ユーク争奪戦
ワイルスに剣を頼んだ翌日、ユージンが訪ねてきた。
「ユーク、ワイルスから聞いたが剣を探してるんだって?」
「はい、使ってたエストックが折れまして、丈夫な剣を頼んだんですよ」
「あぁ、そう聞いたからヴィンラント様から預かってきたぞ」
ユージンはそう言いながら布を巻いた1m程の短剣をユークに差し出した。
「王様からですか?」
「いつも無理な依頼を引き受けてくれる礼だそうだ」
「依頼なら報酬も頂いてますよ」
「これからも頼み易い様にとの配慮だろ、良い剣だし貰っておけ」
布を外すと銀色の光沢に王家の紋章が入った片手剣が出て来た。
ユージンの話しでは、MP小回復のスキルが付いたオリハルコン製の片手剣で、ワイルス作の名品だそうだ。100万Gを軽く超える一品らしい。
「こんな良い剣を貰っても良いのでしょうか?」
「王が直々に俺に渡すように言って来たのだから構わんだろ」
後日王に直接礼を告げると約束するとユージンは帰っていった。
その頃
マホガリア聖王国、神秘の森、ミーシャの実家でも密かに計画が実行されていた。
「こちらがボリス氏の住居で間違いないか」
いきなりの来客に戸惑うボリスだった。
「はい、間違い有りませんが騎士団の方が何用ですか?」
全く接点の無い王国騎士団が大勢で押しかけたのだ。
何かしでかしたのかと集落の人々も集まってくる。
「その方達がミーシャなる娘の両親だと聞いている。」
「はい、ミーシャは私達の娘ですが、娘が何か?」
ミーシャの名前が出たのでジーナが答えた。
「娘は、とある冒険者の方の奴隷をしており、此処には居ませんが」
「うむ、それも承知しておる。 その冒険者の事で今日は寄らせて頂いた」
「ユークさんの事でですか?それならセルト王国に住んでますからそちらに行かれては?」
騎士団の話しでは、ユークが奴隷達を溺愛してると聞いて、奴隷のミーシャの実家に良くしておくと国の評価も上がり、移住してくれるかもと言う狙いだったらしく、水神竜の被害を受けた集落の復興を手伝いに来たと言う事だ。
機会が有ればユークに、マホガリアは良い国だと宣伝して欲しいと言う事なのだ。
単純な考えだが同じ事を考えてる国は他にも有った。
日にちは5日程戻るのだが
特にAランクの冒険者の居ないコンラット皇国は、必死だった。
「我が国にユーク殿の縁の者が住んでると申すのか」
宰相に問いかけたのはアラン=コントラット王だった。
「いえ、王よ、ユーク殿では無く、ユーク殿の奴隷の親族が住んでいるのです。」
宰相のシーザーが答える。
「はぁ~、奴隷の親、兄弟が住んでるからって、どうだっていうのだ」
見下した物言いの男は、アレックス=コントラット、名前で解るようにコンラットの皇子である。
「はい、ユーク殿は自身の奴隷を溺愛してると調査報告も上がってます。リオ様とレミー様の親族がコンラット皇国に住んでいるのです。」
「奴隷風情に本気で惚れるような馬鹿が本当に必要なのか?」
アレックスの言葉にアランが答える。
「アレックスよ、例え馬鹿だとて実力は本物だ。 奴がこの国に来れば忌々しい魔物供も殲滅出来よう。さすれば我が国はもっと発展するだろう」
「王の仰る通りでございます。」
「で、シーザーよ、肉親が住んでるからとどうするんだ」
「はい、まずリオ様の両親ですが、アーテ村に住んでます。アーテ村は辺境で物資も不足してると聞いてます。ですから両親に物資を定期的に届け印象を良くするのが宜しいかと」
「もう1組はどうする?」
「もう1方のレミー様ですが、両親は娘が奴隷に成ってる事を知りません。 ユーク殿をコンラットに移住させられれば奴隷から開放してやると持ちかけ、都に家族で住む所を用意してやれば宜しいのでは?」
「リオとやらの方はそれで良かろうが、レミーとやらの方は如何な物か、それでは脅迫と取られるやも知れん」
「では家族で、暮らすなら屋敷を与えるという事にして、移住の件は伏せることにしては如何でしょう?ユーク殿もレミー様と離れるのが嫌なら近くに住むのでは?」
「おお、それは良い考えじゃ、早速手配しろ」
