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【25】襲われている者達

 音のする方へ走っていると、どんどん物音は大きく鮮明に聞こえてきた。先程、獣の声と人間の声が聞こえたのは正解だったようで、聞こえてくる音からして魔物と人間が戦っているようであった。


 目的の場所にたどり着き茂みに隠れる。どうやら、音はこの茂みの下の方から聞こえてきているようだ。


「あれは……」


 茂みから顔を出して覗き込むと、そこでは予想通り魔物と人間が戦っているようであった。それに、どうやら人間側が劣勢のようで、馬車を囲むような形で物々しい鎧を身に着けた騎士が何とか戦っているようであった。


「ちょっと!!助けないの!?」


 リーシェは慌てた様子で、俺に聞いてくるが、


「まぁ、ちょっと待ってよ」


 俺はすぐに戦いには参加しなかった。もちろん助けるつもりではあるが、劣勢といってもすぐに死ぬことはなさそうだし、何とか馬車を守りながらも戦えている。


 助けに入る前に俺には確認することがあった。それは、あの馬車がどこの誰のものなのか、そして、辺りに何か怪しいものが無いか。


「えーと……」


 馬車にはこの国の住人であれば、だれもが1度は見たことがあるであろう紋章。この国の王族を示す紋章がその馬車に装飾されている。


 これは……。厄介なことになったなぁ……。


 馬車の装飾から何かしら高貴な身分であろうとは思っていたが、まさか王族だったとは思いもしなかった。それと同時に何故王族の馬車がこんな森の中を通っているのかという疑問も浮かんだのだが、まずはやるべきことをやるためにその場から移動する。


 横目で騎士がやられていないかを確認しつつ、辺りを調べていると変なものを見つけた。


「これは……なんだろう。リーシェこれってなにか知ってる?」


 地面に置かれている何やら怪しげな箱を指差しつつリーシェに尋ねてみると、


「何よ!!」


 リーシェは焦っているのか、どこかきつめの態度で返答しながら箱の方を見た。


「これは……どうしてこんなものが……いやでも……」


 箱を見た瞬間、様子が変わったリーシェは何やらブツブツと言っているが、何を呟いているのかは聞き取れなかった。


「リーシェ、リーシェ!!」


 何度か呼びかけるとハッとしたリーシェは、


「ごめんごめん。とりあえず、この箱の説明は後ね。今説明すると長くなっちゃうから」


 そう言って、指を差す。


「それよりも!!今は早く助けてあげなさいよ!!」


 リーシェの指さす方を見ると何人か騎士がやられており、馬車を守っている騎士は残り2名となっていた。


「おいおい!!早く言ってくれよ!!」


「何言ってんのよ!!あんたがちんたらしているからでしょ!!」


 俺は慌ててポーチの中から布を取り出して、顔全体を覆うように巻いていく。


「あ!!箱の回収忘れないでよ!!」


 リーシェに言われて箱をポーチの中に入れると、急いで騎士たちの元まで走り出した。


 騎士たちの元に駆け寄りつつ状況を把握する。先程まで5名の騎士が馬車を守っていたようであったが、今立っているのは2名だけであった。魔物の数が多いといえども、王族を守るような騎士がこんなに弱いものかと不思議に思ったが、騎士たちの元までたどり着いたため、まずは魔物を処理することに注力することしにした。


「な、なんだ!!おまえは!!」


 突如現れた俺の存在に騎士たちは驚いていたようであったが、無視して魔物を狩っていく。顔に巻いた布が取れないように気を付けて戦っていることもあり、中々いつものようにとはいかなかった。しかし、いつも戦っている魔物たちということもあって大した脅威とはならなかった。


 これで、全部倒したけど……。


 倒れている騎士達を治療したほうがいいかと考えていると、


「貴様!!何者だ!!」


 最後まで立っていた2名の騎士がこちらに剣を向けてくる。


 治療魔法は……。覚えていないよなぁ……。


 騎士たちを右目で確認すると、回復魔法はおろか攻撃魔法すら習得していない。そのため、倒れている騎士たちを回復する手段を持っていなさそうだし、どうしようかなぁと思っていると、


