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第29話 ギルド前

「……本当に来ちゃった」


 そう呟く僕の目の前に立っていたのは、強大な年期の入った建物……通称ギルドと呼ばれる場所だった。

 昨日、サーシャさんにギルドの雑用に誘われたことは記憶に新しい。

 それからあれよあれよと言う間に、翌日にギルドにいくことが決まっていた。

 未だ混乱が収まらない僕は、呆然とギルドを見上げることしかできない。

 しかし一方で、隣に立つサーシャさんは満面の笑みで口を開く。


「ようこそ、辺境ギルドへ。ここに来てくれることを快く認めてくれて、本当に感謝しかないわ!」


「……僕まだ、やるとも言ってないまま何ですけどね」


「いいからいいから!」


 そう言って、僕の背中を強引に押してくるサーシャさんに、僕は思わず嘆息をつきそうになる。

 それは、誘った側が言う言葉ではないだろうと。

 しかし言っても無駄であることを僕は理解していた。

 ……了承の言葉さえ聞こうとせず、強引に予定だけを話された昨日だけで、それくらい理解するには十分だった。

 昨日のことを想い出し、僕は今度こそため息をもらす。


「はぁ……」


「あら、他にまだ何かしてほしいことあるの?」


 しかし、にっこりと笑ってそう話しかけてきたサーシャさんに、僕はすぐにため息を後悔する。

 もう遅いが。


「給金支払うこと、私の家のもう少しいて良いこと、その間に住める場所を探すこと」


 淡々と条件を告げていくサーシャさん。

 それは、この雑用の対価として僕にサーシャさんが与えてくれた条件だった。

 正直それは過剰な程の条件で、僕に不満などない。

 ……僕が後悔している所以はその後の態度だった。


「それ以外にライバートに必要なこと? 私には分からないけど」


「いえ、もう良いです。僕が悪か……」


「もしかして、この私に何かしてほしいてことかしら……?」


 にやり、と意地の悪い笑みを浮かべてそう尋ねてくるサーシャさん。

 その言葉に、非を認めるのが遅かったことを理解し、僕は唇をかみしめる。

 けれど、後悔先に立たず。

 こうなった、からかうモードになったサーシャさんは満足するまで止まらない。


「ええ、そんなこと考えてたんだー」


「……っ。やめ、話して下さい!」


 そう言いながら、強引に肩を組んでくるサーシャさんに僕は必死に逃げる。

 ……その態度が、さらにサーシャさんを面白がらせているとわかりながらも。


「むっつり」


「……なにも文句はないから、早く行きましょう。時間は有限ですよ」


 にやにやとこちらを見てくるサーシャさんを無視し、僕はそう言葉見直に告げる。


「ほんとに?」


「はい、本当です! 感謝してますから、仕事に取りかかりましょう!」


 半ばやけになって僕が告げると、楽しそうサーシャさんは笑う。

 その姿に僕は何か言い返したくなるが、ぐっとその内心を押し込んだ。


 何せ、本当に感謝しているのは確かだったのだから。


 確かにサーシャさんは強引で、僕をからかって遊んでいる。

 とはいえ、この条件に関しては悪くない、どころか破格の物だった。

 それに関しては、僕も理解している。


 ……そしてそれ以前に、僕は一切の報酬がなくてもこの雑用をしたい、と思う程度にはサーシャさんに恩を感じていた。


 それに、僕にだって分かっているのだ。

 間違いなく、サーシャさんは僕のことを思って、この話をくれたことを。

 だから改めてギルドの方へと向き直った僕は、迷いない足取りでその扉をくぐる。

 この厚意に応える為に、少なくとも完璧な仕事をして見せようと。


「ではさっさと終わらせましょうか。隣街までの配達を」

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