アランとシーザーが納得してる横で、アレックスは不満を述べていた。
「そんな温い事で上手く行くのか?第一そんな冒険者の為に資産を使うのも勿体無い、今まで通りで良いじゃねえか」
アランの言葉にシーザーが答える。
「それは違います。我が国は鉱山の収入だけで持っているのはお解りでしょう。しかし最近では地竜や火竜が鉱山の近くで発見されていて採掘もまま成りません。軍を率いて討伐隊も出しましたが、いずれも失敗に終わってます。ユーク殿は1人で地竜を倒した実績も有り、コンラットに移住さえして頂けたら安価で莫大な利益が望めます。」
「ふ~ん、なるほどね。 だが俺は反対だね! 上手く行くとは思えんからな、精々頑張ってくれ!」
言い残しアレックスは退室していった。
翌日にはリオの実家があるアーテ村に大量の物資が運び込まれていた。
「この村のダン・アンナ夫婦にアラン王から届け物だ。受け取るがいい」
リオの両親のダンとアンナは全く訳が解っていなかった。
物資を運んできた商人に話を聞いたが理解は出来無い。
確かに娘は奴隷になった。
しかし何処の誰に買われたのかも知らないのだ。
コンラットの中では辺境に位置するアーテ村は非常に貧しい村だった。
ダンとアンナも痩せた土地を耕し農家をしていた。
生活苦から娘を奴隷にして、その資金で生活していたのだ。
突然の物資を送られて、リオの主人が送って来たのかとも思ったが、送り主はコンラットの王だと言う。
よくよく話を聞いてリオが買われた家に良い印象を与える為だと知り遠慮無く受け取った。
自分たちの生活の為に娘を売った親で有る。良くある事なのだが、生活が少しでも楽になるならと喜んで戴くのも当然であった。
皇国からは、リオが来たら主人にコンラットは良い国だと伝える様に言われる。
時を同じくして、 ブルーメ村
この村は貿易が盛んで、そこそこ潤っていた。
この村にレミーの両親、チャックとドリーが住んでいた。
チャックはギルド職員でドリーは専業主婦であった。
ドリーの元にコンラットの皇国騎士が訪ねレミーが奴隷になったと聞かされた。
ギルドに早退すると告げて家に戻った。
ドリーは突然帰って来たチャックよりも一緒に居た騎士に驚いたのだ。
「何かあったの?」
「レミーの事でな」
「レミー?あの子ならパーンに居るはずよ」
パーンでギルド職員をしてるとしか知らないのだ。
「レミーが奴隷に成ってるって言うんだ」
「えっ!レミーが奴隷?」
まさかの言葉にドリーも聞き返した。
騎士はレミーが奴隷になってユークと居る事等を話し、もしレミーを連れ戻すなら都に住む家も用意するが、家族で暮らすならと言う条件も話した。
「本当にレミーは奴隷に成ってるのですか?」
何度も聞き返すドリーだが、騎士は間違い無いと頷くのだった。
レミーの滞在先を聞き、直ぐ様ギルドに休暇を申し入れチャックとドリーはセルトに旅立った。
ユージンから剣を受け取った4日後、王に礼を言ったのだが試し切りをしてはどうかと依頼をされてしまった。
依頼内容はフルール王国からの依頼で、バリウ草原の西に有るヤーン村からの依頼だ。
バリウ草原のダンジョンからオーガが出て来て、近くで何度も目撃されてるから駆除して欲しいとの依頼だった。
報酬は20万Gの依頼だった。
受けることに成り屋敷に戻り用意をして出かける事になった。
レミーは留守番だ。
ヤーン村にはフルール王都からなら馬車で6日、ワープ可能なバリウ草原からでも歩いて5日とたいして変わりは無かった。
のんびり行こうかと馬車で行く事にして、帰りにフルールでお土産をレミーとクララに買ってくると約束したのだった。
フルールで馬車を用意して貰いヤーン村に向かった。
馬車に揺られて5日目、明日にはヤーンに着くだろうと言う頃。
屋敷に来客の知らせがあった。
レミーの両親、チャックとドリーが権力の門に来ていたのだ。
驚いたレミーだが勝手に屋敷に上げる訳にもいかないので権力の門まで行きカフェに移動した。
「突然来るなんて何か有ったの?」
「有ったの?じゃ無いわよ!」
「お前が奴隷に成ったと聞いて、急いで来たんだ」
「なんだ、そんな事の為にわざわざ来たんだ」
