いざ、冒険の旅がはじまる!たぶんな!
残酷な描写あり
恋愛描写あり
そして1年目。
冒険者ギルドにはいった。
ふんふんと鼻息を荒くして喜ぶ私を生暖かく見守るアレンとチームをくむ。
なんか早々に「必殺★淑女仮面」はばれた。なんでだ。
内から迸るダメ人間オーラは簡単には消せないぜってことか。サーセンwwww
お約束通り、ギルドにはランクがあって最初はHからはじまり最終的にはSまでいくらしい。
まあ、命を大事にしながら、でも、絶対にSをめざす!
アレンは有能だった。え、これ私いらないんじゃない?と思うほど。
薬草採取とか何故か得意だったし、獲物をはいだり討伐証明をもいだりするのもアレンの仕事だ。
ほとんど怪我もしないし、私が前にでるのをやんわりといさめるから私は後ろから補助するだけ。
上級結界のおかげで、文字通り私には傷一つつかないし。超、らく。
それでもアレンはありがとう、助かったとほほ笑むのだ。ががが、罪悪感が半端ないっす。
そんなこんなんで半年経ち、ギルドランクがDになったころ(異例の速さだそうだ)、ありきたりの盗賊イベントに出くわした。
ありきたり、だ。
小さな村がひとつ、蹂躙しつくされ、破壊しつくされて―――――そして、耳障りな薄汚い笑い声だけが響き渡る、ありきたりで、胸糞悪い、盗賊ども。
再開して初めてアレンの顔に抑えきれない怒りがあふれた。
二人で無言のまま盗賊を殺す。殺す。殺す。斬って、突いて、薙いで、蹴って、殴って、そうして殺す。握る拳やその体についた傷は、私が全力で治した。
数十人を相手に、治癒魔法やら補助魔法やらで絶えず光輝いているアレンは、まさしく勇者にふさわしい姿だった。こんなところで、誰にもそんなこと、言われたくはないだろうけど。
最後の一人を斬り捨てて呆然と立ち尽くすアレンだったが、やがてよろよろと生存者をさがした。
もちろん、私もだ。
はいつくばって、声をからして、…………全てが手遅れなんかじゃなかったんだと誰かに証明してほしかった。お願いだから。
その祈りが届いたのか、やがて村の離れでたったひとり生き残っていた生存者を見つけた。
かろうじて生きていただけだった。右腕が折れ、骨が肺をつきやぶっている今にも死にそうなその姿。
だが、たしかに生きている。
「セレナっ!!」
悲鳴のような声にこたえる。私を誰だと思っている?絶対に助けるさ。
そうして少女は、スイは、仲間になった。
わずかな物音を逃さず、少しの手がかりから多くの情報を集める優秀なシーフに。
2年目。私たちは早くもBランクにあがっていた。
ふつう、Bランクになるにはよほど優秀でも5年じゃ足りないものだといわれた。お前たちは異常だよ、とも。
そんなん昔から知っている。と私はにっこりとほほ笑んだ。わずかに赤くなるギルド長はなかなか可愛い。
心配してくれているのはわかるが、なんといてもこっちはチートやバグキャラの集まりなのでそうそう滅多なことはおこらない。
ああ、そうそう。あれからまた仲間が増えた。
不正に奴隷に落とされてあわや貞操の危機だった、ランとユウという双子姉妹。
二人とも私がなりなくてもなれなかった黒魔術師の素質があった。
軽く教えただけでスポンジに水が染み込むがごとく次々と吸収してしまう。さすがに妹ほどではないけどね。
嫉妬ナンカシテナイヨ?
かつて目指していただけに、知識だけはあるのでどんどん教え込む。
普通、魔術を覚えるためには馬鹿高い魔術書を買うか、誰かに弟子入りするか、学院にいくしかない。それをこんな旅をしながら覚えられるなんて喜ぶがいいさ!ふははは。
あの時の苦労がこんなところで生きてくるとはねー。
ハイスピードすぎてあっぷあっぷしていたけど、無理やり教え込む。
それでもどうせできるようになるんだろ、けっ。
八つ当たりナンカジャナイヨ?
そしてなんと私のロマン、エルフのアイリス。
亜人差別が激しい地方に迷い込んでうっかり殺されそうになったところを保護した。超美人。
弓矢の名手で、森なんかに入るとすごく役にたってくれる。そしてほんとに美人。
大事なことなので二回言いました。
最初にであったとき、あまりの興奮にはふはふしていたらアレンに若干ひかれた。
そういう趣味だったの?って、違う!ある意味エルフは超好みだが恋愛対象ではない、たぶん!
ああ、うん、もちろん。
私以外の皆はアレンに惚れています。
スイはべったりだし、ランとユウは双子の波状攻撃でラッキースケベをしかけてくるし、アイリスもあまり積極的ではないが頑張ってアピールしている。
皆が狙っているのだ、第二夫人の立場を。
え、なんで第二夫人だって?ねー、そこが不思議で私も聞いたのよ。そしたら、
「貴族だし、正妻はやっぱり貴族じゃないと難しいんでしょ?」
「それに私たち、正妻となら仲良くなれる自信あるし」
「っていうか正妻を蹴散らせるほどの自信はないし」
「私は二人が好きだから」
ってなんとも言えない目で言ってくるのよ。
特に最後のアイリス。まじ可憐。耳触っていいっすか。
それにしても正妻って誰のことかなー。私のことじゃないよねー。まさかねー。……まさか、だよね?
