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4/5

なんなのこの敵、ちょー強いんですけど

残酷な描写あり

んで。んでんで。すっかり忘れていた勇者認定イベントがとうとうやってきた。


相手は邪龍。名前あるらしいけど人間には発音できないので単に邪龍とよぶ。


竜くらいうちの兄でも倒してるわ、といったらまた別モノらしい。

竜はトカゲ式で羽が生えているやつ。

ちょー強い。魔物のてっぺん。


龍はにょろにょろとした長いヘビみたいなタイプ。神獣の一種。

すんげー強い。だって神様級。



え。それって勝てるの?



あわてて本当の最高神であるランディオスに夢問いで聞いてみる。

冒険者やっていろいろ殺しすぎているからちょっと繋がりにくくなっていたけど、なんとかなった。


とりあえず真っ先に、お前が始末しろやとオブラートに包んでつっこむ。

だがランディオスが直接戦うのはご法度なんだと。

邪龍に物理的に干渉できるほど顕現すると、世界が神様の威圧に耐え切れずゆがんだり吹っ飛んだりするみたい。なんというラスボス。


そんでもって、人間界で勝てる可能性があるのが今のところアレンだけらしい。だから勇者と呼ばれるんだとか。


兄様(仮にも英雄)も超強いけどダメなのかと聞いたら、私と契る未来がなかったから無理だって。


え。まじでなんだそれ。


どうやら精神的にも肉体的にも技術的にも優れたハイパー人間が、聖女に身も心も愛されたときに光の加護を受けるとか。

リニャン(聖女候補その1)と兄様が交わる未来もなくはないが、こっちの方が可能性高かったから、セリナ&アレン組推しでとかなんとか。


おい、神様に純潔ちらしたのばれちゃってるんですが。

しかもそれをはっきりと指摘されているんですが。

なにこの羞恥プレイ。


あまりのいたたまれなさに逃げ帰るようにして目を覚ますと、アレンが心配そうに覗き込んでいた。

うなされていたけど大丈夫かって、大体はお前のせいだ馬鹿野郎!!



むかついたのでアレンを思い切りぶん殴り、奴が悶絶しているすきに他の仲間をよぶ。


どうやら邪龍相手に決定打を打ち込めるのが私とアレンくらいなのでほかの仲間たちに、やんわりと着いてこなくてもいいと伝えたのだが。


烈火のごとく怒られた。


私、邪龍戦の前に死んじゃうかもーと思うほど怒られた。


・・・・・・・うん、逆の立場だったら私も怒るわ、そりゃあ。

でも一度は言わないといけなかったんだよ、ごめん。

皆を死なせたくなかったからさ。怒られるくらいで皆の命が保障されるなら、そっちの方がずっとよかったんだよ。


でもこれで腹をくくった。




おーけー。絶対に、仲間の誰一人として、死なせない。




そしてとうとう邪龍戦の時がきた。


なんか死の森で邪龍が復活した、世界の危機だー、うわーとかいってギルドから緊急招集があり、Bランク以上のものが強制で集められた。

目的地は同じなので私たちもちゃんと呼ばれた場所にいく。じゃないとギルドランク落とされるし。


もちろんギルドだけじゃなくて各国の精鋭騎士たちも集まっている。すげー強そう。キラキラしている。


おお、壮観壮観。ところで、これ、この場にでていって私たちが倒しますーとか馬鹿正直に宣言するものなの?なんていう鬼畜イベント。


どうしようか、こっそり早めに出発してこっそり倒す?と仲間内でこそこそ話し合っているうちに名前よばれた。

なーにー?え、神様のおつげ?すでに皆知ってる?


まあ、考えたら、母様もいるし、リニャンもいるし、神様の言葉くらい伝わるんだろうねー。

聖女二人かかりで言われたら信じざるを得ないだろうし。それにしてもこのタイミングでばらすのか。

全然「おのずから知れ渡る」、じゃないじゃん。


しぶしぶ出て行ったら、母様に、うふふ初めてのわりに激しかったみたいだけど大丈夫?お赤飯を炊いておくわねと言われた。……神様、ランディオスよ、いったいどこまで言ったんだ!!