全く悪びれる様子も無くレミーは答える。
「そんな事って何だ!、父さんも母さんも、心配してだな・・・」
「そうよ、借金でもしたのなら、母さん達がなんとかするから」
「借金なんてしてないわよ」
借金が理由だと思っていたチャック夫婦は全財産を持って来ていたのだった。
「兎に角、レミーが奴隷だなんて父さんは我慢できん。お前を買った奴に合わせろ」
「ま、待ってよ!私は奴隷に成ったけど別に買われた訳じゃ無いわよ」
買われて無いのに奴隷だと言うレミーの言葉の意味が解らないチャックとドリーだった。
「買われてないのに奴隷ってどう言う事だ?」
レミーはユークの事や自身のストーカーじみた行動などを話した。
一緒に住みたいが為に奴隷に成った事も説明した。
レミーの説明にドリーは納得したのだがチャックは悩んでいた。
ドリーが納得したのには理由があった。
ドリーもチャックに一目惚れして、レミーと同じ様な事をして結婚したのだった。
レミーの痛い行動は母ドリーの遺伝だったのである。
「しかし奴隷にまで成らなくても良かっただろ」
それしか方法が無かった事やライバルが居て少しでも早く一緒に暮らしたかった事も説明した。
やっとチャックも納得したのだが微妙な表情だった。
「それなら挨拶もしたいからお前の主人に会わせてくれ」
「今は無理よ、依頼でフルール王国に行ってるわ」
「暫く滞在するから帰ってからで構わん」
「旅立ったばかりだから帰ってくるのは5日以上掛かるわよ」
チャックはコンラット皇国から言われた条件をレミーに話した。
「それってユーク様が目当てね、私がお父さん達と暮らせばユーク様が近くに来ると考えたんだわ」
「お前、ユーク様ってAランク冒険者のユーク様か?」
「お父さん、ユーク様の事知ってるんだ!」
当然である。 チャックは冒険者ギルドの職員でも有るのだ。ガストンを倒し地竜までも単独で倒したユークの高名を知らない訳は無かった。
「お前は、あのユーク様の奴隷だったのか。」
「そうよ、将来結婚も約束して貰ってるわ」
チャックは興奮気味だがドリーは全く話が見えなかった。
チャックはドリーにユークの事を説明するのだが、ドリーは段々とユークの事が違う意味で気に成りだしたのだった。
ドリーの反応に全く気付かないチャックとレミーだった。
「そうか、そんなには仕事も休めんしな、出直すとするか」
チャックはレミーに、ユークにはまた会いに来ると伝言を残し帰る事にしたのだが・・・
「お父さん!レミーがお世話になってるのに親として何もしないで帰るなんて失礼よ、お父さんは仕事が有るから無理だけど私が残って挨拶してから帰るわ」
「お前一人で帰って来るのも危険だぞ」
「大丈夫よ、いざと成ればユークさんに護衛を頼むわ、レミーの親だし引き受けてくれるわよ」
「ちょっとお母さん!ユーク様にただ働きさせるなんて止めてよね」
「冗談よ、他の護衛を雇うから心配しないで」
こうしてドリーは残りチャックは帰る事に成ったのだ。
仕方が無いので、ユークに念話で母の滞在の許可を貰おうとするのだが、レミーからは距離が有り過ぎて繋がらない。
アベルに頼み滞在出来る様にして貰うのだった。
「こんなお屋敷に住んでるの?」
屋敷を見た母の第一声だった。
夕方になりユークは定時連絡とレミーに念話で語りかける。
(レミー?)
(あっ、ユーくん)
(何か変わったことは無い?)
(あのね、ユーくんにお願いが有るんだけど)
(お願い?)
レミーから両親が来た事、母だけがユークに挨拶をしたいから残っている事、それに宿だとお金が掛かるから泊めたいと言う事を聞かされた。
(泊めるのは良いけど、一度戻ろうか?すぐに戻れるよ)
(それは良いの、依頼を優先して欲しいしお母さんともゆっくり話したいから、予定通りで大丈夫よ)
(そうなの? 出来るだけ早く帰るから、お母さんにもゆっくり寛いで貰ってね)
(うん、ユーくんありがとうね)
レミーの母親が来てる事をミーシャ達に話して、依頼を即効で片付けて土産を買ったらすぐに帰るからと話しておいた。
翌日にヤーン村に到着するのだった。




