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8 深見はクラスメイトから取り調べされる③


 文化祭までにクラスで一枚、大きなポスターを作らなければならない。


 私のクラスは、大きな花の絵を作成することになった。


 文化委員が、円を描き、その円周上に三十五枚の花びらが鉛筆で下書きされていた。


 花びらは、一人一枚、全員が別々のオリジナルの色を塗ることになった。


 八時ごろ深見は到着し、青と少量の黒の絵の具を混ぜた暗い色で、自分の区画の花びらを塗りつぶしていた。深く暗い青色だった。


 八時過ぎに高柳を中心とするクラスメイトが集団で登校してきた。


 彼らは水色や黄緑といった爽やかな色を選んだ。


 高柳も、白色と黄土色と黄色を混ぜて、金色をパレットの上に作っていた。


「どけよ」クラスメイトが深見の肩に手を置き、強引に外側へ追いやった。


 水色や金色を、深見の花弁の周りに塗ることで、深見の色だけ、浮いて暗く見えた。


 深見は反論することなく、静かに場所を移動した。その目は、寂しさや怒りを飲み込んでいく過程が見えた。徹底的に無表情を貫いているが、人間が持つ当たり前の感情がそこには宿っていた。




「お前、いつも昼休み消えるだろ。靴を隠す時間があるよな」真ん中の男子は、刑事のように問い詰めた。「今日の昼休みはどこで何をしていた?」


「図書室」ぼそぼそと深見が答える。


 それは嘘だ!と思った。下駄箱で靴をはきかえ、雨の中どこかに向かっていたではないか。


「嘘よ」教室の後ろに立っていた女子が声を上げる。「私は今日図書室にいたけれど、深見君を見なかったわ」重要な任務を抱えるスパイが言うような、使命感を帯びた声だった。


「どういうことだよ。深見」男子は爛々と目を輝かせ、再び深見を見た。


 深見の顔がまた少し強張る。その瞬間を見逃すはずはなかった。


「うそつき」「犯罪者」みんながはやし立てる。犯人捜しをしている様子ではなかった。廊下の外から眺めていると、炎を囲んで行う祭りのようだった。


 彼自身に社交性があまりなく、昼食時間は一人で弁当を食べ、いつの間にか消えているような人物だった。部活にも入っていない。現に私も薄暗いオーラを放つ、高柳と対照的な存在として認識していた。


 教室にある深見の持ち物は全て点検の対象を受けた。しかし、靴が見つかることはなかった。


 深見は体を揺すり、クラスメイトの拘束から離れ、鞄に荷物を詰めはじめる。


「お前帰るのかよ」「おい~」「はやく隠した場所吐けよ」「深見ぃ」「日本語通じていますかー?」


「靴、無かったじゃん」


 深見は最後まで静かな声で言った。


「川上結月が好きなのか?」靴が見つからなかったことに失望しているクラスメイトが思いついたように口に出す。急に当事者になり心臓が竦む。「好きだから隠したのか?」靴が見つかっていない状況で、犯人だと決めつけた発言をしている。


 深見はまたクラスメイトを見た。通学鞄を肩にのせて教室の扉に向かう。


「川上結月に興味ないから」

 

 絶対零度の冷たい声だった。深見は教室を出る。


 教室の外で直立をしていた私と一瞬目があった。が、すぐにそらされる。


 顔が熱くなり、悔しい気持ちが広がった。靴隠しにあった被害者なのに。下駄箱の方角へ振り向いた。小さくなっていく深見を見る。


 このまま教室に入ることもできなかった。


 先生からもらったビニール袋を握りしめる。私もみんなとは別の理由で、少しだけ深見を疑っていた。


 昼休憩時間に手に提げていたあの「エロバッグ」がどこにもなかったのだ。

 

 先生からもらった運動靴を取り出す。ビニール袋をポケットにしまうと、寝ぐせのついた黒い髪を早足で追いかけた。

読んでくださりありがとうございます!

次回から第3章になります!深見の秘密が明らかになります!

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