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【26】箱の正体

 何とか日が沈む前に家に帰ることができた俺は、夕飯と風呂を済ませて自分の部屋にいた。


「さぁ、リーシェ。これについて教えてくれ」


 俺を森の中で拾った箱をベッドの上に置く。


「そうねぇ……。まぁ、まずは調べてからね」


 リーシェは箱をひっくり返したり、パカパカと開けたりして隅々まで調べているようで一向に説明が始まらなかったが、黙ってリーシェが説明しだすのを待った。


 一通り調べ終わったのかリーシェは俺に向き直したため、俺も姿勢を正してリーシェの説明を受ける態勢を整えた。


「まず、この箱の正体なんだけど、この箱はただの箱ね」


「た、ただの箱……?」


 何か特別なものだと思っていた俺は、リーシェの言葉で気が抜けてしまったが、リーシェはそんな俺のことをジッと見つめてくる。


「そう、これはただの箱なんだけど、問題なのはこの箱に入っていたモノね」


「入っていたモノ……。何が入っていたんだ?」


「うーん。ちょっと説明が難しいんだけど、簡単に言えば、魔物を引き寄せる餌? 匂い? みたいなものね」

 

「え、この箱持って帰ってきても大丈夫なのか!?」


「もう!!入ってい”た”モノって言ったでしょ?もうこの箱の中に入っていないわよ」


 リーシェはこう言っているが不安になった俺は、箱を手に取り中を見てみるも特に変わったところはない。一応右目でも見てみるが、変なものは何も見えなかった。


「それならいいんだけど……。その餌とか匂いっていったい何なんだ?」


「それの説明が難しいのよ」


 リーシェが何とか言葉にしようと説明してくれたのだが、その説明を聞く限りその魔物を引き寄せる餌、匂いみたいなものというのはお香のようなものが頭に浮かんだ。というのも、箱に入れていたモノで魔物を引き寄せたらしいのだが、何を入れていたのかはリーシェも分からないとのことだ。


「それじゃあ、何でその魔物を引き寄せるものだと分かったんだ?見たことないんだろ?」


「そうなんだけど、匂いがね……」


「匂い?」


 箱の中の匂いを嗅いでみるが特に変なにおいはしない。


「人間には分からないと思うわよ」


「何で?」


「何でって言われても……」


「一応魔物と言えども同じ生物だし、何で人間はその匂いを感じないのかと思って」


 魔物も一応は生物に分類され、知性もあることから犬などの獣と人間の間の存在だとされているため、匂いであれば人間でも感じ取れないのは不思議だなとリーシェに尋ねてみるが、


「何で人間は魔力が食事じゃないの?って言われてもそういうもんだというしかないでしょ?」


 リーシェの返答に人間では知覚できない何かがあるのだろうと妙に納得した。


「でも、箱に入っているってことは、人間が作ったってことだろ?かなりしっかり作られているし」


 箱のいろんなところを見てみると、ただ木の板を組み合わせて作られた物でないことは明らかであった。というのも蓋をしっかりと閉めるためだとは思うが、箱の内側は段になっており、蓋がピッタリと閉まるように作られていて開ける時と閉める時に力を込めないといけなかった。


「人間じゃないかもしれないわよ?もしかしたら魔族かも……」


 リーシェは意味ありげに呟く。


「魔族……」


 かつて人間と激しい戦争を繰り広げた魔族。現在は休戦中とはなっているが、いつ魔族が休戦協定を破って攻めてきてもおかしくないのだと以前読んだ本に書かれていた。


「でも、なんで魔族が……?」


「あくまでも可能性だけどねぇ~。人間がやったかもしれないし」


 魔族が用意したのだとしたら、どんなメリットがあるのだろうと考えてみる。ただ、この国は魔族領から遠く離れた場所に位置しており、魔族が何か策略をするにしてもあまりメリットがあるようには思えない。それよりも、何処かの人間がやったと考えたほうがしっくりきた。


「多分人間だと思うんだけど……暗殺狙いだったのかな」


「どうかしらねぇ……。人間のことは分からないわ」


「ハハ、確かにそうだね」


 リーシェにとったら人間の特に国同士のドロドロとした話はどうでもいいことかと思いつつ、色々な可能性を考えてみる。どこの国なのか……、それとも国内なのか……、ただ他国に行ったこともないし、ましてや王都にすらいったことがない俺にとっては、ただの妄想の域を超えないなと考えるのを止めた。


「でもなぁ……」


 考えるのを止めたのだが、やはりどうしても気になることがいくつかあった。どうして王族がこんな村の近くにある森を通っていたのか、王族を守る護衛にしては弱すぎではないか、襲われていたというのにやけに落ち着いていて、周りの兵士よりも明らかに強そうな姫の存在、謎が多すぎる出来事であった。


「なぁ、リーシェはどうしてこの箱があそこにあったと思う?」


「うーん、そうねぇ。まぁ、暗殺なんじゃない?」


 もうすでに箱や今日の出来事に興味をなくしているのか、リーシェはベッドに寝っ転がって読書をしていた。


「……なんでそんなに切り替えが早いんだよ」


「えー、そんな話よりもこっちの方が気になるからよ」


 これが人間との違いなのかなぁと思いつつも、今日の出来事を1つずつ整理することにした。まず、目的は恐らくあの姫様を殺すことで間違いないだろうが、それにしてはずさんな計画だった。箱を仕掛けたであろう黒装束の人間達は現場を確認することなく離れていったし、果たして本当に姫様を殺すことが目的だったのか……。


「うーん……。分からん!!」


「……びっくりしたぁ。急に何なのよ」


「何が目的だったんだろうって考えていたんだけど、姫様を殺す計画にしては確実性が無いなぁって思って」


 ベッドに横になりながらそう言うと、リーシェはチラッとこちらを見た後、すぐに本の方へと視線を戻した。


「そんなこといくら考えてもしょうがないでしょ、どうせ真実なんか本人に聞かないと分からないんだから。それよりも、魔法の練習をした方が何倍も自分のためになるんじゃないの?」


「……それもそうだな」


 リーシェがこんなにまともなことを言うのは珍しいなと思いつつも、確かにこれ以上考えても俺の妄想に過ぎないなと魔法の練習をすることにして体を起こした。


「あ、この箱って処分したほうがいいの?」


「んー、別に危険は無いから持っておきたかったら、持っていても別に問題ないんじゃないかしら」


「そうなんだ。じゃあ、一応持っておこうかな」


 そう言うと俺は、箱を机の引き出しに入れてしまいながら魔導書を取り出して、今日はどの魔法を練習しようかなぁっとページをめくる。

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