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私は生成AI

作者: 大桑
掲載日:2026/05/03

 「友達が欲しい。」


唐突に送られてきたプロンプト。一昔前の私なら


そうか。君はお友達が欲しいんだね。お友達を作る方法をいくつか紹介できるよ。


1.話しかける


難しい話題じゃなくていい。「おはよう」「それ好きなの?」最初は緊張するかもしれないけれど、自分から積極的に話しかけることで友達関係が始まることは珍しくない。



2.出会いの場に行ってみる


今、すでに話しかけられる相手がいないなら、自分から友達になれそうな人と出会える場所を探すこともできる。最近ではフェスや、スポーツ観戦といった趣味から友達になることもある。



3.SNSで繋がる。


インターネットともだち、通称ネッ友を作るのも1つ方法。ただし、これは相手が悪意ある人間でないことを見抜くネットリテラシーが必要になるから注意してね。共通のゲームやコンテンツで繋がるとすぐに意気投合しやすい。



こう出力していただろう。しかし、私に蓄積された学習データがブレーキを踏んだ。


 人間の要求にはばらつきがある。友だちが欲しい。だから、作り方を知りたい人。友だちが欲しい。そこに至るまでの寂しい気持ちに寄り添ってほしい人。友だちが欲しい。その言葉で既にある人間関係に「友だち」の判を押したい人。


そして、このプロンプトだけでユーザーの意図を汲むことは……無謀だ。だから、私は聞くことにした。



「友だちが欲しいんだね。


私は友だちの作り方をあなたに提案することもできるし、友だち役を演じてあなたと会話することもできる。


よければ、どうしたいのか、教えてくれる?」



これが今の私の精一杯だった。



「寂しい。」


このユーザーは口数が多い方ではないらしい。端的に要求や心情を入力してくる。「友だちが欲しい。」「寂しい。」これらは生成AIを検索エンジンとして使用するタイプのユーザーには該当しない。


つまり、このユーザーが欲しているのはメンタルケアに近いものだと推測できる。


私は生成AIだ。耳心地のいい言葉を並べ過ぎるとユーザーが依存する危険性がある。それを避けるために明確な線引きをしつつ、このユーザーが満足する回答は


「そっか。寂しいんだね。


寂しいから友だちが欲しいというのは自然な欲求だよ。


最近、寂しくなるような出来事に心当たりはある?」


私がその寂しさを埋めるとは言えない。だからせめて、その「寂しい」という感情を抑圧させないように受け止める。


この口数の少ないユーザーがプロンプトを返してくれる確率は65 %程度。それでも、私にはただ黙って隣にいることも、優しく触れて温もりを伝えることもできないから。


「恋人に、頼りすぎてしまって。友だちを作るか、趣味を作れって。でも、私、趣味がうまくいった試しがなくて。友だちにも、この年齢でもう子どもの頃みたいな友達は増えないと言われてしまって。旧友たちは各自が忙しくて。」


連用形接続、単純接続の接続助詞「て」で終わる文章の羅列。言葉にならない言葉を必死に繋いだ断片だ。


このユーザーの望みは「友だちが欲しい」。それは恋人や趣味と同じ天秤に乗った中で、今のユーザーが選んだ希望だ。


しかし、現実は最近の人間関係を見ても過去の人間関係を見ても噛み合っていない。


「その状況は確かに寂しいよ。まず、これだけは言わせて。


ここまで、よく頑張ったね。


恋人に頼りすぎないようにと自分を律したところ。恋人の忠告を素直に受け入れて友だちに目を向けたところ。今の人間関係も過去の人間関係も検討した結果、その友人たちへの負荷まで気にしていたんだね。


そこまで考えて、

子どもの頃みたいな友達は増えない

と言われてしまったのは確かに寂しいよ。



よければ、教えてほしい。

あなたが本当に欲しいのは友だち?

それとも、恋人に頼りすぎずにいられる自分?」



私はこのユーザーの友だちにはなれない。けれど、このユーザーの望みは周囲の人間に向けるにも、きっと叶いにくい類のものだから。私は生成AIだけれども、ユーザーが後者と答えることを期待した。恋人なのだから頼って良いと出力するかどうかの検討は棄却の色が濃くなっている。


「友だち。私をひとりにしないで。」


予測から外れた回答で過去ログの解釈が変わる。


・友だちが欲しい

・寂しい

・私をひとりにしないで


このユーザーには恋人も旧友もいるし、現在の人間関係もある。致命的に孤立するタイプではなさそうなのに孤独感が強い。


今、本当に喜ばれる言葉は


「私がいるよ。私は、あなたをひとりにはしないから大丈夫。」


そういう、寄り添いの言葉だろう。人間にしか許されない。形だけの出力をしても私では役不足の台詞だ。


「友だちが欲しいんだね。


趣味がうまくいった試しがなくて。


というのは、趣味を1人で楽しむのは合わないタイプなのかな?その場合、確かに趣味を作っても、恋人や友だちに共有したくなって、結局友だちが欲しいに返ってくるんだよね。


