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第六話 本当に言いたかったこと

「本当におにいは、私がいないと駄目ね」


 ……そうアズリアが口を開いたのは、そんなことを僕が考えていた時だった。

 その言葉に、僕は自分の胸が痛むのを感じる。

 しかし、何とかその気持ちを抑えて僕は笑って口を開く。


「うん。本当にいつも治癒してもらって助かってる」


「ふ、ふん。本当はすごく面倒何だけどね! 時間も消えるし、夜も遅いし? まあでも、私は優しいから。こ、これからも特別に見てあげるわよ!」


 そういいながらも、なぜかどこか嬉しそうなアズリアの姿に僕は少し首を傾げる。

 ……とはいえ、今の状態では僕がアズリアに頼りきりであるのは事実立った。

 ここまで付き合わせたことに申し訳なさを覚えながら、僕は口を開く。


「本当にいつもごめん。で、でも、最近ようやく僕も自分である程度の傷なら処置できるよう……。え、アズリア?」


 僕がアズリアの冷ややかな目に気づいたのは、そう話している途中のことだった。

 いつになく冷ややかに僕をみるアズリアは、さっと顔を逸らして吐き捨てる。


「……そんなんだから、身長伸びないのよ」


「アズリア!?」


 ぶすりと僕の一番の弱点をついてきたアズリアに、僕は悲鳴を上げる。

 そんな僕にアズリアは悪戯ぽく笑い、次の瞬間立ち上がって僕を見下ろす。

 そして、自分の身長と座った僕の高さを比べながら笑った。


「後一年かしら?」


「……言っておくけど、僕も身長伸びてるからね?」


「はっ」


 盛大に鼻で笑った後、アズリアは椅子に座り直す。

 僕は内心衝撃を受ける。

 ……いや、さすがに妹に背を抜かれるなんてことあり得るわけない。


「とにかく、申し訳なさそうにするのはやめなさい。私は別にあんたに謝ってほしくて治療してあげてる訳じゃないんだから」


「……え?」


「私は自分がやりたいと思ってるからあんたに協力しているだけなんだから。役に立ってるなら、ごめんじゃなくてありがとうって言ってくれないかしら」


 俺からわずかに顔を逸らしてアズリアが告げた言葉、それに俺は呆然と目をみほる。

 暗くてその顔色は分からない。

 ただ、それでも俺にはアズリアが照れているのを理解することができた。

 思わず言葉を失った俺に対し、アズリアは焦ったように自分の前で両手をふる。


「あー、もう! こんなことどうだっていいの!」


「え、アズリア?」


「そもそも私は怒りにきたんじゃなくて他に用があって来たの!」


「……用?」


 そう聞き返した俺に、姿勢を直し正面に向き直ってからアズリアは口を開いた。


「あんた、オーガ討伐したんでしょ? ……私くらい、それをほめてあげないとと思って」


 ……それは僕のまるで想像もしていなかった言葉だった。


「どうして、それを?」


「……二日くらい連絡もなしに姿を消しておいて、よくそんなこと言えるわね」


 そうじと目で告げるアズリア。

 しかし、その言葉を聞いても僕の中の衝撃がきえることはなかった。


 ……なぜなら僕は、あの両親なら数日僕がいなくても気づかないことを知っているから。


 しかし、呆然とする僕にきづくことなくアズリアは続ける。


「ほんと、私に連絡くらいは入れなさいよね。何の為の治癒スキルだと思ってるんだか。まあでも、Cランクのオーが討伐なんてすごいじゃない!」


 にっこりと笑いながら、アズリアは立ち上がる。


「確かに貴族としての能力としては穀潰しかもしれない。でも、私あんたのこと結構……その、まあ悪くないんじゃないかと思ってるわよ?」


 アズリアらしい、遠回しなほめ言葉。

 しかし、僕はその言葉が染み渡ってくるような感覚を感じずにはいられなかった。


「……まあ、それだけだから。とりあえず私は寝るわね」


 そう告げ僕に背中を向けたアズリアに僕は何か言おうとして、けれど言葉が思いつかず黙る。

 そんな中、ふと思い出したのは先ほどのアズリアの言葉だった。


「あ、ありがとう。アズリア!」


 必死にその言葉を告げると、アズリアの方がぴくりと反応し、動きが止まる。

 それからアズリアはゆっくりと振り返った。


「どういたしまして。その……頼りにしてるからね、お兄様」


 その言葉を継げると、アズリアはいつもからは考えられない早足で去っていった。

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