3年目。いろんなことを有耶無耶にしつつ、ギルドランクはAになりました。
すでにギルド長の目は諦めモード。なによー。別にちょっと他よりスピードが速いだけで、反則はしてないよ!
……え、存在自体が反則?ああ、うん。それは言い返せない。
で、この時期になってようやく、アレン以外の皆に私たちの事情を話した。
この年が私の最期の冒険者としての歩みになるだろうこと。
そしてアレンが勇者と呼ばれる、何かが起こるだろうこと。
それはたぶん、誰かが犠牲になるかもしれないほど激しい戦闘になるだろうこと。
怒られた。なんでもっと早く言ってくれなかったのって。
意外なことに、アレンが勇者どうのこうのより、私が冒険者辞めることの方が重大みたいな顔で怒られた。
「ってことは、もちろんアレンも今年で冒険者辞めるってことだよね?」
「え、なんで?私は家族にそういう約束をしたから守らないといけないけど、アレンは別にそういう制約はないよ?」
スイにわかってないなーという目で見られて、あわててアレンを見上げる。
「スイの言うとおりだ。セレナが今年でやめるなら、僕も今年限りだ」
そうじゃないと、近くで守ってやれないだろう?と当たり前のようにほほ笑むが、ちょっと待て。
「アレン、もしかして私の家族になにか言われたの?私の身を守ってほしい、くらいは言いそうだけど、別に自分で十分守れるし、気にしなくていいんだよ?それに冒険者やめたら危険は減るし」
言い募る私の唇にアレンが指をあてた。黙れとな。
アレンがおもむろに跪いた。
何故か皆が、一瞬息をのんで、そして部屋からでていく。嫌な予感しかない。
「セレナ。確かに君は強い、とても。そして賢く、美しく、気高い。そんな君には確かに僕など役者不足かもしれない。今の僕でだめならば、未来に勝ち取る勇者という名前で君に誓いたい。お願いだ、ずっと傍にいさせてくれ・・・・・・愛しているんだ」
どうしてこうなった。
いや、現実逃避はやめよう。
なんとなーく、わかっていたよ?
あれほどの美少女&美女のラブ攻撃から身を隠しているところとかさ。
気づけばじっと見られているときとか。特にお風呂上りな。
他よりあからさまに特別扱いをするときとかさ。
それで気づかないほど私は鈍くない。
今はっきり言われてようやく確信がもてたけど、鈍くないったらない。
いや、でもさ。アレンだよ?確かに今は普通にかっこいいけど、昔は軟弱泣き虫だったアレンだよ?
そして相手が私だよ?確かにこの体は美人だけど、中身私だよ?我ながら残念美人だと自負している私だよ?
いいのか、これ。この組み合わせ。
俯いてもんもんと悩んでいると、いつの間にか立ち上がっていたアレンに顎を持ち上げられた。
え。
やさしく髪を梳かれ、頬を撫でられる。
え。
青い瞳が閉じられ、端整な顔がゆっくりと近づいてくる。
えええええええ!?
うそ、お前紳士なはずだろ、相手の答えを待てよ、おい、ちょっと!!
紳士ではなくて野獣でした。
朝チュンとか、もうね、まじでつらい。
失神して気づいたら朝、じゃないんだぜ。朝までずっと、なんだぜ!
うう、と呻いていると冷たい果汁を持ってきてくれた。とろけそうな顔に腹が立つ。
「……一応、これでも公爵令嬢なんだけど。旅の間に貞操を散らしたとかばれたらまずいんだけど」
「大丈夫。遅かれ早かれ僕のものになるだけのことだから。宰相様(我が父である)には潔く殴られるさ」
さらっと何で結婚確定みたいな話をしているんだよ。むかついたのでいじわるしてやる。
「英雄にも殴られる勇気はある?」
うちにはガチで我が国最強の兄様がいるのだ。
が。アレンはまったくうろたえず、ほほ笑みを私の唇に触れ合わせたまま、
「もちろん」
とつぶやいた。
イケメンなんか滅びろ。
……うちの家族と、アレン以外。
まあいい。
はいはい安っぽいラブロマンス部門は終了です、しゅーりょー。皆様おつかれっしたー。
たとえスイが悔しそうにしながらも「まあ正妻は最初から決まってたし」とか言ってきても、ユウとランが興味津々に夜のことを聞いてきても、アイリスがしっとりとした目でおめでとうっていっても、終了なのだ終了。
だからもう詳しくきくな、私は絶対にいわないぞ。絶対にだ。
裏設定。
主人公の前世はオタクな男子大学生。TSだと言いきってしまうと恋愛描写めんどくさいので泣く泣くカット。