第1話
「ナメられてるんだよ!」
エルフの村から出稼ぎで冒険者ギルドのあるこの町に来たノーラは、一緒に村から出て来たカミラとテレサに今日も酒場で愚痴っていた。
「そんなことないと思うけど…」
とテレサがいうと、カミラがいった。
「アンタは調子いいもんね」
自身のパーティーで仲良くやっているテレサは、あまり積極的に会話に加わらなかった。
ノーラの愚痴は続いた。
「アタシらだって、好きでこんな町に来てるんじゃないのに」
カミラが答える。
「出稼ぎエルフが、多すぎるよね」
「エルフに変な幻想ばっか持っててさ、『エルフなら魔法で何でも出来るだろ』とかさ」
「ちょっとクエストの途中で魔物と戦って、『痛い』とか『怖い』とかいってたら、『黙れ!』っていわれて、慰めてもくれないのよ」
テレサがいった。
「それは普段の関係性からじゃないの?」
カミラがいった。
「冷たいんだよ!」
「オスもメスもクズばっかだ、人間!」
「アイツら、呪ってやろうか」
ノーラの愚痴はヒートアップしていく。
「何にでも金が掛かるし」
「金が掛かるから、みんなカリカリしてる」
「金の奴隷だよ」
エルフの村なら畑で野菜が取れ、山に入れば薪が手に入る自給自足の暮らしだったが、町ではそうもいかない。
「村が懐かしいな…」
テレサがいった。
「じゃあ帰る?」
「金も稼がずに帰ったら、能無しっていわれて、嫁にも行けないわ!」
エルフの村は村で、それなりに息苦しいのだ。
ノーラとカミラの酒のピッチが上がる。
「アイツら、先輩ヅラして説教すんなよ!」
「そうそう。オッサン、うるせえわ!」
「細かいことをネチネチいいやがって」
「弁当食べてたら、『ろくに仕事もしてないのに、なにメシ食ってんだ』っていわれたし」
「『ヒーラーだったら、このぐらい出来て当たり前』とかさ」
「『どうしたらいいですか』っていったら、『自分で考えろ』って怒鳴られたし」
「『やれよッ! オイッ!!』とかって怒鳴ってきてさ。声デカいわ!」
「『早くヒールしろ!』って、どうせ治るんだから、急がすなよ」
「かと思ったら『ノーラちゃん~』とかいって、キモッ!」
こうして少ない稼ぎも、酒代に消えていくのだった。
とはいえ、魔法量が少なく大した攻撃魔法の使えない彼女らのようなエルフはパーティーに加わらないと稼げない。
家賃を安く抑えるために3人で借りている安宿に帰り、次の日はまた仕事に出ていった。