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 あんずは素朴だけどとても綺麗な顔をしていた。自然な美しさなようなものがあんずの顔にはあった。ありのまま。生まれたままのあんずがそこにはいた。あんずにはみゅうのように無理やり自分の形を変えようとしているようなそんな不自然な、歪な形の変化のようなものをまったく感じなかった。みゅうが憧れている自分の形になろうと必死に努力をしているのに、あんずはありのままの自分の形を自然と受け入れているような感じがした。そして、実際にその通りなのだろうとみゅうは思った。それはたぶん、あんずの性格なんだろうけど、それだけじゃない。あんずには特徴のある美しい声がある。素晴らしい歌がある。そのあんずの声が、歌が、あんずの自信になっているのだと思った。揺るがない絶対の自信に。

 あんずはずっと無表情で笑わない。怒ったりもしない。感情を表に出さない。風や雨のない日の湖の水面のように動きがない。あんずはとても強い目をしている。切れ長の大きな目。その目の奥には、強い光のような意志のようなものを感じる。眉毛は細くて、くちびるはいつも真っ直ぐに閉じている。顔に小さい。長い髪の毛はさらさらでとても美しかった。凛としているし、どこか冷たい感じがする。

 あんずはなにも言わない。ただもくもくと黙ったままでドーナッツを両手で持って食べているだけだった。

「あんずは、私でいいの?」と二人ともドーナッツを食べ終わったころにみゅうは言った。

「うん。いいよ」とあんず言った。

 あんずにそう言われて、思わずみゅうは私じゃ、あんずの足手まといになると思わないの? と言いそうになってしまっていうことをやめた。(また負け犬になってしまうところだった)その代わりみゅうは心に決めた。あんずとアイドルを一緒にやることを。あんずはきっと私のつばさなのだと思った。空を飛ぶための。大地から羽ばたくためのつばさなのだと思った。そしてあんずにとっても絶対に私があんずのつばさになってやると思った。

「わかった。一緒にアイドルをやろう」とあんずの顔を正面から見てみゅうは言った。

「うん。これからよろしく。みゅう」とみゅうの名前をはじめて呼んで、にっこりと笑ってあんずは言った。(それが、みゅうの初めて見るあんずの魅力的な笑顔だった。ナッツとドーナッツは口元にくっついているままだったけど)

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