表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/55

第五話 完全無欠な妹

 ……やらかした。

 アズリアの言葉を聞いた瞬間、僕の胸に広がったのはそんな言葉だった。

 しかし、内心の動揺を何とか胸に押し込んで僕は笑ってみせる。


「そんなことないけど? 少しつかれた……」


 無言でアズリアが、咄嗟に隠した方の身体。

 精霊との訓練で作ったやけどへと、手を伸ばしたのはそのときだった。


「……っ!」


 できて間もない傷への刺激に、背中にいやな悪寒と鋭い痛みが走り、僕は思わず身体を硬直させる。

 そして、そんな僕ににっこりと笑いかけてアズリアは告げた。


「まだいいわけある?」


「……ないです」


「はぁ……。本当にどうしていつも私の話を聞かないのかしら」


 そう嫌みたらしく大きなため息をつくアズリアに、僕はなにも言えずただ背中を縮めることしかできない。

 そんな僕に、アズリアは無言でこっちに来いとゼスチャーする。

 それだけで妹の目的を理解するには十分だった。

 上半身の服を脱いだ僕は、アズリアの方へと向かう。

 そして、先程できたやけどをアズリアの方へと向けた。


「ん」


 患部が緑色の光に包まれたのは、その瞬間だった。

 傷が治っていくこそばゆい感覚を感じながら、僕は身体から力を抜く。

 そして、アズリアへと口を開いた。


「……いつもごめんね」


「本当に反省しなさいよね。私のスキルにどれだけお世話になってきてると思ってるの?」


 その言葉に、僕は苦笑する。

 本当にアズリアには頭が上がらないと。


 そう、アズリアのスキル。

 それは僕と同じ非戦闘系でありながら、圧倒的価値を誇る治癒スキルだった。

 僕と違い、社交界でもアズリアの評判は高い。


 ……そんなアズリアに、僕は劣等感を覚えていた。


 実のところ、こうしてアズリアが僕のところに来てくれるのは初めてではない。

 一体何度こうして傷を治しに来てくれたか、もう数え切れないだろう。


 両親にも期待される才能を持ち、そして人間としても優しい完璧な妹アズリア。


 僕の側にしてくれるアズリアの存在にありがたみを感じながら、同時に僕は彼女の存在と自分を比べずにはいられなかった。

 どれだけ頑張ろうが、最終的には無能でしかない自分と。

 そして、そんなことを考える度に僕はさらに思うのだ。


 ……自分は本当になんて情けない人間なのだろうと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