【34】本屋の女性
「何かお探し?」
恐らく店員だと思われるその女性は口元をフェイスベールで覆っており、店内が薄暗いことも相まって表情を読むことができない。ただ、声色からは優しいものを感じた。
「えっと、スキルや魔法の本を探しにきたんですけど、ありますか?」
スレイアはその人物に堂々と話しかけており、相変わらずすごいなと思っていると、
「えぇ、あるわよ」
その女性はこちらの方に歩いてきてある本棚の前に立った。
「多分、目的の本はここら辺にあるんじゃないかしら」
「わぁ!! ありがとうございます!!」
スレイアはその女性が示した本棚まで歩いて行き、並べられている本について色々質問をしている。そして、女性はその質問に対して丁寧に対応していた。その対応からガレントとレシリアもどうやらその女性に少し気を許したようで、恐る恐るとだが色々質問している。
……悪い人ではないのかな?
店の雰囲気と服装から怪しい人物だとどこか警戒していたのだが、スレイア達への対応を見ている限り、悪い人ではないのかなと考えを改めようとした。その時、ふと女性の方を見てみると、女性が俺のことを見つめているのに気が付いた。
なんだ?
俺が3人から少し離れたところにいるから、不思議に思っているのかなぁとか考えながらも、特に気にも留めず3人の元へと歩いて行く。
「あなた……」
3人の元へと向かう途中、女性に声を掛けられて足を止めた。
「え? どうしました?」
「……」
女性はこちらをジーっと見たまま何も話さない。
「えーと……。何か用ですか?」
話しかけてみるも一向に返事が無い。ローブとフェイスベールの間から見える、吸い込まれそうなほど綺麗な紫色の瞳が俺のことをジッと見つめてくる。
しばらくの間お互いに無言の時間が続いたのだが、女性がゆっくりと口を開く。
「あなた……不思議な子ね……」
「え? あ、まぁ、そうですか……」
長い時間溜めた割には変なことを聞いてきたため、予想外のことで返答に詰まってしまった。
不思議な子って……馬鹿にされてるのか……?それとも、誉め言葉なのか……?
女性の意図は何だったんだろうと考えていると、
「ちょっと待ってて」
そうとだけ言って女性は店の奥へと入って行った。
不思議なのはそっちだよ……。
女性が店の奥へと行ってしまったため、そんなことを想いながら3人の元に行くとレシリアが話しかけてきた。
「何を話してたの?」
「うーん。不思議な子ねって言われた」
「不思議な子……。まぁ、変って意味では間違ってはいないわね」
「おい」
レシリアはいたずらっぽく笑う。
「他には何か言ってなかったの?」
「他には……。あー、何か待ってるように言われたなぁ」
「え、何で?」
「いやー……。分からないけど」
何をするつもりか分からないまま大人しく待っていると、スレイアが1冊の本を持って俺の前に歩いてきた。
「ねぇねぇこれ見て」
「ん? これは……。教科書?」
「うん、魔法のことを知るにはいいかなって」
スレイアが俺に渡してきた本の表紙には『これで分かる魔法の基礎』という文字が書かれており、中をペラペラとめくると名前の通り魔法の初歩的なことが書かれていた。俺の持っている魔導書よりも学問的なことが書かれており、魔法の成り立ちや魔素とはなんなのかといった内容が書かれていた。
そういえば、基礎について全く知らないなぁ……。こういうの1冊買ってもいいかもな。
「どうかな?」
「うん、魔法学校に通うことになるとしたらこういった勉強も必要になるだろうし、読んでみて興味があるかどうかで学校を決めるのもいいと思うよ」
「だよねー。買おうかなぁ……」
「もっといい本があるかもしれないし、店員さんが戻ってきたら聞いてみるのもいいかもね」
「確かにそうだね」
そんなことを話しながら本棚に置かれている本を手に取りペラペラと流し見をしていると、女性が戻ってきたみたいで俺達の方へと歩いてきた。
「待たせちゃったわね。はいこれ、眼帯よ」
そう言って店員が渡してきたのは眼帯であった。
眼帯……?確かに眼帯はしているけど、何でこの眼帯を渡したかったんだろう……。
不思議に思いつつも渡された眼帯をよく見てみる。色は黒色だが、素材は恐らく何か動物の皮で作られている。そして、特徴的なのは紐が付いておらず一見すると眼帯かどうかわからなかった。
どうやって固定するんだろうと思っていると、
「左目に付けてみて」
と店員に言われた通りに左目に付けてみる。
「……おぉ!!」
左目に付けた瞬間、どういう原理なのか左目に覆いかぶさるかのようにピッタリと張り付いており、首を激しく振ってみても全くずれない。何よりも、眼帯の縁だけがピッタリ張り付いているようで、左目を開けていられるほど中は空洞になっていた。
今までにない体験に感動を覚えていると、
「眼帯に魔力を込めてみて」
そう言われて不思議に思いつつも、言われた通りに眼帯に魔力を流し込む。
「……え!?」
左目で周りの景色が見えた。そう、眼帯を付けているのにも関わらず周りの景色が見えた。確かに左目に眼帯が張り付いている感覚はあるのだが、眼帯を貫通して周りの景色が見えている。
「……すごい」
驚きと感動を覚えたと同時に恐怖にも襲われた。
この人……。俺の右目のことを知っているのか……?
何故この人は俺が右目が見えることが分かったのだろう……。見えているということを知らなければ、こんな眼帯を通して周りの風景が見える細工のされている眼帯なんか渡してこない。それに、右目の眼帯を外して着けるように言うのではなく、あえて左目に着けるように言ったのも何か意図があるのだろうか。
何とも言えない不安と恐怖を感じながらも、眼帯を外して女性のことを見る。
「ふふ、気に入ってもらえた?」
「はい……、ありがとうございます」
右目について何も言及してこない女性に対して、これ以上踏み込んでいいものかと何も言えずにいると、女性は手をパンっと叩いてガレント達の方を向いた。
「そうだ、皆にもこのお店の本を1冊プレゼントするわよ」
「え、本当にいいんですか!?」
「えぇ、せっかくこのお店に来てくれたんだもの、記念としてあげるわ」
「「「ありがとうございます!!」」」
ガレント達と女性は楽しそうに話しており、どの本がお勧めなのか、どういった本が欲しいのか相談しながら本を選んでいる。ただ、俺はそれどころではなかった。この女性が何を考えているのか、何の目的があってこれを渡してきたのか、そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡っていた。
しばらく悩んだ後、3人とも欲しい本が決まったようでその本を笑いながら受け取っていた。
「ありがとうございます!!」
「フフフ、別にいいのよ。あなた達受験生でしょ? 学校に行ってもその本を読んで勉強頑張ってね」
「はい!!頑張ります!!」
この短時間で3人と女性は仲良くなったようだ。
「あら、もうこんな時間だけど、皆は大丈夫なの?」
女性に言われて店内に置かれている時計に目をやると、後十数分で馬車が出発する時間であった。
「あ、もう行かないと」
俺達は慌てて店から出ようとする。
「今日は楽しかったわ。この街に来る機会があったら、また来てね」
「はい!! また来ますね」
俺達はひとしきりお礼を言って店内から出た。扉を閉める瞬間、店内を見ると女性がこちらに手を振っていたため、一礼して扉を閉めた。
「いやー、あの人いい人だったな!!」
「ね!! 本も貰っちゃったし、また機会があったら行こうね」
馬車乗り場に小走りで向かいながら本屋での出来事を話している3人。一方の俺はというと、結局のところ何も聞けぬまま、不思議な眼帯とモヤモヤとしたものが残った出来事であった。




