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第九話 雷鳴

「……は?」


 男にあった余裕がはがれ落ちたのはその瞬間だった。

 それどころか、その動きが明らかに鈍る。

 目の前にいる僕が、その隙を見逃すわけがなかった。

 今度は逆に僕が男へと、猛攻を開始する。


「……お前か!」


 その僕の攻撃を受け流しながら、男の顔に怒りが浮かぶ。

 僕は答えず、ただにっこりと笑う。

 男が僕に向けてきたように。


 それが何よりの答えだった。


 そう、僕が助けを自分で呼ばなかったのには理由があったのだ。

 衛兵を呼ぶ雷を起こしたのは僕が部屋の外に待機させたシロだった。

 シロは風の精霊で、雷扱うことができる。

 ただ魔法を使うだけなら気づかれて阻止されるかもしれない。

 故に僕は不意打ちが成功し、注意が僕に向いてから発動するよう、胸の中で指示しておいたのだ。


「くそ! どうして前ももって詳細に精霊に指示をとばせる? あの音は間違いなく初級の雷じゃないだろうが……!」


 実のところ、精霊に前もって詳細な指示がとばせるではない。

 今はシロと考えを共有できているだけにすぎないのだ。

 そして、あれは威力の代わりに音と光を強くした初級魔法でしかない。


 だが、それを素直に教える義理もなく、僕は無言で男の攻撃をさばく。

 そんな僕を、しびれを切らしたように男はにらみつける。


「……少し痛い目にあってもらうぞ」


 男の猛攻が始まったのは、次の瞬間だった。

 それは先ほどさえ比にならない攻撃で、一気に空気が張りつめる。


「くっ!」


 しかし、先程とは対照的に焦りを顔に浮かべるのは男の方だった。

 実力に関してはお互い代わりはしない。

 室内での戦闘を得意とする男に対し、僕はほとんど武器を封じられた状況だ。

 しかし、先程と違って僕には明らかに余裕が存在した。


 何せ、僕の役目は衛兵が来るまで待つだけなのだから。


 正直なところ、スキルを持つものが多いわけではない衛兵の実力は僕に劣る。

 けれどもこれまで何度も一緒に戦ってきた僕と衛兵はお互いの向き不向きをよく理解している。

 彼らさえ来れば、目の前の男にも僕は負ける気はしなかった。


 そのことは知らずとも、明らかに危機的状況だと理解している男の動きには、明らかに焦燥が滲んでいた。

 それが男の動きをさらに雑なものにし、僕は確信する。

 このままであれば、僕は時間を稼ぐことができると。


「……戦闘音が聞こえる! 急げ!」


 そして、部屋の扉の向こう、待望の声が聞こえたのはその瞬間だった。

 それに僕は笑みを浮かべ。


 男の目がぞっとするほど冷たい光を浮かべたのはそのときだった。


「仕方ねえ。人質に使えたら最高だったが、警告でも十分仕事は達成したことになる」


 そう呟いた後、男は今まで使ってなかった短剣を振り上げる。


「え?」


 その切っ先の延長線上にいたのは、未だ事態を理解できていないアズリアだった。

 その切っ先からアズリアまで距離があり、普通ならまだ数秒の間があると判断する状況。

 しかし、僕の背中に悪寒が走る。

 このまま放置してはならない、という。


「ということで痛い目にあってくれや」


「ヒナ……!」


 瞬間、僕はその予感に従いアズリアの方へと駆け寄りながら、指示を出していた。


「ぴい!」


「ぐっ!」


 僕の声に応え、ヒナは炎の魔法を使い男のナイフを持った方の腕へと魔法が当たる。

 そしてその切っ先がぶれるが、けれどその切っ先が完全にアズリアからずれることはなかった。

 次の瞬間、その短剣からアズリアへと黄色い閃光が放たれた。

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