表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/55

第14話 そして失ったのは

「……僕、は」


 次の瞬間僕の口から出たのは、自分のものだと信じられないようなかすれた声だった。

 その時にはもう、今まであった胸の熱さなど消え去っていた。

 あるのはただ、自分がやってはいけないことをしてしまったという懺悔の念。


「そこまでにしておけ」


 父が、息を荒げる母を制止したのは、そのときだった。

 母よりは幾分ましな、けれど怒りが滲む目を僕に向けて父は告げる。


「これでお前は、自分がどれだけ軽率なことをしたか理解できたか?」


 その言葉に、僕はなにも答えることができなかった。

 ただ、呆然と立ち尽くす心の中浮かぶのは罪悪感だった。

 僕の頭に、アズリアの笑顔の姿が思い浮かぶ。


 ……僕は、あの唯一自分に親身に接してくれたアズリアの未来をつぶしたのだ。

 呆然とうなだれる僕に対し、衛兵だけは止まることはなかった。


「お待ちください、当主様……」


「貴様は黙っておれ! これは家族の問題だぞ」


「いえ、黙りません! どうか聞いてください。ライバート様は……」


 僕が衛兵を制止すべく手を伸ばしたのは、その瞬間だった。

 衛兵は反射的に僕の手を振り払おうとして、その途中で動きが止まった。


「……ライバート、様?」


「ありがとう。……でも、もう大丈夫だから」


 そう何とかほほえんだ僕は、父に向き直る。

 そして、深々と頭を下げた。


「……父上、この度は誠に申し訳ありませんでした」


 その動きだけで、僕の傷ついた身体には痛みが走る。

 しかし、そんな僕の以上に一切気づくそぶりもなく、父はうれしげに笑って告げる。


「そうか、ようやく理解できたか。自分がどれだけ考えなしな行動をしたかを?」


 あの瞬間、僕の決断が間違っていたか。

 そう聞かれても、僕には判断はできない。

 けれど、その言葉に僕が反論することはなかった。

 ただ、頭を下げた状態のまま、父の言葉に僕は頷く。


「……はい。なにを言われても、僕は従います」


 そう言いながら、僕の頭に浮かぶのは笑顔のアズリアの姿だった。

 あのできた妹の貴族としての人生を僕は台無しにした。

 唯一僕を家族として見てくれていた人間までも、僕は守り通すことができなかった。


 ……そんな自分が、僕は誰より許せなかった。


「そうか。ようやく自分の立場を理解したか。……もっと早くに自分の立場を理解できていれば、こんなことにならなかったのにな」


 その僕の言葉を受けて、そう父は見るからに残念そうにそう告げる。

 そして、淡々と僕に向かって吐き捨てた。


「ライバート、貴様は今回の件で穀潰しでさえなくなった。貴様を勘当する。この家から出て行け」


 そしてその日、僕は家族という今まで養ってくれた存在から追放されることになった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