【19】久しぶりの魔物
ズンズンと歩いていくリーシェとテラリィの後ろを着いていく形で森の中を歩いていると、2人が茂みの前で立ち止まり、リーシェが手招きしてくる。どうしたんだろうと思いながらも、2人の隣まで歩いていってしゃがんだ。
「ほら、いたわよ」
そう言って指をさすリーシェの先にはゴブリン2体がいて、地面に座って何やら話しているようであった。
何を話しているんだろうとゴブリンを観察していると、
「それじゃあ、よろしく!!」
リーシェは親指を立ててそう言った。
「……え!?」
「えって、ほら、倒してきなさいよ」
「いやいや、俺一人で!?」
リーシェは不思議そうに頭を傾ける。
「当たり前じゃないの」
「テラリィは……?」
そう言ってテラリィの方を向くと、テラリィは申し訳なさそうに俯いている。
「あんたねぇ……。今のテラリィが役に立つわけないでしょ!!」
その言葉でより一層申し訳なさそうにシュンとしているテラリィ。
「どうしてさ。2体ならまだしも、1体ぐらいなら……」
「もう!!あんたが力不足で召喚したから、力が無くなっているのよ!!今戦ったら瞬殺されるわよ!!」
「うっ……」
俺の力不足が原因でテラリィが弱くなったとの言葉に、その通りだと思ったため、何も言い返すことができない。テラリィもまた、リーシェの言葉でそのまま潰れてしまうんじゃないかというほどしょんぼりしている。
前を向いて2体のゴブリンを見た後、ゴブリンを指差しているリーシェととんでもなく落ち込んでいるテラリィを見て、大きくため息をついた。
「……分かったよ」
自分で召喚しといて、食事をあげられませんというのはだめだよなぁと思い、気持ちを切り替える。俺だって魔法を練習してきたんだ、これはむしろ良い機会かもしれないと考えた。眼帯を外して、手のひらに魔力を集める。
「どれがいいかなぁ……」
火は周りに燃え移ったら面倒だし、水は効果的とは言えないよなぁ……。
周りを観察し、どの属性が効果的か、周りに悪影響を与えないかを考える。
「まずは……これか、な!!」
俺の右手から放たれた黄色い球は1体のゴブリン目掛けて真っすぐ飛んで行く。ゴブリンの死角から放たれた球を避けることができず、ゴブリンの背中に直撃した。
「ギギィ!!」
もう1体のゴブリンは慌てて立ち上がり辺りを見渡してはいるが、突然のことだったこともあり、パニックになっているのがこちらかも見て取れた。雷球が直撃したゴブリンは、体が痺れて立ち上がれずにいる。
茂みから飛び出して、ゴブリン達の方へと走り出す。間合いを詰めつつ、腰に付けていた短剣を鞘から抜いて、ゴブリンの方へと切っ先を向けた。
「ギャギギャ!!」
ゴブリンといえども流石魔物だなと感心したのだが、俺の存在に気が付くと手に持っていた棍棒のようなものを構えて、臨戦態勢を取ってくる。しかし、今更気が付いたところでもう遅い。
ゴブリンが棍棒を構えると同時に水球を放つ。
狙い通り動いてくれよ……!!
水球の後を追う形でゴブリンに詰め寄ると、ゴブリンが水球を打ち返したことで、水球が弾ける。
俺が距離を詰めてきていることに気が付いたゴブリンは慌てて棍棒を構え直そうとしたが、間に合う訳もなく、俺が突き出した短剣が喉元に突き刺さる。短剣を思いっきり横に引いたことで、大量の血しぶきを上げながらゴブリンは倒れる。
「あとは……」
もう1体のゴブリンの方に注意を向けると、もうすでに痺れが取れていたようで、こちらに向かって突進してくる。倒れたゴブリンの足元に転がっている棍棒を手に取り、ゴブリンの攻撃を避けるとそのまま脳天を勝ち割る。この瞬間、勝者が決まった。
「ふぅ……」
久しぶりの戦闘ということもあり緊張はしていたものの、戦っている最中に緊張もほぐれて戦いに集中できていたなぁと自己分析をしながら、リーシェとテラリィの元へと歩いていく。
「どうだった?」
リーシャ達に手を振りながらそう尋ねると、
「どうだったって……」
訝しげな表情でこちらを見てくる。
「あんた何者よ……」
「何者って言われても……」
自分は何者なのか……、中々難しいことを聞いてくるなぁ。などと呑気に考えていると、
「毎日魔物でも狩っているの……?」
「いや、これで2回目だけど」
「……あんた本当に人間?」
変なことばかり聞いてくる。
「いやいや、どっからどうみても普通の人間でしょ」
「あんたみたいな人間の子供が普通だったら大変よ!!」
酷いこと言うなぁと思いつつも、どうしてそんなことを言うのか聞いてみると、本来人間の子供はこんなに戦えるものではないらしい。今回のゴブリン2体との戦闘は、テラリィの契約後の状態から、ギリギリ戦って勝てるであろうレベルだと考えていたのに、あっさり勝ってしまったことを不思議に思っているとのことであった。
「そんなこと言われてもなぁ……」
実際、魔物と戦うのは2回目で嘘は言ってない。ただ、戦闘に集中するといつも以上に体が動いているなぁという感覚はあった。
「それに、雷属性の魔法も使えているみたいだし……。何でテラリィはこの姿なのかしらね……」
「雷属性の魔法が使えるのってそんなに変かな?」
「変って訳ではないけど……。あんたが使える魔法を教えてみなさい」
「えっと、そんなに強い魔法が使えるわけじゃないけど……」
一通り自分の使える魔法をリーシェに伝えると、リーシェは首をかしげた。
「……不思議な人間ねぇ、あんた。子供でそんなポンポン色々な魔法が使えるなんて」
「どういうこと?」
「いい?魔法ってのはね……」
リーシェが言うには、魔法には属性があり、それぞれ人間には得意・不得意があるものだが、何種類も属性の違う魔法を使える者のは中々いないとのことであった。
「まぁ、人間の魔法にはそこまで詳しくないから、細かいところまでは知らないけどね~」
周りに魔法を使う子供なんておらず、比較対象がいなかったため、街の方に行けばもっとすごい奴がいると思っていた。そのため、リーシェの話を聞いたときに、以前から感じていた自分に対する謎がより深まった。
「なぁ、なんで特性が貰えなかったのに、俺は魔法が使えるんだ?」
「知らなーい。そもそも特性についてもよく知らないし、あんたの目のことについても聞いたことないわよ」
「じゃあ、テラリィは何か……」
テラリィに何か知っているか聞こうと振り向くと、そこにはテラリィの姿は無い。辺りを見渡すと、ゴブリンの死体があるであろう場所にいいつの間にか移動していたようであった。
「なぁ、テラリィ……」
テラリィに近づいて声を掛けようとして、足が止まった。
「あ、ごめんなんさい……。お腹が空いていた物で……」
口からゴブリンの血を流し、申し訳なさそうにそう言うテラリィ。どうやら、食事中のようであった。
グチュグチュにされたゴブリンの内臓に一瞬固まってしまったが、
「あ、あぁ、気にしないで」
何事もなかったかのようにそう言うと、リーシェの元へと戻る。そんなこんなで、リーシェとテラリィが俺の生活の一部になったのであった。