「何事ですか」


 突如馬車の扉が開き、1人の女の子が出てきた。


「姫様!!危ないので、馬車の中にお戻りください!!」


 姫様と呼ばれるその女の子は騎士の制止を聞かずにこちらに近づいてくる。


「この者は?」


「は、この者は我々が魔物との戦闘中に現れた者でして、怪しかったため素性を聞いておりました」


「そうですか……」


 やけに落ち着いているその女の子は辺りを見渡した後、


「この度は助けていただきありがとうございます」


 そう言って俺に向かって頭を下げた。


「姫様!!頭を下げてはなりません!!」


「いえ、助けていただいたのにお礼の1つも言えないとは、王族としての品格が疑われてしまいます」


「しかし!!」


 騎士と女の子のやり取りをどうしたものかと眺めていると、


「あの姫様って呼ばれている子中々やるみたいね」


 リーシェがボソッと呟いた。


 リーシェが何のことを指して中々やるみたいと言っているのかは分からないが、確かにあの女の子は中々やるようである。攻撃魔法や治療魔法に加えて、剣術スキルなどの色々なスキルも取得しているようであった。


「それで、お礼なのですが……」


 ボーっと3人のやり取りを眺めていたため、声を掛けられてハッとした。こちらの返答を待っているようであったが、何のことを聞かれているのかが分からず何も答えられないでいると、


「……大したお礼はできないけど、何か欲しいものはあるかってさ」


 リーシェが助け舟を出してくれたため、首を振っていらないと伝えると、


「貴様!!姫様のご好意を無下にするというのか!!」


「バラント!!」


 再び言い争いを始める3人でだったが、そんなことよりも俺には1つの懸念があった。それは、今何時ぐらいなのかということである。一応、森に入る許可を両親には得ていたのだがそれにはいくつか条件があって、その条件の1つに暗くなる前には必ず帰ってくるというものがあった。そのため、日が沈みかけている今の状況を考えると、これ以上は時間をかけていられなかった。


「身元も分からない者にお礼など必要ありません!!」


「この者がいなければ、私たちはここで命を落としていたのかもしれませんよ?」


「ですが……!!」


 相変わらず言い争っているが、時間に追われているため強硬手段に出ることにした。俺は火球(ファイアボール)を発動させると、こちらに気が付いたもう1人の騎士が言い争っている2人に声を掛けると、騎士の2人は姫様の前に立って剣を構えた。


「どうされたのですか?」


 落ち着いた口調でそう尋ねてくる姫様であったが、2人の騎士は相変わらずこちらに警戒を解いていないようだ。


 俺は火球(ファイアボール)を収めると、ポーチから小さなノートとペンを取り出して、すぐにこの場を離れないといけない事、お礼はいらない事を失礼にならないように気を付けながら書いて騎士の足元に投げた。


 騎士は恐る恐る紙を拾って書かれている内容を読んだ後に姫様にその紙を見せた。


「なるほど、それは残念です」


 姫様は納得してくれたようなので、その場から離れようとすると、


「ところで、あなたは言葉を発することができないという認識で大丈夫ですか?」


 姫様が尋ねてきたため、頷いて返答する。


「そうですか……。では、最後に名前だけでも教えていただけませんか?」


 名前……名前かぁ……。


 ここで名前を伝えずにこの場を離れてもいいが、別の名前を伝えたほうが自分の正体をカモフラージュするにはいいんじゃないかと考えた俺は、再び紙とペンを手に取り偽名を考える。


 うーん……。まぁ、これでいいか。


 まったくの偽名が思いつかなかったが、時間が無いこともあり、なんとなくで考えた名前を紙に書いて騎士たちの方に投げると同時にその場を離れた。


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