【10】魔法への1歩目
最初のページに張り付いていた石に左の人差し指を当てて自分の体を見てみると、MPの表記が3/0と変わっていた。
「よし!!これなら……!!」
自分自身の魔力量自体は増えてはいないが、自分の体内にある魔力は増えている。魔力を貯めるための器はないが、無理やりにでも魔力を体内に入れ続けることによって、疑似的に器を作り出すことができると気が付いた。
「上手くいくか分からないけど……」
気持ちを落ち着かせ、先ほどのページに書かれていた方法を試そうと数十分あーでもないこーでもないと試行錯誤していると、MPの表記が3と2を行ったり来たりしだして、上手く放出ができているのが分かった。成功したことで喜びのあまり叫びそうになるが、グッと我慢して放出を続ける。
どれくらいの時間が経ったのだろうか、額には滝のような汗が流れており、服はビショビショになって肌に張り付いている。集中が切れ始め、上手く魔力の放出ができなくなってきたところで石から指を離してベッドに倒れこんだ。
「つ、疲れた……」
不思議な感覚なのだが、息は全く上がってないのに、体はまるで何千mも走った後かのようにだるい。集中していた時は気にならなかったが、1度止めてしまうと疲労から一気に何もしたくなくなる。
「……片づけないと」
重たい体を何とか起こし、本を箱に入れて家族に見つからないように隠したところで自分の体を見ると、MPの表示が0/0から1/1になっている。
「やった……!!」
何時間もやって1しか上がらないかとも思ったが、それ以上に自分にも魔法を使えるかもしれないという喜びの方が大きかった。
その日から魔力量を増やす特訓を開始した。昼間は幼馴染達や弟達と遊び、夜には部屋にこもって家族にバレないように魔力を増やす特訓の日々を過ごす。何度か特訓の最中に家族が部屋に入ってきそうになり、バレそうになったが何とかやり過ごしながら、数ヶ月が経った。
「だいぶ増えてきたな」
努力の甲斐あり、MPは100を超えていた。魔法の発動にどの位の量が必要なのか分からないが、MPが100超えたら魔法の練習も並行して開始しようと思っていたため、自分でもできそうな魔法を探す。
魔導書にはMPに関する記載が一切ないため、どの魔法であればできるのか分からなかったが、とりあえず初級魔法と書かれていたページに載っている魔法を試してみることにした。
「火の魔法か……」
そのページには火の初級魔法に関することが書かれており、とりあえず本に書いてある通りに試してみることにした。
「えっと、まずは……魔力を放出させる……」
いつもやっているように魔力を右手から放出させる。何度も繰り返しているうちにいつの間にか魔力が見えるようになっており、放出させる量を微調整できるようになっていた。
「次に……魔力を手のひらに留める……?」
どうやれば留められるのか方法は書かれていなかったが、イメージとにかく重要だと書かれている。そのため、漏れ出ている魔力を手のひらに留めようとイメージするも、上手くいかずただただ魔力が漏れ出しているだけであった。
数時間試していると、少しづつではあるが魔力が手のひらに留まるようになっていった。とはいっても、本当に少ししか留まらないうえに、留まったと思ったらすぐに空気中に流れていってしまう状態が続いていた。
「……今日はここまでにするか」
夜も更けてきて、疲れも出てきたため今日はそこまでで終えることにした。
「えー。なんで遊べないんだよ」
ガレント達と遊んで別れる間際、用事があるから明日以降遊べなくなる日が増えるかもと伝えるとガレントは残念そうにそう答えた。
「ちょっと、やりたいことがあってね」
両親にも内緒にしたいからガレント達にも口裏を合わせてほしいと頼むと、レシリアがジトーっと見つめてきている気配を感じた。だから、あえて目を合わせないようにしていたが、
「……いったい何を隠しているの?」
レシリアはわざわざ俺の前に回り込んできて尋ねてくる。見透かされているのではないかという気持ちになったものの、平静を装っていつもと変わらない態度で答える。
「いやー、隠しているわけじゃないんだけど……まぁ、上手くいったら報告するから、楽しみに待っててよ」
「ふーん……」
納得はしていないといった様子ではあったが、それ以上追求してくることは無く、その日はガレント達と別れて家に帰った。
その日を境に、魔法の練習に集中するために、たまにだが日中も幼馴染達や弟達と遊ばずに魔法の練習をすることが増えていった。内緒にしていたのは、驚かせたいという気持ちと努力しているのを知られたくないという気持ちがあったからだ。
魔力を手のひらに留めようと悪戦苦闘して数週間。ついに、空気中に放出させることなく、手のひらに留めることができるようになった。
「綺麗だ……」
手のひら留まる魔力は太陽の光に当たると微かにだがキラキラと輝いている。しばらくの間、魔力をボーっと眺めていたが、ハッと我に返り次のステップに進むことにした。
「えーっと……。溜めた魔力を火に変える……この部分はイメージが全て……」
またイメージかと思いつつ、手のひらに溜めた魔力を火に変えようと試してみるも、上手くいかない。それどころか、手のひらに魔力を留める時とは違って、上手くいっているのかどうかすら確認のしようが無いため、これであっているのかという不安に駆られれながら火をイメージし続ける。
「……」
何時間も試してみるも、火どころか火種すら起きない。何時間も進展がなく、集中力が切れてしまったため、休憩をすることにした。
「うーん……。どうしたもんかなぁ……」
ベッドで横になり、天井を見上げつつも、特にいいアイデアなんて思い浮かばなかった。魔法の知識も無いため、正しいやり方なんて分からない。ただただ、本に書かれている内容を愚直に試すしかなかった。
(イメージ……イメージかぁ……)
食事の最中もお風呂に入っているときも魔法について考えてみるが、特にいいアイデアは思い浮かばない。実際に火を眺めるなどしてみるが、これといって成果は得られなかった。
(イメージっていっても、触る訳にはいかないしなぁ……)
実際に火にも触ってみようかとも考えたが、流石にそれはやりすぎだし、家族にも心配をかけてしまうなと思ってやめておいた。モヤモヤとしながらもベッドに潜り込んで眠りにつく。
何日もの間、火について考えていたため、ボーっとしているのを母さんに注意されながらも、イメージすることだけは止めなかった。その日もベッドに寝転がりながら、どうしたものかと考えていると、
(……あ、そうだ!!あんな経験を忘れてるなんて……!!)
稲妻にでも打たれたかのようにある出来事を思い出し、ベッドから跳ね起きて手のひらに魔力を溜めていく。




