16年の歳月
アポリウスにお腹の子を強制転移させられ 落ち込んでいると思われがちのユーリアだが 実は全く落ち込んでもいなかった。
天性の天然素材の持ち主とは言え、これでも神 しかも全ての神々の頂点である 絶対神である。
転移されるとわかった時に人族の体を与えておきながら アポリウスの強制転移の折も嫌がる振りをして、バレない様にしていたのだ。
なので、消滅してるとか死んでいると言ったことは、全く思っていなかった。
しかも、絶対神のユーリアと魔王ハーデスの子である我が子が、地上界でどうにかなるはずも無いとたかをくくっていた。
強制転移させたといっても、体もないので、魔素で出来た地上に転移させた時点で、吸収されているはずと思っているアポカリウスは、一つの疑問が中々消えなかった。
1000年以上ユーリアにお使えしているのだが、全く気にしてないのがどうにも引っかかるのだった。
普段のユーリアならば、最低でも1日は、落ち込み、やけ食いするはずだった。
生来の天然ゆえ1日以上考えないのである。
しかし今回は、全く気にした様子も無く普段通りなのだ。
何か、あるのかと問いかけたところで、はぐらかされるのは、明白なので、カマをかけてみた
「ユーリア様 エルフ族に転移させたのは何故ですか?」
「えぇ~ エルフじゃないわよぉ~ 人間のはずよぉ~!」
カマを掛けられたのにすら全く気付かず、あっさりと答えてしまった。
呆れるアポリウスをみて、はっ となり自身の失敗を痛感して、冷や汗をだらだら流して、逃げようとするユーリアを、顔を赤くし怒りに震わせて無言で捕まえるアポリウス
「どういう事ですか! きちんと説明してください!!!」
真剣に怒るアポリウスに、たじたじになりながら ぼそぼそと小声で経緯を告げた。
「貴方様は何を考えてるのですか! 地上界を滅ぼすおつもりですか!」
「ごめんねぇ~~」
舌を出して軽く謝る
「よくお考え下さい 絶対神であられるユーリア様と、あのハーデスのお子様なんですよ 地上の者達にとっては、神と同じ存在が近くにいるのですよ もしユーリア様かハーデスの力が遺伝していたらというか確実にどちらかの力は遺伝してるはずです! もしハーデスの力が遺伝していたら地上界は壊滅ですよ!」
超が付くナンパ野郎のハーデスといえ、れっきとした魔界を統べる王なのだ。 かつて地上にも魔界の手を伸ばそうとして、神々との大戦が有った。
その代償として、地上界は半壊 魔族や神族にも多大な被害が出た。その時の教訓を活かし 地上界への不干渉条約と魔族との友好条約を200年もかけて締結したのである。
「不干渉条約にも、触れるかもしれませんよ!」
「でもぉ~~ 半分は魔族の血なんだしぃ~~お・あ・い・こって言うかぁ~~」
まったくもって天然である。
不干渉条約の為、一度地上に落とした限り、もう手出しは出来ない。
何事も起きませんようにと神に祈るだけなのだが、祈る相手が事の大元で、天然であるユーリアなだけに頭が痛い。
アポリウスは、今後の可能性を考え、監視だけでもしておかないとと想い、転移させたであろう位置の特定を開始したのだが
もとより急いで転移させたのと、不干渉の条約の効力で、地上に天災が起きていたことも知らなかったので、特定できるはずも無かったのだ。
それから16年の歳月が流れたのだが 未だにアポリウスは、ユーク存在の足跡すら掴めずにいた。
ユークがもし、もっと早くに覚醒していて、遊び半分でも 大型の魔法を使っていたら解ったのかも知れないが
アルバの下、普通の人間として育っているので、成人まで全く覚醒もしていないし大きな力も使えずにいたのだった。
成人を迎え冒険者として、生活しているユークだが、結局自身の異常さには、はっきりと自覚している訳では無いし、
優しく強い母の教育のおかげで、さほど攻撃的でもなければ、非人情的でもない。 見た目も行動も普通の人間なのだ。
そんなユークの行動も災いしてかアポリウスも前に進まなかった。
アポリウスは一向に捜索がはかどらない事に焦りを感じているのだが 今まで全く問題が発生していない地上の様子も見知っている。
何か有ってからでは、遅いのだ。不干渉条約さえ無ければ、地上に降りて探せるのだが神界からでは、簡単にはいかない。
アポリウスがそんな苦労をしている事すら全く気にせず我が子の名前を16年考え続けているユーリアだった。




