人攫い稼業
ミーシャは、買った食材をリュックに入れて、背中に背負っている。服はユークに買って貰った、お気に入りの水色のワンピースだ。
ワンピースにリュックと言う、アンバランスな、よく目立つ出で立ちだが、すでに顔で目立っているので、周囲の人もリュックには目が行かない。
アイテムの売却に、冒険者ギルドに向かったユークの方へ、買い物を済ませて歩いていく。
この街に住みだして、まだ日が浅いのだが、同じ道程を辿るだけなので、問題はなかった、否、無いはずであった。
いつもの様に、12番街の商店で買い物を済ませ、平民区の11、10番街を抜け、9番街の商人ギルドへ行こうとしたのだ。 家のある貴族街を、突っ切って行くほうが近いのだが、奴隷身分のミーシャには、貴族街を歩くのは気が重く、遠回りだが、気楽な平民区画を通っての、買い物が常っだった。
ミーシャ的に、11番街だけは、好きになれないのであった。
理由は至極簡単で、11番街は、酒場や娼館の多い区画だからである。 雰囲気がどうとかでは無く、ミーシャと同じ奴隷身分の女性が、多く働かせれていて、ユークの奴隷で幸せ一杯の自分との、ギャップに申し訳なく思ってしまうからであった。
ユークが、ようやく10番街の中程まで来たその頃、ミーシャは、11番街の中頃を、ようやくこえて、10番街の境界線が視認できるあたりで、事件は起こった。
時間は、既に夕刻を過ぎており、あたりは薄暗くなり始めていた。
突然、ミーシャの前に、頑強そうな人族の男が、5人立ち塞がった。
男たちは、ミーシャを舐めまわすかの様にながめてから、声を発した。
「よう わんこちゃん! 可愛い格好で男漁りか~~」
他の男たちは、ケラケラ笑っていた、周囲の住人は、知らんぷりをして、そそくさと逃げていく。
「何か御用でしょうか?」
ミーシャは、強い口調で、言葉をぶつけた。
「御用ですか、だとよ~~、やっぱり奴隷だったか~~」
大きな声で、ミーシャを蔑み、反応を楽しんでいるのだ。
「奴隷身分に間違い有りませんが、ご主人様を、お待たせする事は出来ませんので、通して頂けますか」
「ご主人様だとよ~~、は~~~きゃわゆいね~~~~あははは」
「今日からは俺達がお前のご主人様になてやるよ! へへへへ」
「毎日可愛がってやるよ~! 子犬ちゃん!」
「子犬だし、ペロペロとくいだろ~~」
等と、代わる代わるに卑猥な罵声を浴びせてくる。
「私のご主人様は、ご主人様だけです。 あなた達の様な人の奴隷には、たとえ殺されても成りません」
はっきりと告げるミーシャだが、相手を逆なでするだけである事に気づいていない!
「へ~~そんなに今のご主人様がいいのかよ~~!そうか雌犬だから 夜の営みが忘れられないいんだろ~~」
「「「はははははははは」」」
大笑いする男たち。
「ご主人様の良さは、あなた達の様な輩には、一生解るはず有りません」
輩呼ばわりが気に障ったのか、周囲の人並みが途絶えたからなのか、男たちは、ミーシャを取り囲み、近づいてきた。
「近寄らないで下さい。 私に触れられるのは、ご主人様だけです」
「だから俺達が、ご主人様だって、言ってんだろ!」
無理やり手首を掴まれ、路地の方に連れて行かれそうになる。
ミーシャは、ユークの事を思い出した。
(ご主人様は、きっと私を迎へに、こっちに向かって下さっているはず)
ユークは、ミーシャに、なかなか合わないな~と思いつつも、11番街の方に着実に向かっていた。
11番街から来る人達が、何やら騒がしいのに、ユークは気になり、すれ違った人に聞いてみた。
「何か有ったのですか?」
「ああ! 11番街で、綺麗な女の子が絡まれてるらしいぞ」
綺麗な女の子と聞いて、ミーシャだと直感で感じ、ユークは人目もはばからず全力で駆けた。
ユークが全力で走ると、後に旋風が発生していた。
連れて行かれそうになってるミーシャの目に、10番街から、物凄い速さで飛んでくる塊が見える。
