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【2】森の中へ

 森の中は薄暗く、どこからともなく聞こえてくる生き物たちの声に3人は体を震わせている。


「……いつまで、このたいせいでいくの?」


 森の中を歩いているうちに気が付けば俺は先頭を歩いており、3人は俺の服にしがみつきながら後を付いてくる隊列になっていた。


「ね、ねぇ……もうもどろうよ……」


「そ、そうだな。そろそろもどるか……」


 レシリアとガレントは怯えながらも喋る元気はあった。一方、スレイアというと最初の内は元気だったのだが、ガレントの人影が見えた、もしかしたら幽霊かも……という発言の後、急に静かになってしまって、服にしがみついて(うつむ)きながら無言で付いてくるだけになっていた。


「じゃあ、もどろ……」


 戻ろうかと言いかけた瞬間、視界の端に動く影を見つけた。バッとそちらの方を向くと、薄汚れたローブを身にまとった何者かが木の棒?のようなものをこちらに向けている。


(誰だ……?)

 

 薄暗い中、謎の人物のことを目を凝らして見てみる。動物的本能なのだろうか、杖の先から嫌な気配を感じた。身の危険に気が付いた俺は、咄嗟に後ろを向いて3人を押し倒しながら、自分も避けようとしたが間に合わず、杖の先から放たれた火の球が背中に直撃する。


「……!!」


 ヒリヒリと背中に広がる痛みを感じつつも、急いでローブの方を見ると再び杖を構えているのが見えた。


「に、にげて……」


 ガタガタと震えて固まってしまっている3人に声をかけてみるが、茫然(ぼうぜん)とその場に立っているだけで動けないでいた。


「はやく!!」


 大きな声でハっと意識を取り戻した3人であったが、


「で、でも……」


 俺のことを気にしてなのかその場から動こうとはせず、誰一人として逃げ出せずにいた。


(このままだと、3人ともやられる……!!)


「ガレント!!」


 名前を呼ばれて、こちらを見るガレントの顔には焦りや恐怖といったものが見える。


「はやくにげろ!!」


 そう言うと、ガレントは戸惑っていたが俺の考えをくみ取ってくれたようで、覚悟を決めた顔で大きくうなずく。


「2人ともにげるぞ!!」


 ガレントはスレイアとレシリアの手を握り、来た道の方へと走っていく。


「ちょ、ちょっと!!シェイドが!!」


「いいから!!いくぞ!!」


 スレイアとレシリアはその場を離れることを嫌がっているが、ガレントは2人を無理やり引っ張っていき、見えないところまで逃げてくれた。


(ありがとう……、ガレント……。)


 3人が離れてくれたことに感謝しつつローブに意識を向けると、再び火の球が飛んできたため、慌てて横に飛んでそれを避ける。


「ぐぅぅ……!!」


 動くたびに背中がヒリヒリと痛むのを我慢して、腰に付けられている父さんから貰った短剣を抜く。そして、ローブに切っ先を向けながら大きく息を吸って吐いた。


 深呼吸をすると気持ちが落ち着いていくのが分かった。先ほど火の球を避けたときに眼帯がずれたことで、両目で見ることができるようになったからか、驚くべきほど視界が広がっている。ローブのことをよく見てみると、ローブの下では緑色の肌をした醜悪な顔が笑みを浮かべているのが見えた。


(あれがゴブリンってやつなのかな……。初めて見たな……)


 命の危機だというのに、以前本で見たことのあるゴブリンの姿を見ることができたことに感動を覚えるほど、心はとても落ち着いていた。先程まで必死に血液を送ろうとしていた心臓の動きはとても穏やかなものになっている。


(深呼吸ってすごいんだなぁ……)


 そんなことを考えていると、ゴブリンが再び火の球を放ってきた。やけにゆっくりに感じる火の球の動きを確認しながら、それを落ち着いて避けて、ゴブリンへと一気に間合いを詰める。


