第5話 魔王
静まり返る玉座の間。それも当然だ。神子でもある魔王の最初の一言が全力の叫びだったのだ。しかもそれがおっぱい。
玉座の間は床も壁も硬質な黒い鉱石で形成されているため、俺の全力のおっぱい宣言もよく響く。
そして訪れる耳が痛い程の静寂。
やべえよやらかしたよ。やばいなんていう言葉じゃ表せないくらいヤバい状況だよこれどうすんの。
配下達めっちゃ狼狽えてるよ。そらそうだろうな。自分達の王様の有難い最初の一言がおっぱいなんだから。
寧ろめちゃくちゃ動揺してるのにそれを一切表に出さないの凄くね
(いやよく見たら目がキョドってる。声とか身動ぎには出てないけど目が凄い荒ぶってる。眼球擦り切れそう)
「皆の者。魔王様はご降臨したて、即ち赤子の如き状態だ。下手な刺激を与えぬよう静かに玉座の間より去れ」
左の碧眼の騎士がすかさず弁明してくれたが、果たして如何程の効果があったか。
相変わらず称賛されるほどの無表情だが内心で「おっぱい? まぁ、生まれたてならおっぱいかぁ」と思いながらゾロゾロと退出する我が臣下達。
すまぬな。どうにも体の制御が出来ぬのだ。こういう時魔王なら「中々どうして、よく馴染むではないか……」みたいなムーブするべきなんだろうけど、マジごめん。
どうやら俺は魔王のパチモンだったようだ。
「では、我々も魔王様の自室へと向かいましょうか」
「ご案内致します」
「あぁ」
俺が座っていた禍々しい玉座から立ち上がり、後ろに刻まれている魔法陣に手を触れる。
同時に転移魔法の術式が自動で肉体に装填され、俺の視界は切り替えられた。
「面白いな」
「珍しい代物ではありません。魔王様がお使いになられるという事で性能面では最高峰ですが、似たような機構は今や誰にでも手に取れるようになっています」
赤眼の騎士がそう語ってくれた。これが魔法がある世界の文明か。どうにも魔法には独自の法則があり、それを用いて超常現象を引き起こしているようだ。
つまり、事前知識や技術水準さえ満たせば、俺にも魔法が……?
「それでは、ご説明させて頂きます」
「ここは魔神ルクレティシア様の恩寵篤き魔族の聖域『魔国』の北方。玄武領と呼ばれる地方です」
「五柱の魔王から大魔王と四天王を選出し、各地域を治める形で成り立っており、先日四天王の一柱が崩御した事により、魔王様は生まれました」
なるほど。
「質問だ。魔王というのは全員が女神サマ、あー要は神子なのか?」
「始祖の大魔王は神子でしたが、以降は全て一般魔族出身です。魔王としてルクレティシア様に認知されれば、加護が篤くなり上位種族へと進化しますが、これは仕様ですね」
魔王は魔族の中から女神サマに選ばれた者がなれる。魔王は強い加護の影響で進化した魔族になる。
「種族的な観点から言えば神子は魔王よりも加護を授かっている、でいいのか」
「そうなります。厳密には、始祖の大魔王は血盟による契りを結んだが故の神子ですが、実子となると魔王様が初となりますね」
なるほど。加護というよりは女神サマの持つ権能の一部が俺に受け継がれているのだろう。女神サマの実子として転生した影響か、すんなりと自分の状態が把握出来る。
(それにしても、『魔王』ねぇ)
確かに地球人類を殲滅する際には戯れに名乗ったが、まさか別世界で本物の魔王になるとは。
(そういや俺が遺した魔族は無事に宇宙を滅びせたのだろうか)
気にしてもしょうがないことではあるが、それでもやはり気になるというのが人間のサガだ。