暗さと速さで、塊にしか見えないのだが、ミーシャには、はっきりとユークだと認識出来た。
(ご主人様が来て下さった。)
ユークの視界にも、路地に連れて行かれるミーシャがはっきり見えた。
(ミーシャ)
路地に連れられミーシャから、ユークが見えなくなった時に、ミーシャは大声で、叫んだ。
「ご主人様~~~~~~~~」
ミーシャの大声にビックリした、男達だったが、助けなんか来るはずも無いと無視して、ミーシャを、引きずる様に連れて行こうとする。
刹那、ミーシャの姿が男たちの中から消えた。 ついでに、ミーシャを掴んでいた男の手首も消えていた。
ユークが、男の手首をダガーで切り落とし、ミーシャを抱きかかえる姿が、ミーシャには、はっきりと見えていた。
ユークの手が、ミーシャを抱きしめようとした時に、ミーシャからユークに抱きついていたのだ。
あまりの速度で手首を切り落とされた男は、痛みすら感じずに、未だ気づいていなかった。
「遅くなってごめん」
ミーシャを気遣い詫びた。
「ご主人様は、きっと、来てくださると解ってましたから、怖く有りませんでした」
剣が有れば、ミーシャでも勝てるだろう男達だが、丸腰のミーシャは、まだまだ非力なEランク冒険者なのだ。
二人の会話に、我に返る男達だが、見えない攻撃で手首がなくなっている。 恐怖以外の何者でもなかった。
狭い路地を男達は、我先にと逃げようとする。 ユークは、ミーシャに手を出した事に怒っていた。
ミーシャにダガーを渡し身を守らせて、全力で男達を追い越し路地を封鎖した。
「じょ 冗談だったんだよ~」
先頭で、ユークに道を塞がれた男が告げた。
だがユークは、聞く気もない。 刹那、ドンッ と言う音と共に、男の腹にユークの拳がめり込んだ。
殴られた男は、路地の建物の高さ位まで浮き上がり、地面に叩きつけられた。
残った男達は、ミーシャの方に向き直るのだが、ミーシャの手には、先程まで無かったダガーが握られている。
逃げ道の亡くなった男達は、その場に座り込み土下座して、ユークに謝罪した。
許すつもりも無いユークは、ミーシャに視線を向け
「ここから近い、東門の門番を連れてくるから、ミーシャは見張ってて」
と告げる。
「わかりました!ご主人様」
「何かしようとしたら、殺していいから!」
と脅しもかけといた。
ユークが去って、男達にミーシャが言う。
「あの方が私のご主人様です! あなた方が、どんなに頑張っても、ご主人様に勝てるはずも無いのが解ったでしょう! この後、あなた方が、どうなるのかは興味も有りませんが、もし今後、ご主人様を怒らせるような事をしたら命は有りませんよ」
ミーシャは、ここぞとばかりに、ユークの凄さを自慢した。 自分の主人は、最高なのだと。
門番を連れて帰ってきたユークは、男達を立たせ、門番に引き渡した。 翌日、事情説明に伺う事も了承して、ミーシャを連れて東の入り口から、貴族区画に入り家に戻った。
家で、ミーシャからも事情を聞いて、食事を取った。
ミーシャが、終始、べったりくっついて来たが、ユークは何も言わず好きなようにさせていた。
何事もなかった様に振舞っていたのだが、かすかに震えていたのを、知っていたからだ。
風呂に入り、少ししてから寝室に向かった。
薄手の布団に潜り込み、ミーシャとキスして、お休みと言うと
「今日は有難うございました。 ご主人様、 大好きです!」
と囁き、もう一度、ミーシャの方から求めてきた。
当然 美味しくいただきました。
翌朝、朝食を済ませ、ミーシャと連れ立って城の方に行き、衛兵に昨日の事件で呼ばれていると告げる。
しばらく待つように言われて待っていると、中からシルバーの鎧を身に纏い、背中に大振りの両手剣を背負った騎士がやってきた。
「その方達か、 昨日の事件の参考人と言うのは」
騎士の問いかけに頭を下げて答えた。