それはともかくとして、とりあえず邪龍は私たちのパーティが、その取り巻きを兄様含む精鋭騎士団が、そしてその他の雑魚どもを冒険者たちが主に狩ることになった。

雑魚といっても、おそらく普段ならばBランク相当以上の魔物ばっかりなので相当苦戦を強いられるに違いない。

騎士軍団が挑むやつにいたっては、それこそトカゲタイプとかグリフォンとかキメラとかの化け物ばっかりだ。

……何人、死んじゃうのかな。うつむいていたら兄様にがしがし頭を撫でられた。


「ちょっとは信用しろ。俺らは強いぜ?」


やさしげにそう言ってこちらを慰めながら、後ろから強襲してきたグリフォンの頭を無造作に一撃で落とす。


ああ、うん。この人に関しては、全然、何も、心配ないな。


英雄、っぱねえっす。





周りからギャーとかウワーとかアッーとか聞こえるBGMを無視し、目の前の存在に向かいたつ。


意識をそらしたら、その瞬間に死ぬ。

弱気になったら、その瞬間に死ぬ。

少しでも悪手をはなったら、その瞬間に死ぬ。


それが言われなくてもわかるくらい、圧倒的な死の塊。それが邪龍だった。

くそ、滅茶苦茶こえー。なんぞ、これ。面白いじゃないか。


「みんなー、最後に言い残しておくことはある?」


「んー、特にない」


「同じく」


「そだね、今は別に」


「だって、----これを、最期にするつもりはないからね」


上等。みんな、最高だ。






スイが足元に近寄り、毒のナイフで傷をつける。

ユウとランが双子ならではの息ぴったりの呪文で上級ルーンを次から次へと放つ。

アイリスのが邪龍の目に矢を放つ。


その、すべてが、うっとうしそうにふり払われる。


ああ、わかっている。最初からこんな小手先が通じるとは思っていない。

だけど、その隙にされるアレンの一撃は、なかなか効くでしょう?


「GUGAAAAAAAA!!!」


よっし、首元付近の鱗が何枚かはげた。


「みんな、あそこを狙って!たぶん他よりは攻撃が通りやすいっしょ!」


こんな風にね、と無詠唱でできる最大威力のセイントアローを放って、すかさず同じ場所に斬りかかる。ヒット。よろめく邪龍に思わずガッツポーズすると、何故か皆の視線がつきささった。


「後方支援担当はさがってろ」「私たちの立場がないんですけどー」「いいから治癒魔法に神力とっとけよ」


くすん。だって、わたしだって暴れたいんですもの!

なんのために冒険者になったと思っているんだ!とぶちぶち言いながらおとなしく後方に下がる。

まあ、たしかに。私の最も得意とするのは神術だからね。不本意ながら。


むーんと上級結界を維持しながら皆の支援をする。

傷を負ったり、体力切れした仲間が結界内に逃げ込んでくるので、すかさずヒール、ヒール、ヒール。

隙をみてたまに防御力アップとかスピードアップとかの祝福も忘れない。


ああ、もう。でも本当はやっぱり前にでたい。


腕がちぎれそうになっていても。

毒が回って痙攣していても。

精神力を吸い取られて廃人一歩手前になっていたとしても。


何度でも元通りにしてやるが、その瞬間の痛みや苦しみまでは消し去れない。

どれか一つだけでもトラウマに陥りそうな傷を治して、また敵のもとに送り込むだけなんて、やってられない。


皆の頑張りのおかげでちまちま体力をけずって、最初の傷一つない圧倒的な姿からは程遠いほど邪龍の姿はぼろぼろになってきている。


だが、それ以上に、ずっと、仲間の姿のほうがぼろぼろなんだ。


鎧は亀裂がはいってほぼ意味がない。剣だってナイフだって、刃こぼれしている。防御力をあげるアクセサリーだって、いくつかは壊れて光を失っているじゃないか。

私だって戦える。剣の腕だって、兄様仕込みなんだ。神術にだって数少ないけど攻撃呪文は存在する。

自惚れじゃなく、戦力になれる。


でも、今この場で治癒魔法は私にしか使えないから。だから、我慢する。我慢なんかしたくないけど、それでも、

……ああ、またスイの腕がとばされそうになった

……ああ、アイリスの目が!

……あ、あ、ユウとラン、逃げて!

……HYUGOOOOO!!!

……双子にむかって放たれた必殺の一撃を受け止めようと、アレンが走り出す。間に合うか?あの、最大威力の一撃を。はたして受け止められる、の?



っくう、我慢、我慢なんか、してたまるかあああ!!!!!



ガキンっ!!



双子とアレンの命をまとめて踏みつぶそうとしていた龍の必殺の一撃を受け止める。

物理攻撃も魔法攻撃も無効化するはずの上級結界なのに、びりりと激しい振動と圧力がかかり、びしりと罅がはいる。

うそ!?

あー、神様の一撃くらい強ければ壊せるって、確か前に私が言ったんだっけか。うん、間違ってなかったよ私。

一瞬持ちこたえた後、粉々になった結界ごと吹き飛ばされる。


「がっは、」


踏ん張っていた分、うまく流しきれなくて宙にむかって投げ出されるが、威力はほとんど消したのでそこまで重い衝撃ではない。と思いたい。なんとか地面に落ちるまえに受け身っぽいのをとる。


