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第八話 謎の男

「……っ!」


 次の瞬間、僕は反射的に走り出していた。

 想像もしない状態に、疲労さえ僕の頭から吹き飛んでいた。

 そして、すぐに僕はアズリアの部屋の窓が視界に入る場所にたどり着く。


 伝えるだけ伝えきえたクロはもういない。

 しかし、もう僕にもはっきりと確認することができた。


 ……黒い服に身を包んだ何者かが、窓から部屋に入っていったことを。


 その時既に、僕の頭は怒りで沸騰していた。


「……シロ、お願い」


「にゃう」


 走りながら、僕はシロを顕現する。

 僕の動きが変化したのはその瞬間だった。

 景色が前の倍以上の勢いで流れていく。

 明らかに前衛のスキルを持っているとしか思えない身体能力が、シロから僕へと授けられたのだ。

 一気に僕の走る速度が上がり、アズリアの部屋が目前まで迫る。

 次の瞬間、僕は全力でアズリアの部屋の窓へととんだ。


 窓が割れる音に、身体に走る衝撃。

 真っ黒な視界の中、何とか自分が窓から部屋に入れたと理解した僕は、無言でヒナを顕現する。


「おにい?」


 ……次の瞬間、ヒナの炎で照らされた部屋の中にいたのは、その大きな目に涙を浮かべて震えるアズリアと、その身体にナイフを突きつけた黒い服の男だった。


 瞬間、さらなる激情が僕の胸を支配するのを感じながら、僕は自分を驚愕の目で見ている男へと吐き捨てる。


「お前、人の妹になにしてる?」


「……くそっ!」


 僕の方へと一瞬で標的を変えたのはその瞬間だった。

 自分の喉元へと迫る男の腕に、僕は相手の目的が人を呼ばれる前に対処することだと理解する。

 恐怖で震えるアズリアが冷静さを取り戻し叫ぶ前に僕を倒せる。

 目の前の男はそう判断したのだ。

 そして、そう理解すると同時に、助けを呼ぶことなく僕は前に踏み出していた。


「……っ」


 想像もしない僕の攻撃に、男の腕が標的を失う。

 そして、その瞬間僕は男の腹部へと全力で拳をたたきつけた。


「ぐ……っ!」


 くぐもったうめき声が、僕の頭上から響く。

 しかし、それでもしっかりとした足取りに、僕は内心相手の実力におそれおののく。

 相手の判断に助けられた形の不意打ちだが、僕の攻撃はもろに入ったはずだ。

 なのに、意識をうしなうどころか、まだ闘志が揺るぎもしないこの男はどんな高位のスキルを持ってる、と。

 しかし、驚愕しているのは僕だけではなかった。


「こいつ、召還士じゃねえのかよ……!」


 うめくように吐き捨てられた言葉。

 そこには隠しきれない驚愕が浮かんでいた。

 しかし、動揺を覚えながらも男は止まることはなかった。


 次の瞬間、僕に向かって男の猛攻が始まる。


「……っ」


 一気に防戦で手一杯になった僕に、男の顔に笑みが浮かぶ。

 ヒナに照らされたその額に浮かぶ脂汗から、男も決して余裕ではない。

 けれど、僕も一切余裕はなかった。

 男の攻撃をいなすのに精一杯で、僕には助けを呼ぼうとする余裕などない。


 そんな僕に安堵するような目を浮かべる男に、僕はこれが男の狙いだと理解する。

 このまま僕を倒すことが、男の考えなのだと。


 ……実際、今の僕は圧倒的不利だった。


 室内で戦うには不利だと思った僕は、今武器を持っていない。

 そして、僕は素手による戦いの経験がほとんどなかった。

 なぜか男もナイフを使っておらず、素手でこちらに向かってきている。

 だが、圧倒的に向こうの方が素手においては強い。


「ぴよ……」


 それを打開しようにも、炎の精霊であるヒナは室内で使えない。

 室内に燃え移れば、僕どころか恐怖に固まっているアズリアにさえ被害が及びかねない。


 そんな状況に、自分の有利を確信した男の口元に笑みが浮かぶ。

 ……しかし、次の瞬間その男の笑みが固まることになった。


「何だ、お前……」


 そう、僕の口元に浮かぶ笑みによって。


 男の問いに答える余裕は僕にない。

 だから、僕は答える代わりに実践することにした。


「……にゃう」


 窓の外、頼りになる仲間の眠そうな声が響く。


 ──轟音を伴い、雷が落ちたのはその直後だった。

 明日から1日二話投稿にさせて頂きます!

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