表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

第47話 試験再開

「……は?」


 呆然としたサーシャさんの声が聞こえる。

 しかし、そちらに目を向けることなく僕は腕に力を入れる。

 痛みはある。

 それでも、僕は何とか立ち上がることに成功する。


「ありがとね、ヒナ」


「ぴぃ……」


 心配そうなヒナにお礼を告げる。

 先ほどの攻撃は僕の想像以上に身体に響いていた。

 ヒナの付与がなければ、こうして立ち上がるのも難しかっただろう。

 それほどのダメージを僕は与えられていた。


「ちょっと、なにを言ってるの! そんな状態で……!」


 そんな僕に対し、サーシさんがあわてた様子で近づいてくる。

 その目に浮かぶのは、僕に対する心配だった。

 それをみるだけで、僕の胸に暖かいようなくすぐったいような気持ちが広がるのがわかる。

 改めて思う。

 サーシャさんとあえた事は、僕にとって幸運だったと。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


 だからこそ、僕は引き下がるつもりなんかなかった。


「ライバート……?」


 一切引く気がない僕に対し、サーシャさん唖然と目を見開くのがわかる。

 そんなさーしゃさんに、僕はもう一度笑顔で告げる。


「──僕は大丈夫です」


「……っ」


 一切心にも思っていない言葉を。


 確かに、僕は多少戦える部類に入るだろう。

 それは僕も理解している。

 ただ、その上で僕は理解していた。

 ……だからといって、頑強なるバルク相手の試練を合格できる自身など、僕はなかった。


 その話しをすれば、父も母も笑うだろう。

 何せ、僕だってそんなことあり得ないと思うような話なのだから。

 今だって、僕は笑顔はなんとか浮かべているだけ。

 ひきつってしまっていて、浮かべるので限界だった。


 ……内心は逃げたくて仕方がなかった。


 それほどに、頑強なるバルクはとんでもない存在であることを僕は理解していた。

 かつてアズリアを守るべく命のやりとりをした暗殺者が僕の頭によぎる。

 目の前に立つ支部長は、あの暗殺者より恐ろしかった。

 それでも、僕は必死に笑って告げる。


「僕は絶対にギルド職員になりますから」


 ──そのどれもより、サーシャさんの信頼を裏切ることの方が僕には恐ろしかった。


 サーシャさんは知りもしないだろう。

 どれだけ僕が感謝して、過ごしているかを。

 瞼の裏には、あの日の星空が瞬いている。

 もうあの日のような思いを抱くなら。


 自分の好きな人の期待に答えらない無力感を抱えるなら、身体が張り裂けた方がましだった。


「ありがとうね、ヒナ」


「……ぴぃ」


 ヒナの権限が解ける。

 姿が消えたヒナの代わりにその場に顕現したのは相変わらず眠そうな顔のクロだった。


「ムリハスルナ」


「うん、ありがと」


 頷き、お礼をいうと僕は支部長の方へと目を向ける。


「おう、準備は終わったか?」


 楽しげな様子を隠すこともなく、支部長は告げる。


「唆しておいてなんだが、本気で来るとは思ってなかったぜ。誇っていい」


「そんな大した話じゃないですよ」


 そういいながら、僕は笑う。


「僕はもう逃げたくないだけだから」


「そうかよ」


 その言葉に、歯をむき出しにして支部長も笑う。


「条件変更だ。俺の頭か腹のどっちでもいい、一撃当ててみろ」


 何も変わらない条件。

 それに苦笑しながら僕は木剣を握りしめる。

 そして試験が再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