かしまし幽姫と学校の怪談 其ノ六
「赤か? 青か?」
聞こえた!
例の謎かけだ!
赤と答えれば動脈を切られ、青と答えれば静脈を切られる──あの怪談の渦中に、わたしは〝籠の鳥〟とされていた!
「赤か? 青か?」
不気味な妖気漂う個室トイレ内に、陰湿な声音が選択を迫る!
周囲を見回せども姿は見えず、有るのは──貯水タンク──トイレットペーパー──そして、大便器────。
「イ……イヤァァァーーーーッ!」
錯乱気味にドアを開けようと試みた!
こんなトコで閉じ込められるなんて絶対イヤ!
大トイレに幽閉される美少女なんて聞いた事ないわよ!
普通〝悪の古城〟とかでしょ!
お菊ちゃんピンチ!
「おらぁ! 開けろ! お菊!」
「逃がしませんわよ! お菊ちゃん!」
「イヤァァァーーーーッ?」
戦慄のままにドアから離れたわ!
鬼がいる!
外には鬼が居りまする!
まさに『前門の虎 後門の狼』ならぬ『前門にゲスの極みオバケ 後門の大便器』だった!
お菊ちゃん、大ピンチ!
「赤か? 青か?」
「うるさいわね! それどころぢゃないわよ!」
「おらぁ! お菊!」
「ヒィィ!」
カチャカチャ。
「あれ? 開かねぇ?」
ドンドン! ガンガン!
「押しても引いても開かねぇぞ?」
え? お岩ちゃんでも開かないの?
それって、かなり強力な妖力結界なんじゃ……?
「下がっていて下さいます? お岩ちゃん?」
カチャカチャカチャカチャ。
「フゥ……ダメですわね。私のピッキング技術を以てしても開きませんわ」
お露ちゃんのピッキングでも……って、え?
「何で、そんな特技を修得してるの? お露ちゃん?」
「あら、野暮 ♪ クスクス♡ 」
悟った!
絶対、男の家へ忍び込むためだわ! この色情霊!
「ひひひひひ……赤か? 青か?」
イヤらしい含み笑いに酔って、妖異の声が強いる!
だけど、どうしよう?
正直、見くびっていたわ!
あの二人で太刀打ちできないんじゃ、相当に強力な妖力だもの!
わたしなんかが対応できるワケがない!
だって、わたしは三人の中でも〝純朴で可愛いお菊ちゃん──非力で無力なトコも萌え♡ 〟だもの!
「落ち着け、お菊ちゃん! こういう時は、えーと……えと……えっと……し……白!」
「…………」
「…………」
「赤か? 青か?」
ダメだ!
選択肢以外の回答は受け付けないらしい!
「ふぇぇぇ~~ん! どうしよう? こんなトコで閉じ込められるなんてヤダァ~~! 狭いし暗いし、気分的に臭くて汚いし!」
「臭ないわ!」
テンプレ以外の返事が返ってきた……。
「赤か! 青か!」
「ふぇぇぇ~~~~ん! 開かないよォォォ~~~~!」
「ぅらあああーーーーっ!」
「「蹴破ったーーーーッ? 何の躊躇も無く蹴破ったーーッ?」」
わたしと〈トイレの怪〉の驚愕がユニゾン!
忘れてた!
お岩ちゃん、知恵の輪を力任せで引き千切るような幽霊だった!
でも、とりあえず救かったわ ♪
わたしは安堵の弛緩から、ヨヨヨと泣き縋る。
「ふぇぇぇん! お岩ちゃ~ん!」
「逃がさねぇぞ! お菊!」
「早く閉めて〈トイレの怪〉さん! 前よりも強固に!」
「ええぇぇぇ?」
「早くしてよ! 殺気に爛々と目を輝かせた邪笑が、ズンッと一歩踏み出してるじゃない! 魔王が迫って来ているじゃない!」
「お~き~く~~ぅ!」
「ヒィィ!」
っていうか何で、わたし狙われてるのッ?
猥談拒否は死刑扱いなのッ?
もしかして、お岩ちゃん興奮に酔って〝目的〟忘れてない? 見失ってない?
「赤か? 青──」
「うるせぇぇぇーーッ! 部外者はスッ込んでろーーッ!」
「……はい」
黙らせた。
悄々と黙らせたわ。
目的を……。
「おおお落ち着いて、お岩ちゃん! 何を、そんなに怒ってるの? お菊お姉ちゃんに話してみようか? ね? 話せば分かるから! ね? ね?」
「何を怒ってるか……だと?」伏せた顔に凄味を孕むと、魔王お岩は怒気のままに宣った。「アタシが訊きてぇぇぇーーーーッ!」
やっぱり我を見失ってたーーーーッ!
怒る理由すら見失ってたーーーーッ!
「お露ちゃん! 救けて! どうにかして!」
「クスクス……どうしましょう?」
「ふぇぇぇ~~ん! 意地悪しないでぇぇぇ~~!」
「そうですわね。では、一肌脱ぎましょうか」
「あ、脱いでくれる? 色情霊だけに?」
「……放置します」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
首がもげるぐらい頭下げたわ!
ブンブンブブブンブブブンブンと!
「では、失礼して……アタァーーーーッ!」
「うッ!」
お露ちゃんの指突が、お岩ちゃんの頸椎にキマッた!