「武装もしてない様だし、そのまま付いてこい」
衛兵にも頭を下げて、騎士について行く。
城を横目にしながら進み、自分の家位の大きさがある建物の前で止まる。
騎士は、そのまま中に入っていき、ある部屋の前で止まり、此処で待つように言われた。
男はノックして、中に入っていった。
しばらくして、男が中に入るようにと告に出て来たので、言われるまま中に入った。
中は執務用の机が1つと、来客用のソファーセットが有るだけの、質素な部屋だった。
「アイスラーク、御苦労であった、下がっていいぞ、」
「はっ!失礼いたします。」
アイスラークと呼ばれた男は、再敬礼して、退室していった。
「ま~、立ってないで、座っていいぞ」
礼を言いソファーに座る、ミーシャは後ろで立っているようだ
「お嬢さんもお掛けなさい」
丁寧に言われたのだが
「いえ、私は、ご主人様の奴隷ですので、ご主人様と同じ扱いはお受けできませんので、このままでお願いします。」
1mmも引くことのない姿勢で、こたえたのだった。
「主人の君の言う事なら聞くのでは?」
そう言われ、ミーシャに座るように言うのだが、聞きそうにない
「ミーシャ! 相手が、座って良いと言って下さってるのに、断るのは、相手にも失礼だよ、 僕も恥をかく事に成るから、言われた様にすわって」
ユークが恥をかくと言えば、流石に従ってくれた。
「それでは、失礼します。」
そう言って、横に座った。
男が前に座って、自己紹介を始めた。
「俺は、この王都近衛騎士団・団長のユージンだ。 硬い言葉はあまり好きじゃ無いんでな、お前たちも普通でいいぞ」
堅苦しいのはユークも苦手なので、正直助かる。
「ありがとう御座います。 僕は、貴族区画2番街に住む冒険者で、ユーク、隣は、ミーシャと言います。 宜しくお願いします。」
「ユーク殿とミーシャ殿かよろしくな。 早速で悪いが、いくつか聞きたい事があるので答えてくれ!」
「「わかりました」」
二人の返事に頷き返し質問をしてきた。内容は、どういう状況で事件になったのか、とか、逃げたやつが居なかったか、とか、相手がミーシャに吐いた暴言だとか、どうやって手首を落としたとか、かなり詳細に聞かれた。
「捕まえた奴等は、みな賞金首でな、 王都とパーン商業都市あたりで、人攫い稼業を繰り返していた奴等でな。」
(まんま 犯罪者だったんだ)
「ユーク殿とミーシャ殿の証言とほぼ合致してる。 多少違いはあるが、2人の証言の方が正解だろう」
そう言って、証言をメモした紙を畳んで、机に仕舞った。
「もう1つ聞いていいか?」
「答えられる事でしたら何なりと」
ユークの肯定の返事にニカッと笑い、話し始めた。
「いやなに、大したことじゃ無いんだがな、手首を切られた奴が知らないうちに切られたと言っててな、それが気になって、どんな技かと思い聞いてみたくなった。」
「別に技なんて無いですよ! 周りが暗かったのも有りますし、元々冒険者ですから、素早いのも重なっただけだと思うのですが」
「そうか、確かに時間的にも暗くなってる時間だな、 ところで、ミーシャ殿は、ユーク殿の動きは見えたのかな」
「はい!私ははっきりと見えてました。 ですから落ち着いてられました」
「そうか! もう一つ噂を聞いててな」
「噂ですか?」
「ああ!」
「それは?」
「ふむ、昨日の騒ぎの時間にな、風の様な速さで飛んでいく塊が、10番街で多数目撃されていてな、どうやら11番街の事件の有った路地付近で消えたと聞いてな!」
間違いなくユークの事だ、確かに、ミーシャが危ないと思い、人目も気にせず全力疾走してしまっていた。
思わずぎょっとしてしまった。 ユージンはそんなユークを見逃さなかった。
「あははは、 やはり、お主か!」
「・・・・・・」
沈黙は肯定である。
「別に、咎める積もりは無いから安心していいぞ!」
それを聞いて、ホッとしたのはミーシャだった。
