第五話 完全無欠な妹
……やらかした。
アズリアの言葉を聞いた瞬間、僕の胸に広がったのはそんな言葉だった。
しかし、内心の動揺を何とか胸に押し込んで僕は笑ってみせる。
「そんなことないけど? 少しつかれた……」
無言でアズリアが、咄嗟に隠した方の身体。
精霊との訓練で作ったやけどへと、手を伸ばしたのはそのときだった。
「……っ!」
できて間もない傷への刺激に、背中にいやな悪寒と鋭い痛みが走り、僕は思わず身体を硬直させる。
そして、そんな僕ににっこりと笑いかけてアズリアは告げた。
「まだいいわけある?」
「……ないです」
「はぁ……。本当にどうしていつも私の話を聞かないのかしら」
そう嫌みたらしく大きなため息をつくアズリアに、僕はなにも言えずただ背中を縮めることしかできない。
そんな僕に、アズリアは無言でこっちに来いとゼスチャーする。
それだけで妹の目的を理解するには十分だった。
上半身の服を脱いだ僕は、アズリアの方へと向かう。
そして、先程できたやけどをアズリアの方へと向けた。
「ん」
患部が緑色の光に包まれたのは、その瞬間だった。
傷が治っていくこそばゆい感覚を感じながら、僕は身体から力を抜く。
そして、アズリアへと口を開いた。
「……いつもごめんね」
「本当に反省しなさいよね。私のスキルにどれだけお世話になってきてると思ってるの?」
その言葉に、僕は苦笑する。
本当にアズリアには頭が上がらないと。
そう、アズリアのスキル。
それは僕と同じ非戦闘系でありながら、圧倒的価値を誇る治癒スキルだった。
僕と違い、社交界でもアズリアの評判は高い。
……そんなアズリアに、僕は劣等感を覚えていた。
実のところ、こうしてアズリアが僕のところに来てくれるのは初めてではない。
一体何度こうして傷を治しに来てくれたか、もう数え切れないだろう。
両親にも期待される才能を持ち、そして人間としても優しい完璧な妹アズリア。
僕の側にしてくれるアズリアの存在にありがたみを感じながら、同時に僕は彼女の存在と自分を比べずにはいられなかった。
どれだけ頑張ろうが、最終的には無能でしかない自分と。
そして、そんなことを考える度に僕はさらに思うのだ。
……自分は本当になんて情けない人間なのだろうと。