「セレナ!」


「だい、じょうぶ!」


こんくらいで仲間の命が守れるなら軽い軽い。

私の後ろにいたおかげで、ほかの皆も大したことはなさそうだ。

……いや、ウソついた。それまでに受けた傷でひどいことになっている。


ぜーはーいいながら、最大出力の治癒魔法を広範囲でかけた。くらっと眩暈がする。

桁違いに多い私の神力だって、底なしではない。たぶん、あと一回大きいのがいけるかどうか。

ぐっと邪龍を睨めつける。あと、もう一歩のはずなんだ。


「……みんなー、お願いがあるんだけど、私あのでかぶつの近くに行きたいなっ」


一瞬、皆の顔がへにゃっとゆがんだ。笑いをこらえているみたいに。


「あーもー、どうしておとなしく聖女してくれないのかなーうちの姫様は」


「可愛らしく言っても内容が物騒すぎよね。しょうがないな」


「一応、仮にも、公爵令嬢で聖女(候補その2)のはずなのに活発すぎるしね」


「セレナらしいわ、そういうところ。好きよ」


いまだがんがんと降ってくる攻撃のなか、こんな会話をかわせるなんて意外と余裕じゃないか。

ただ、アレンだけはそう簡単に流されてくれない。さすが光の勇者ってか。


「セレナ、君が前にでるのは、愚策でしかない」


ああ、もう。まったく。愛されすぎちゃってこまるわー。

ねえ、ところでさ。

一応、神聖魔法の特徴として、やっぱり誰かを守ったり、誰かを祝福したりするのが一番の得意技なんだわ。

たとえばさ、邪龍の目の前で光の守護を最大で行えば、目もくらむし、威力も最大のままアタックできるし、一石二鳥だと思わない?

ねえ、アレン。それにさ。


「ずっと、傍で守ってくれるんでしょう?」


アレンが一瞬虚をつかれたようにだまりこみ、そして諦めたように笑った。


いのちをだいじに?作戦変更だ、リーダー。がんがんいこうぜ!!


「どうせなら出し惜しみするんじゃない。セレナ。思いっきり、いけ―――――!!!!」


合点承知。


ぱんっと手のひらを打ち合わせる。


「光あれ、光あれ。其は光なり。闇を寄せ付けぬ、光なり」


今までのものとはちがって、丁寧に神聖語で詠唱を紡ぐ。そのほうが、思いっきり、全力で出力できるから。早さよりも、今度ばかりは威力重視だ。


感づいた邪龍が私めがけて爪をふりおとす。だが私はそれを見ようともしない。信じているから。

仲間を。


ガッ、キンっ!!


「我は命ずる。我は断じる。我は宣告する。光をおいて他はなし」


弾き飛ばされた剣のかけらが頬をかするが、気にしない。


「闇を払いたまえ。光を導きたまえ。抱きかかえん、この腕に」


ああああああ、と絶叫するスイの声にも振り向かない。信じる。


「身よ、観よ、視よ、未よ。さらに三度、その名を寿はぐ」


だから、皆も、私を信じなさい、よ!!


皆が全力で作ってくれた、細い細い、邪龍までの道のりを一気に駆ける。

あとは、最後の言葉だけを紡げばいい。組み上げた精緻な祈りを少しも壊さないよう、最短距離を、早く、速く、速く----!!


今にも倒れそうな、細いアイリスの肩を何も言わないまま踏み台として蹴り。

ユウとランが作った上昇気流に乗る。

立ち上がったばかりのスイがまた倒れたが、治癒魔法はかけてげれない。


ああ、ごめん。ひどい聖女候補だね。


でも、ただのお姫様にはできないことを、やってみせるから、許して。


高く、空を舞う。着地の方法なんて思い浮かばないほど無鉄砲に。

ああ、ほら。同じ高さで目があったわね、邪龍ちゃん。

せっかくだから、今世初公開、とっておきの最上級神聖魔法ってのをみせてあげよう。


「ここに今、救いの手を。神の名のもとに(ランディオス)


ーーーーキッ、カカカアアアアーーーーー


光があふれる。白く、全てを浄化するような、清らかすぎて誰も生きていけない世界。


UGYAAAAAAAAAAA!!!!


たまらず邪龍が喉元をさらして絶叫する。

身をくねらせて、焼きついた目を必死でつむる。どうだ、効いただろう。セレナちゃんの一発芸だ。

でも、まだだ。誰か、忘れてないかい?


「はああああああっ」


邪龍を挟んで私と反対側から、光に包まれた勇者が飛び込んでくる。

清らかすぎる世界でも、彼だけは存在できるのだ。

これはたった一人、光の勇者のためだけの祝福。強すぎて、他の者は耐え切れない。光あれ、と聖女に愛された者だけの祝福。


それが、アレン。私の、男。


「これで、終わりだ―――――!!!!」


光をまとった剣が、その体が、竜の首に迫る。

散々に傷つけ、鱗をはぎ、痛めつけたその箇所を、文字通りとどめとばかりに突き刺し、切り落とした。


大量の鮮血が降ってくる。ぼたぼたと赤黒く忌まわしい血が私に向かってこれでもかと降りかかっていくのを喜びとともに迎え入れる。

ゆっくりと、邪龍が、倒れこむのが、スローモーションで再生された。


「……やっ、たの?」


血をかぶって喜ぶなんて、ますます聖女じゃないよなー、へへ、でも、ちょう、うれしい。


「セレナっ!!」


力を使い果たしたせいで、結構な高さからただ真っ逆さまに落下した私は、そのまま安心して気を失った。

あー、こんな無様な着地、兄様に知られれば怒られるかもなーと思いながら。


自分が読む側なら、圧倒的な力で叩き潰す最強系が大好き。

でもいざ自分がかくと、主人公たちをぼろぼろにしてギリギリの戦闘でようやく勝つ話になってしまう。不思議。

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