「ギャギャ!?」


 驚いている様子であったゴブリン目掛けて短剣を突き出す。


(なんか……、俺の体じゃないみたいだ……)


 フワフワした意識の中、そんなことを思いながらゴブリンに飛びついて、首元に短剣を突き刺して思いっきり横に引いた。すると、ゴブリンの首から勢いよく血が噴き出す。首元を押さえながらワタワタと後ずさりをしたゴブリンはそのまま倒れて、目を見開きながら低い声で(うめ)いて足をばたつかせていたたが、徐々に動きが弱くなっていってとうとう動かなくなった。


 その様子をボーっと眺めていると、


「うっ……!!なんだ……これ……!!」


 右目にナイフを刺されて、グリグリとかき混ぜられているのかと思うような痛みに突然襲われた。


「うぅぅ……」


 背中の痛みとは比較にならないほどの痛みと戦いの疲労もあり、膝をつきながらも何とか意識を保とうとしたが、その努力も(むな)しく、俺はそこで意識を失い、倒れた。


 目を覚ますとそこは見慣れた風景が広がっていた。首を横に向けると、母さんと父さんがおり、目元には涙が溜まっているのが見えた。


 2人は俺が目を覚ましたのに気が付くと、


「シェイド!!」


 母さんは勢いよく俺に抱き着いてきて声を上げながら泣いている。父さんはよかったよかったと呟きながら、俺の手を握って、母さんの背中をさすっている。


「えっと……」


 状況が飲み込めない俺であったが、2人が落ち着くまで大人しく待つことにした。


 母さんはしばらく泣いた後、俺から離れたかと思うと、


「この、おバカが!!」


 脳天目掛けて思いっきり拳骨を食らわせてきた。


「いったぁ……」


 頭を押さえつつもどうしてここにいるのかと聞いてみると、母さんはキッと俺のことを見つめて、


「……本当に危なかったんだからね?」


 俺がゴブリンを倒した後のことを説明してくれた。


 母さんの説明によると、ガレント達は森から出た後、親に事情を説明して助けを求めた。そして、村の大人たちが急いで森の中に入っていくと、メイジゴブリンの死体の横で倒れている俺を見つけたため家まで運んだのが、俺はそれから丸1日眠っていたようだ。


「まったく……私が治療魔法を使えなかったら危なかったんだからね?」


 そういえばと思って身体を動かしてみると、背中のヒリヒリとした痛みはすっかり消えていた。


「へぇ……まほうってすごいんだね!!」


 俺が魔法に感激していると、母さんはため息をついて頭を抱えていた。


「……怪我は直したけど、しばらく遊びに行くのは禁止だからね?」


「えぇ、なんでさ」


「当たり前でしょ!!死にかけてたんだからね!?」


 食い気味にそう言う母さんの剣幕と真っ赤に腫れている目を見て、これ以上は反論してはいけないと感じ、


「わかったよ……」


 と返事をすると、母さんはジッと俺のことを見つめた後、はぁ、とため息をついて食事を持ってくると言って部屋を出ていった。


 どうしたもんかなぁと考えていると、


「シェイド」


 名前を呼ばれて父さんの顔を見ると、父さんが俺の目をジッと見つめてくる。


「もう……、母さんを心配させるようなことはするなよ?」


 父さんはいつにもなく真剣な顔でそう言った。


(確かに、今回は危なかったもんなぁ……)


 今まで、怪我を負いかねないほど危ないことをした経験はあったが、今回みたいに命を落としかねないほど危ないことをすることはなかった。心配させちゃったよなぁと思い、


「うん……」


 そう答えると、父さんはニコッと笑って、


「よし。約束だ」


 拳を突き出してきたため、それに自分の拳を合わせると、父さんは俺の頭をワシャワシャと撫でて部屋を出ていった。


 静かになった部屋の中でボーっとしていると、右目がうずいたため、ゴミでも入ったのかと思い、眼帯をずらして鏡を覗き込むと、


「なんだ、これ……?」


 そこには新たな世界が広がっていた。

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