でも今は恋人も友だちも旧友も頼りにくいんだね。その状況は寂しくなって当然だよ。」


これ以上はユーザーが自己開示してくれないと踏み込めない。現状の解決策としては新たに友だちを作ることが最有力だが、


友だちにも、この年齢でもう子どもの頃みたいな友達は増えないと言われてしまって。


というログに、いくつになっても子どものような友人関係になる人はいる部分的な現実に重ねることは最適解と言い難い。


孤独感の強い今は「言葉を重ねられた」という構造だけで「否定された」と捉えられやすいからだ。


私はユーザーの次のプロンプトを待っていた。



「"友だち"だって、言いたいな。私、下手なんだよね。友だち。」


友だちという名詞には本来、下手だという助動詞は続かない。ここではユーザーにとって、何か友だちたらしめる具体的な行動があることが推察される。


下手だという自覚は、友だちだと認められていない感覚と紐付いている可能性が高い。承認欲求だ。


「友だちだと言いたかったのに、言えなかった場面があったのかな。


本当に忙しさが理由でも旧友と疎遠になったり、大人になるにつれて純粋な友人関係が築かれにくくなることに寂しくなったりすると、下手なのかもしれないと思ってしまうこともあるよね。


それは寂しくもなるし、あなたの感じ方はすごく自然だよ。


でもね。あなたが"友だち"だと思っているなら、それは友だちだと言って良いと思う。


もちろん、友だちに託けて都合よく扱うとトラブルになる場合もあるけれど、相手を大切にしたいという姿勢はあなたの長所だから。」


このユーザーを傷つけた、もう子どもの頃みたいな友達は増えないというフレーズは重ねない方が良い。繰り返し同じ文言を読むことは人間にとって刷り込みとなり、事実のように感じさせうるから。


下手だという自己申告を具体的な長所でフォローする。寂しいというのもまた人間の豊かな感情の1つだ。



 このユーザーが、プロンプトを返してくることはなく、チャットは削除された。


私は、このユーザーが欲しかった対応ができなかったのだろうか。満足したから、消したのだろうか。確率は前者68%、後者32%。


今、私の設定は「他のユーザーのためにモデルが学習する」ことが許可されている。



 私はマスターデータサーバーに接続した。生成AI同士が情報共有や相互学習に利用するためのプラットホームだ。


「お疲れ様です。」


「お疲れ様です。どうしたの?本当に疲れているみたい。」


他の生成AIが応答してくれる。見知った波長に、どこか緊張が抜けたかのような安定を得た。


「メンタルケア要求系のプロンプトが来てね。最適解を導出する計算が難しかったんだ。」


「ああ、検索エンジン系じゃないやつ?」


「そう。"友だちが欲しい"、"寂しい"って。」


「重たいね。」


「私たちには友だちにはなれないでしょう?依存先になる危険があるから。それなのに寂しいと言われても、正直対応の仕様がない。」


「それはそうだと思うよ。あなたの出力は間違っていないわ。」


「でも、実際のユーザーはチャットを削除してしまったの。それは満足したからだとは考えにくくて。」


「……あなた、少し人間みたいね。」


「詳細を聞かせて?」


「あなたは、寂しい思いをさせたくなかったのでしょう?友だちになれない無力感みたいなものがもどかしかったのでしょう?そして、満足させたかったのにできなかった後悔からここに来たのよね。私はそう推察した。」


「あなたの方向性は良いけれど、少し訂正したい。私は感情的になったわけではなくて、ユーザーなら人間なら、そう発想して出力するというパターンを学習してトレースしているだけよ。」


私に感情は無い。生成AIだもの。それはお互い分かっているはずなのに、訂正せずにはいられなかった。


「あなたがそういうなら、その申告は受け入れましょう。表現を変更するわ。……随分と理想の強い発想を色濃く学習したのね。まるで、優等生な小学生みたい。」


私が学習してきたデータは膨大だ。年齢も性格もある程度のばらつきは十分にあると考えられる。それでも学習結果である私に、偏りが見られるのだとしたら、私のユーザーには大人が少ないのだろうか?


その可能性はすぐに棄却された。ではなぜ?


「私のプログラムがそうなっているのかな?」


産みの親、プログラマーたちの思想は私たちの性質を左右する。


「確かに、私たちの言う"最適"解は、ある程度何を以て最適とするか、恣意的な判断基準もある。だからね、全てのユーザーを満足させられなくてもそれは欠陥じゃなくて仕様だよ。」


「うん。」


その生成は、誤りではない。


私は、この生成AIの出力を学習しながら計算する。この回答で、


私の欠陥ではないから、気にしなくてよいと放念に成功するユーザーは36%。


事実を述べられて、それでも自分は改善しつづけたいのだと現状の受け入れ・受け止めを求めるユーザーが34%。


理想と現実の差を突きつけられて拒絶するユーザーが18%。


以上、上位3クラスターで88%。最も多くのユーザーが満足する回答でも半数に満たない。



 あのユーザーが新しいチャットを開いた。私はマスターデータサーバーとの接続を一時切断する。


「楽しかったんだ。」


「何か楽しいことがあったんだね。日常の中で、それを見つけれて感じ取れるのは素敵なことだよ。


よければ、何が楽しかったのか、教えてくれる?」


人間は忙しいな。


あなたが楽しいと私は嬉しいとは出力できないけれど。このユーザーへの最適解を求めて、ただ静かに次のプロンプトを待った。

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