聞き返しユーク達は思い至ったが、ドロシーに任せる事にした。
「ドラゴンステーキだよ!」
「確かに凄い肉ですけど簡単には手に入りませんよ!」
「そんな事はないさ、確かに仕入れるにはそこらの店では売ってないだろうけど城になら腐る程有るはずだよ!」
ドロシーは言いながらユークを見てきた。
「食料庫にどれだけ残ってるかは解りませんが、翼竜の肉ならかなり有ると思います。火竜の肉は聞かないと解りません」
ユークの言葉にエマが答えた。
「そうですね城でユーク様達にお出ししてるのは火竜のお肉ですが侍女達の食べているのは熊肉ですから、火竜のお肉の方が余ってるかも知れません」
「えっそうなの?同じ物だと思っていたよ」
「そんな同じものを頂くなんて出来ません。ユーク様と侍女では格が違いすぎます。それに熊肉でも本来なら侍女が食べられる様な物ではありません。」
「そうなの?」
ユークはミーシャの方を見る。
「そうですね、奴隷の意見ですとお肉すら贅沢過ぎます。ご主人様の奴隷になってからは当たり前のように頂いてましたから今更ですが、本来奴隷の食事は主人の残り物が殆どですし食べさせていれば良いのでランクも最低の物しか与えられません。」
「ミーシャ様の言う通りです。侍女の待遇も本来なら似た様な物です。前の国王様の元に居た時はそれは酷かったです。」
エマが言うにはアレックス皇子の奴隷だったエマは地下牢の様な部屋に数名で押し込まれていて食事時も床に置かれた皿の物を手を使わずに犬の様に食べさせられていたらしいのだ。
しかもアレックスが一度口にいれた物も何度か食べさせられたと言う。
(腐った男は何処まで行っても腐ってるんだな)
「ですから今の待遇の良さは本当に有り難くもっと安いお肉が有ればそれでも十分なのです。ユーク様と違うメニューにするとユーク様は気を使われますからせめて品質だけは落とそうと熊肉にしています。」
「そうなんだ。別に同じでも良いのにね。次からは同じにしていいよ」
ユークが言うのだがエマはこのままで良いと言う。
身分の差が有って当然だし、これでも贅沢すぎるという。
ユークもそれならと『何時でも有る物は好きにしていいから』と、言い話を終えた。
「なら城の肉を卸して貰えば良いのじゃないかい」
ドロシーが言う。
「火竜のお肉なんて値段の想像が付きませんよ」
ドリーが言うのも最もだ。
ギルドに売る値段が3000Gなのだ。
そこから考えても卸値で1人前300G位になる売値だと600G以上だから普通の家庭なら1食で3人家族5日分の食費に相当するのだ。
「そうさね、だからこそ半値の300Gで出すのが良いかも知れないね」
「一人前300Gですか?それこそ赤字では有りませんか?」
「それは違います原価ですね。買取価格が3000Gですから少し手間賃を入れて320G位なら採算も取れるでしょう」
セドリックが瞬時に計算してドリーに言った。
「肉の在庫は解りませんが、必要なら毎日城に取りに来て頂けたら幾らでもお譲り出来ます。」
「そうね、翼竜の肉も余ってるなら持って行っていいわよね?」
エマの言葉にレミーも続けていう。
ユークは足りなくなる前に取りに行くから構わないと言うし肉ならビッグベアの熊肉もかなりの美味なのだ。
熊肉はダンジョンで纏めて手に入れることもユークなら簡単だ。
「そんなに利益を出せとは言わないからお客さんに喜んで貰えて赤字だけ出さなければギリギリまで値段は下げていいよ」
勿論ドリー達の給料も考えての事だと追加して話しておいた。
試食会が終わってドリーはそのまま城に肉系の仕入れに行くとユーク達と一緒に戻った。
城の食料庫に入るのはユークも初めてだった。
30畳位の部屋が5つ食料庫として使用されていた。
そのうちの1部屋が全部お肉専用の部屋だった。
魔法で腐らないように成っていると言う部屋には綺麗に整列されて肉が吊られていた。
それぞれに札が付いていて名前が書いてあり熊肉。翼竜の肉、火竜の肉の3種類しか無いのだが、量が半端でない位あるのだった。
街の肉屋でも10件分以上の量だ。
流石に火竜の肉は多くは無いのだが、市場に出回らないとは考えられない程の量は十分に確保されていた。
数にすると数百と言う所だろう。
「僕達ってこんなに火竜を倒してたんだ。」
「そうですね私も知りませんでした。」
この中には元々ユーク達が持っていた物も保管されているし建国から2年以上経っている。ユーク達以外には余り出さないから減るよりも増える方が早いのだとエマが教えてくれた。
一番消費の多いだろう熊肉も火竜の肉の5倍は軽く超えていたので、まだまだ無くなる心配は無いだろうと言う事だった。
ドリーは熊肉、翼竜の肉、火竜の肉と持てるだけ持って帰ったのだが減った気配すらしていなかった。
明日のオープンには顔を出す事が決まっているので手土産変わりにもう少し火竜の肉を持って行こうとミーシャ達と話し合ったのだった。