「そうですか、しかし、どうしてその噂を確認しようと思ったのですか?」
「なに、少しお手合わせ願いたくてな。 疾風の如き動きを、この目で見てみたい!」
(やっぱりそうくるよな~・・・)
想像通りであった。
「さっきも言ったが、奴等は集金首だ、当然報酬がでる。 その報酬を用意してる間でいいので、お願いしたい」
「解りましたが、何も装備を持ってきてませんから、素手での寸止めでよろしいでしょうか?」
「いいぞ!それで頼む」
ユージンが一緒に来いというので同行した。
建物の裏手にでる。
「ここは近衛騎士の練兵場だ、 ここなら広さもあって、動きやすいだろう」
連れて行かれた所は、確かに広かった、直径200m程の円形の闘技場だった。
ミーシャが心配して、ユークに近寄り聞いてくる。
「ご主人様、本気でお相手するおつもりですか?」
正直、悩んでいたが、スキルの確認をされる心配もないので、今後の為に、騎士との接点も有っていいか、とも考えていた。 今回の様な事が、今後も無いとは言い切れない。
「少しだけ本気でやってみるつもり」
「よろしいのですか?」
「ま~大丈夫でしょ」
ユーリア譲りの天然炸裂であった。
「用意はいいか?」
ユージンが、10mほど離れた場所から声をかけてきた。
「いつでもいいですよ」
ユージンが、「いざ」と言ったので、ユークは瞬間に大地を蹴った。
どんっ と言う音と共に、ユージンの視界からユークが消えた。 ユージンは、左横で土煙が上がったのを確認するだけで、限界であった。
既にユークの手刀が、ユージンの右の首筋に伸びていた。 ユークは、わざとユージンの左側に走り込み、土煙をわざと残して、ユージンの右側に回った。 ユージンが、土煙に反応するのを確認してから、ゆっくり手刀を首に充てがったのだ。
ちなみに。ミーシャには一連の動きが見えていたらしい
「参った!」
ユージンは、全く見えなかった動きに、戦慄を覚えたが、ユークの人柄の良さも実感していた。
これほどの力を持っているのなら、態々手の内を晒す必要もない、ユージン相手なら余裕であろうから!
本気を見せてくれた事にも、感謝していた。
「凄まじい速さだな、 全く見えなかったぞ!」
「有難う御座います。 この速度のおかげで、何とか冒険者も続けて行けてます。」
「なるほどな! その年で貴族街に住めるわけだ」
納得したかのように大きく、わははは!と笑うユージンであった。
手合わせを終え、先ほどの部屋に戻ってきた。
「ユーク殿がこれだけ凄いと、ミーシャ殿も相当な腕前なのであろうな」
「いえ、私などは、ご主人様の足元にも及びません」
「はっははは そんなに謙遜しなくていいぞ」
「いえ 真実ですから!ご主人様と違い私はまだEランクですし」
そんなやり取りを傍で見ていた
。
しばらくして、先ほどのアイスラークさんが、巾着を持ってやってきた。
それをユージンに手渡し、部屋を出ていった。
ユージンは中身を確認せずにユークに巾着を渡し中を確認させる。
中には金貨が50枚入っていた。
「こんなによろしいのですか?」
「相場だぞ、 奴等は犯罪奴隷として売られ、これからは、鉱山で死ぬまで働かされる。 犯罪奴隷の売値は1人10万Gだから、5人で50万Gであってるだろ」
(そんな相場があったんだって、言うか男って、やす~~~)
また何か有ったらよろしく頼む、と言われたので、こちらこそと挨拶を交わし家に戻った。
ミーシャにステータスの確認させると、色が赤に変わっていた。
ユークも確認すると、赤に成っていた。
後で、行くことにして、疲れたので、少し休むことにした。 一人で!
少しユークの、人間離れした話を入れてみました。
タイトルや人の名前に苦労してます。次話までは、日単位で進みますが
その次の話しあたりからは、少しテンポが上がります。
このままでは、ハーレムも遠いので・・・・




