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第33話 変わり始めた生活

「ライバート、本当にいつもありがとうな……」


 少し薄くなったくまの残る、眼鏡のギルド職員……ナウスさんに僕がそう言われたのはギルドの前のことだった。

 時間はちょうど今日の配達分が終わった午後になりかけの時間。

 ナウスさんは本当に感極まった様子で告げる。


「ライバート達がいなければ、本当にどうなっていたことか……。本当に来てくれたありがとうな!」


「にゃう!」


「おお、シロ! お前にも、また昼頃にきたらお裾分け期待しといていいぞ!」


「にゃうぅっ!」


 狂喜乱舞して周りを走り回るシロと、どこかゆるんだ表情でシロを見守るナウスさん。

 それを苦笑して見ながら、僕は口を開く。


「いえ、僕はあくまで郵送しているだけですから」


「それがどれだけ俺たちにとってありがたいことか、今のお前なら分かるだろうに」


 そう笑っていいながら、ナウスさんは僕の肩をたたく。

 それは少し強い勢いだったが、そこにナウスさんの感謝が入っていることを理解する僕は、苦笑するだけにとどめる。


「隣街のギルドがもう少し大きければな……。あそこでは、使える伝書鳩の数も限られているし、直接持って行かないといけない荷物も多い。ライバートの存在がなければ、一体どうなっていたことか」


 そうしみじみと告げるナウスさんに、僕は思わず苦笑する。

 実のところ、異常なギルドの疲労具合には、手紙の運搬という業務も原因の一つだった。

 誰もが嫌がるが、誰か一人はしないといけない。

 なおかつ、郵送している間の作業は他の人間に降りかかる、とにかく時間を奪う仕事。

 それがあの郵送だった。


 故に、それがないことにより今のギルドの作業効率は大きく上がっていた。

 そしてその状況を作り出した僕へのギルドの人々の評価は、大きく上がっていた。


「そう、これはギルドの面々からのお裾分けだ」


「え、また!? いいんですか?」


 そう言って、僕は手渡されたオークの肉を呆然と眺める。

 これは本来、ギルドから職員へと渡されたはずのものだった。

 しかし、最近僕はお裾分けと称してこのお肉を渡されるようになっていた。


「いいんだよ、この忙しさだと俺達に料理する時間なんてないしな。いくら魔獣の肉は長持ちするといっても、ずっとおいて置くことなんてできないしな」


 そこでにやりと笑って、ナウスさんは告げる。


「それなら、お前に渡してしまってお裾分けを期待する方がよっぽど賢いてもんだ」


 その言葉に、僕は思わず照れ笑いを浮かべる。

 ただ、自分のつたない料理にこうして喜んでくれるのが、うれしくて。

 しかし、こうして色々なことをしてくれるのは、それだけではないことを僕は理解していた。


「だから、遠慮なく受け取れライバート。俺達はお前に受け取って欲しいんだから」


 ──そう、これはナウスさん達の僕に対する信用の証であることを。


「……ありがとう、ございます」


 その事実がどこか照れくさく、俯き加減になる僕。

 それに、快活に笑ってナウスさんは告げる。


「水くさいこと言うなよ! あ、サーシャにもよろしく言っておいてくれ!」


 それを最後に僕に背を向け、去っていくナウスさん。

 その姿を見ながら、僕は思う。

 ……ここに来た当初、こんな風に知り合いが増えるなんて想像もしていなかったと。


「まだ、ここに来て六日……。僕は本当に運がいいな」


 ラズベリアに来てまだ数日。

 けれど、僕の生活は大きく変わっていた。

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