プロローグ 始まりの日
その瞬間。
人生が変わることになった、十歳の誕生日を僕は今もはっきりと覚えている。
「……しょう、かんし?」
即ち、自分のスキルが底辺と言われるものだとしったそのときを。
呆然とたたずむ僕の頭に、これまでのことが走馬燈のように流れていく。
そんな中、僕の頭の中で何度も流れる記憶が存在した。
──僕、いつか立派な騎士になって、英雄になる!
──ライハードならきっとなれるさ。
それは、スキルが発現する数日前に父と交わしたやりとりだった。
その時も無邪気な僕は、他の子供と同じく自身が英雄になることを夢想していた。
……だから、まるで想像もしない現実に僕は呆然と立ち尽くす。
これが、他のスキルであれば僕はまだここまで落ち込むこともなかっただろう。
しかし、この召還士というスキルだけは、絶対に僕が避けたいものだった。
このスキルを得た時点で、僕は貴族として死んだことになるのだから。
このスキルでは初級の魔法しか使えない初級精霊しか顕現できない。
つまり、召喚士とは戦う以外の役割がないにも関わらず、ほとんど戦う事のできないスキルなのだ。
治癒のスキル、鑑定のスキル、そして、鍛冶や錬金術のスキル。
戦わないスキルに関しては、決して少なくない。
けれど、そのスキルには全て役割がある。
役に立たない訳ではない。
けれど、全てが中途半端にしかこなせない、最底辺のスキル。
そう貴族社会で呼ばれるものこそ、この召喚士のスキルだ。
それこそ、そのスキルを得ただけで断絶する貴族もいるほどに。
「……そもそも、うちの血筋の中でこのスキルを得た人間はいなかったはずなのに、どうして?」
震える声が、僕の中から漏れる。
僕にはただ、これが現実でないことを祈ることしかできなかった。
扉の外、足音が響いたのはそのときだった。
「ライハード!」
「……っ」
次の瞬間、部屋に押しは行ってきた父の姿に、僕は反射的に身体を固くする。
僕の頭に、断絶の二文字が浮かぶ。
次期当主である僕がこのスキルを得たと知れば、父が怒り狂ってもおかしくない。
「スキル、召還士だったらしいな」
しかし、その僕の想像に反し、父の声は優しかった。
それどころか、少し喜びさえにじんでいる気がして、僕はゆっくりと顔を上げる。
もしかして、慰めにきてくれたのはではないか、そう思って。
「これはもう、お前は穀潰しだな」
「……え?」
──だから、次の瞬間笑顔で父が告げた言葉を、僕は受け入れられなかった。
あの優しい父の口からでた言葉を、僕は少しの間受け入れることができなかった。
けれど、そんな僕に気を止めることもなく父は続ける。
「まあ安心しなさい。お前が穀潰しでも、私はお前を捨てはしない。だから、覚えておきなさい」
僕の頭を雑になでながら、父は告げる。
「……お前はとんでもなく優しい家族に恵まれた、ということを」
それは、本来僕が望んいでいた状況だった。
こんなスキルでも、僕を見捨てない。
そう僕は家族に言って欲しかったのだから。
「はい」
……なのに、どうして涙が出るんだろう?
なんとか、くしゃくしゃの笑顔を作って頷いた僕には、もうなにも分からなかった。
新連載になります!
本日はあと二話更新させて頂きます。