一子相伝の暗殺神拳みたいに!
さすが中国原産幽霊!
うん、そうよ?
みんな忘れているかもだけど『牡丹灯籠』って、原典は中国怪談なのよ?
「フゥゥ……経絡秘孔のひとつを突きましたわ。お岩ちゃん、貴女は、もう死んでいましてよ」
……うん、そうね。
わたし達〈幽霊〉だもんね。
「ぅおぉぉぉきぃぃぃくぅぅぅ!」
「パワーアップしてるんですけどッ? 独眼竜が爛々と赤く灯ってるんですけどッ? 殺気が殺る気にみなぎってるんですけどーーッ?」
「あら? おかしいですわね? 少々、御待ちになって?」
お露ちゃんは袖から年季の入った古書を取り出してパラパラ──どうやら秘孔を記したハウツー本らしい。
暫く読み漁ると、何やらしれっとした真顔でわたしを見つめて──黙視──黙視──黙視──頭コッツンコのテヘペロ。
「精力増強のツボを突いてしまいましたわ★」
ユーはショーーーーック!
お菊ちゃん、大ショーーーーック!
「何してくれてんのよ! このド腐れ外道ギガ色情霊!」
「悪ィ菊いねがァァァーーーーッ!」
「秋田県の厄除け鬼神になってますけどッ? っていうか、この幽霊が厄そのものなんですけどッ?」
「いい加減にせんかァァァーーーーッ!」
唐突に大便器が吠えた。
シュールな仲裁人に、カオスが一時鎮静化。
三人の美少女が大便器をジッと凝視……。
どんな絵面よ!
「さっきから脱線に脱線を重ねて、ワシはそっちのけか! オマエ達、何しに来た!」
「知らね」
「確か盗撮成敗ですわ」
「巻き込まれました……シクシク」
「ホントに何しに来たのッ?」
知らないわよ!
このゲスの極みオバケ×2に訊いてよ!
「くぅぅ……ま……まぁいい! こうなったら……おい、そこの眼帯!」
「あん?」
何が「こうなったら」なのか知らないけど、お岩ちゃんに御指名入りました。
知らないってコワーイ。
くわばらくわばら。
「赤か? 青か?」
「答えたらアタシに得があんのか?」
「え?」
「それよりも、勝負は常に『丁か半か』だろうがぁぁぁーーッ!」
「えええぇぇぇ~~?」
お岩ちゃん、何を張り合ってるの?
っていうか、賭博場通いやめてないの?
「チキン・オア・ビーフ?」
「えええぇぇぇ~~?」
お露ちゃん、霊体なのをいい事に〈キャビンアテンダント〉へ「ハニー・フ●ッシュ!」しないでくれるかな?
「「はい、どーぞ!」」
「何をダ●ョウ倶楽部の『どうぞどうぞ』みたいなノリで、大トリをパスしてくれてんのッ?」
「ここはビシッと頼みましたわ」
「下らねぇオチ言ったら便器に叩き落とすからな」
「何でッ? 大便器に叩き落とされる井戸幽霊なんてイヤだよ!」
とりあえず一生懸命考えるお菊ちゃん。
純心一途なトコも可愛いね? えへ♡
「うーん……と……え……えーと?」
「内股モジモジすんな? ブリッコ」
「殿方読者の人気を狙ってますわね……あざとい」
「黙っててくれるかなッ? いま、あなた達のムチャぶりに答えようと考えてるんだから!」
「「はーやく! はーやく!」」
手拍子の囃し、うるさい!
「んと……あ! この花は桜でしょうか? 桃でしょうか?」と、わたしは人差し指を顎に添えて小首コクン★
てへ ♪ 可愛いかな?
「「…………」」
「意外と見分けつかないんだよねー? えへ ♪ 」
「……ツマらねぇ」
大便器から失笑されたわ。
だから、にっこりと仕返しするお菊ちゃんなのでした★
「お菊井戸ーーーーッ!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーーー…………ッ!」
「クックックッ……堕ちなさい? そんなに穴へと潜んでいるのが好きなら、心行くまで堕ちなさい? マントルまで繋げておいてあげたから……マグマまで真っ逆さまだから……ふふふふふ」
「うわぁ……お菊怖ぇー」
「さすが腐っても〈日本三大幽霊〉ですわね」
「わたし悪くないもん! 悪いのアッチだもん! プイッだもん!」
「「そのブリッコが、ますます怖ぇー」」
何よ! 失礼ね!
「!ッ……ーーーーぁぁぁぁぁぁあああゃぎ」
悲鳴が逆再生で駆け上がってきた。
死に物狂いでよじ登って来たわね……チッ!
少し焼肉臭いけど……。
「しししし死ぬかと思った!」
「大丈夫、オバケは死なない……仕事も何にも無い前向きなニート……クスクス ♪ 」
そのネタ、まだ言うの? お露ちゃん?
「何してくれてんだ! この猟奇ブリッコ!」
「お菊井戸ーーーーッ ♪ 」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーーー…………ッ!」
井戸内に引力の力場を発生させたわ。
再び灼熱の闇へと落ちていったわ。
「!ッ……ーーーーぁぁぁぁぁぁあああゃぎ」
またもや悲鳴が逆再生。
少しジンギスカン臭い。




