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第34話 驚きの生活

 ゆっくりと僕は帰路、サーシャさんの家を目指す。


「……それにしても数日とは思えない程色んなことがあったな」


「ぴい」


 その僕の心を支配するのは、この数日の生活の変化だった。


 その一番の変化と言えば、僕が正式にギルドの雑用になったことだろう。

 正式な給金が僕には出て、雑用からは程遠い身分となった訳だ。

 これで僕はここで暮らす分には何の問題もないだろう。

 しかし、それ以上に僕の胸を支配するのは別のことだった。

 それは待遇の変化ではなく、態度の変化。


「……これだけでいいのか」


 先ほどのナウスさんが頭に浮かぶ。

 今まで僕は、あんな態度を家族からもらうために様々な手段をとってきた。

 様々なことに手を出し、その度に挫折してきた。

 それに比べ、今ギルドで僕が行っているのは本当に些細な手助けにすぎない。

 それにも関わらずこうして僕を歓迎してくれるギルドの人々が僕には不思議な存在だった。

 ただ、僕は思う。


 こんな僕でも、人の役に立つことができるのだと。


「……いや、ヨハネスは僕のことを見てくれていたな」


 かつての家宰を思い出しながら、僕はそう呟く。

 こうした日々を経て、今の僕は理解していた。


 あの時の自分はあまりにも視野が狭かったのだろうと。

 過去の自分を冷静に見直せるようになった自分がおかしく感じて、僕は思わず笑みを漏らす。


「ふふ」


「ぴい?」


「何でもないよ」


 そうヒナにいいながら、僕はサーシャさんの家を目指して歩く。

 サーシャさんも、このオークの肉を見れば喜ぶだろうと。


 ……そんな僕の気持ちが残っていたのは、サーシャさんの家につく直前までだった。


「え? 昨日掃除したのに?」


 帰宅した僕の目の前、そこに広がるのは散らかりに散らかった部屋の光景だった。

 帰宅早々その光景を目にした僕は、呆然と固まる。


「……あっ」


 背後から間抜けな声が響いたのは、その時だった。

 ゆっくりとそちらを見ると、そこにいたのは急いで掃除をしようとするサーシャさんの姿だった。

 一瞬その顔色が青くなるものの、すぐに気を取り直して告げる。


「あ、ちょっと待ってて。少し時間をくれれば……」


 瞬間、サーシャさんが手に持っていた荷物が背後に落ちる。

 がたん、という音と共にほこりが舞い上がり、気まずい沈黙が家の中を支配する。

 一瞬というには、長い沈黙の後僕は思い口を開く。


「……大丈夫です。着替えた後に僕がやりますので、サーシャさんは仕事に戻って下さい」


「……はい」


 すごすごと戻っていくサーシャさん。

 その背中を見送った後、僕はヒナに笑いかける。


「それじゃ、やろっか」


「ぴい……」

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