【11】初めての魔法
思い出したのは、森でメイジゴブリンの魔法を受けたときのこと。放たれた火の球は空気を燃やし、真っすぐこちらに向かってくる。燃え盛る炎は触れたものを焦がし、ヒリヒリと痛む肌は焦げ臭いがした。
目を閉じて集中していると、いつもの魔力とは別のものが手のひらの上に乗っている感覚があった。
目を開くと、拳サイズの火の球が手のひらの上に乗っていた。不思議と火の球は熱くなく、球状を保っているものの、輪郭から漏れ出ている火が揺らめいている。
「これが、火球か……!!」
初めて魔法が使えたことで感動のあまり涙が出てきそうになるが、それ以上に手のひらの上で燃える火の球に心を奪われていた。
しばらくの間メラメラと燃える火の球を眺めていると、やがて火の球は小さくなっていき、形を留めきれなくなって空気中に消えてしまった。
「俺にも魔法が……!!」
火の球に心奪われてまったく気にしていなかったが、遅れて魔法が使えたという実感が湧いてくる。
(これで、魔法の道を諦めなくていいんだ……!!)
才能無しと言われた日から諦めた夢を諦めなくてもいい、その事実に思わず泣きそうになる。真っ先に母さんに報告しようとドアノブに手をかけたところで足を止めた。
(言うべきなのか……?)
足を止めたのには理由がある。受特の儀を終えた後に散々調べて分かったことだが、今まで特性を貰えなかった者で魔法を使えた者はいないということであった。ただ、俺とその者達には恐らく違う点がある。それは、オッドアイであるということだ。この右目で両親には心配をかけているため、魔法が使えたことを両親に伝えることで余計に心配させるのではないかと考えた。そのため、このことを言うべきかどうか迷った。
(どうしよう……)
魔法が使えたことを両親に伝えたら、きっと喜んではくれる。けど、それ以上に心配をかけてしまうかもしれない。魔法を使えたことで、俺は異質な存在なのだと改めて気づかされた。
しばらく迷った挙句、俺は結論を出した。
(今は内緒にしておこう……)
異質な存在とは、それだけで世間からは冷たい目で見られてしまう。俺だけであったらまだしも、それが家族にまで及ぶのは耐えられない。だから、今はまだ内緒にしておく。そう、今はまだ。
このことを伝えるのは、もっと魔法を鍛えて、特性無しだとしても周りから舐められないほど実力をつけて、自分に自信を持てるようになってからにしようと決めた。異質な者も突き抜けてしまえば、尊敬や畏怖の対象になる。そのためには、俺はまだまだ力が足りない。
俺はドアノブから手を離し、ベッドの上に戻ると、もっと読み込もうと再び魔導書に目を向けた。すると、火球を発動させることに夢中で、そのページにまだ読んでないところがあることに気が付いた。
「えーと、何々……。初めての魔法を使うには詠唱が必要であり、何度も繰り返し使うことによって、無詠唱でも使うことができるようになる……」
その文章に目を疑う。俺は、急いで魔法の詠唱について詳しく書かれているページを探した。
「……それぞれの魔法において、初めて使用する際には詠唱が必要であり、詠唱をすることによって魔力が魔法に変換される。それに対して、無詠唱はその変換過程を瞬時に行うことができ、魔力消費の軽減、魔法威力の増加につながる……」
そのページにはどのように魔力が魔法に変換されるのか、詠唱魔法と無詠唱魔法にはどれほどの違いがあるのかといったことが事細やかに書かれていた。だが、そんなことよりも問題なのは、自分がいきなり無詠唱魔法を使えたことであった。
火球を発動させるために必要な呪文を見落としていたとはいえ、いきなり無詠唱で魔法を発動させようとしていた自分に呆れたが、それと同時に湧き上がるものがあった。
(これはすごいことを知った……!!)
いきなり他人とは違う部分を見つけることができた俺は、興奮のあまり魔導書を読みふけってしまい、気が付けば朝日が窓から指しており、鳥たちのさえずりが聞こえた。ハッと我に返った俺は、慌てて魔導書をしまうと、ロウソクの火を消してベッドの中に潜り込んだ。
数時間後ミーヌが起こしにきたのだが、全然寝てないのを隠しながら朝食に向かう。今すぐ寝たいという衝動を我慢しながらも朝食を食べ終わると、すぐに自分の部屋に戻ってベッドに横になるや否や眠りについた。
目を覚ますと既に昼を少し過ぎた時間になっており、母さんが用意していた昼食を一人で食べ終わると、自分の部屋に戻って魔導書を取り出した。
「次は、どれにしようかなぁ……」
次にどの魔法を覚えようかとページをペラペラめくっていたが、せっかく火炎魔法の1つを覚えたし、別の火炎魔法を覚えようとページを開きつつ、眼帯をずらした。
「ん……?」
昨夜は気が付かなかったが、右目で見える板状のモノにいつもと違う項目が増えていることに気が付いた。
「火炎魔法Lv.1……。なんだろう、これ……」
昨夜覚えた火球が影響しているのだろうと思うが、急に現れたそれに困惑した。ただ、もしかして魔法を覚えるたびに増えていくのではと考えた俺は、火炎魔法ではなく別の初級魔法を覚えることにした。
別の初級魔法を覚えることはそれほど大変ではなく、火球を覚えるために費やした日数よりも、遥かに少ない日数練習しただけで水球を習得することができた。
(意外とできるもんなんだなぁ……)
水球を眺めながらそんなことを考えていた。実際、魔導書にも、魔法を覚える過程を壁に例えられており、今使える魔法よりも1つ上のレベルの魔法を覚える時は、10mの壁を素手で登るようなもので、今使える魔法と同じレベルの魔法を覚える時は、5mの壁をロープで登るのと同じぐらいの差があると書かれていた。
水球を覚えたところで自分の体を見てみると、火炎魔法Lv.1の他に水魔法Lv.1の記述が増えている。
「やっぱり、魔法を覚えるたびに増えていくのか……」
この記述をもっと増やしたい欲に駆られた俺は、より一層魔法を覚えることに時間を費やし、気が付くと魔導書に書かれていた色々な初級魔法を使えるようになっていた。




