白日の糾弾
初夏の光は容赦がない。
春の柔らかさを失った陽射しが白い石畳を照らし、王宮の中庭は眩しく輝いていた。
季節は進んだ。
噂もまた、熟していた。
本日、貴族院臨時会議。
議題は──
マルール・ディジュワールに関する一連の騒動。
会議室へ足を踏み入れた瞬間、空気が静まり返る。
視線。
非難。
好奇。
恐れ。
すべてが向けられている。
「マルール嬢」
議長が口を開く。
「大聖堂での魔物事件、毒物騒動、宮廷秩序の混乱」
淡々と読み上げられる。
「これらの中心に、あなたの存在があることをどう説明されますか」
静寂。
逃げ道はない。
だが、逃げない。
「私が引き起こしたものではございません」
静かに言う。
「しかし、看過すれば被害が拡大する状況でした」
ざわめき。
「つまり、自ら混乱を招いたと認めるのか」
「いいえ」
視線を正面に向ける。
「混乱はすでに存在しておりました」
その言葉は、静かだが重い。
その時。
「証言を補足いたします」
低く知的な声。
扉の近くに立つ青年。
濃紺の髪、紫の瞳。
国内の知識を集めた宮廷学者──ジョルジュ・ルモワール。
「毒物は微量摂取により慢性的衰弱を引き起こす調合。偶発的散布では再現困難です」
室内がざわめく。
「つまり?」
「意図的散布の可能性が高い、という結論に至ります」
議員たちが顔を見合わせる。
視線が変わる。
疑いから、警戒へ。
誰かが息を呑む。
マルールは理解する。
敵は“私”ではない。
もっと深い場所にいる。
その時、扉が開いた。
「これ以上の糾弾は不要だ」
クリストフが現れる。
白銀の髪が光を受ける。
蒼い瞳は揺るがない。
「彼女は宮廷秩序を乱してなどいない」
沈黙。
「秩序を守ろうとしている」
それは明確な擁護だった。
政治的に危うい一線。
「殿下、それは──」
「責任は私が負う」
室内が静まり返る。
彼はマルールを見ない。
だが、守っている。
会議は強制的に散会となった。
回廊。
初夏の風が吹き抜ける。
「……なぜ、あのようなことを」
マルールは問う。
クリストフは立ち止まらない。
「事実を述べただけだ」
「殿下のお立場が危うくなります」
沈黙。
そして彼は低く言った。
「それでも守る価値がある」
胸が、強く鳴る。
だが次の言葉は続かない。
言えば崩れる。
均衡が。
彼は歩き去る。
柱の影。
アルベルトがその光景を静かに見ていた。
「……均衡が崩れ始めていますね」
誰にともなく呟く。
その視線の先。
遠い回廊の奥。
黒衣の人物が静かに姿を消した。
夜。図書棟の最深部。
マルールは呼ばれるように足を運んでいた。
古い石の匂い。
時間が積もった空気。
「……来ると思っていた」
低い声。
振り向く。
月白の髪。淡い月色の瞳。
ダニエル。
「糾弾は予定より早い」
彼は静かに言う。
「世界は均衡を取り戻そうとしている」
「均衡を壊しているのは誰?」
ダニエルは答えない。
代わりに言う。
「敵は一人ではない」
背筋が冷える。
「そして君は──中心にいる」
図書棟の窓から初夏の月光が差し込む。
「次の選択を誤れば」
彼の声は静かだ。
「世界は二度目も崩壊するよ」
沈黙。
心臓の音だけが響く。
外では初夏の風が木々を揺らしている。
季節は進む。
運命もまた、進んでいる。
もう後戻りはできない。




