2 クラスで人気者の高柳亮介と喋る
昼休みは気の合うクラスメイトが集まりご飯を食べる。
教室には大小の集団が形成される。
昼休みに教室を眺めると、人間関係が一目で理解できる。
身なりに気を使い、常にはしゃいだ笑い声を上げる女子のグループ。自動ドアにも感知されそうにないほどオーラを消して、隅で弁当を食べる眼鏡の男子。運動神経抜群で発言力が強い男子のグループ。
そこで目を止める。
グループの中心で、一際爽やかな顔で笑う男子を盗み見た。
「ノートある?」私は窓際に座るそのグループの前に立って言った。昭子も追いついて、隣に立った。
私たちが両手で支えているノートの束に、新たに彼らノートが積み重っていく。
手書きで書かれた【高柳亮介】というノートは、昭子のノートの束に置かれた。
たったそれだけなのに、心臓が少しだけ痛い。心臓が痛い理由が自分でもよくわからない。ただ、それを悟られてはいけないような気がして、表情に気を配った。
「黒木じゃん」高柳は昭子の顔を見て言った。
「誰だれ?」隣の男子が身を乗り出す。
「二組の黒木昭子さんだよ」高柳がクラスメイトに紹介した。どうやら、昭子と高柳は知り合いらしい。
「はじまして」と昭子は男子に対していった。その声は普段の声と何ら変わらない感情の少ないクールな声だ。
しかし「こちらこそ」という男子の返答には不自然な間があった。男子の顔を見て苦笑する。またか、とも思った。
その男子は昭子に見惚れていた。
昭子は、小さな顔に二重の目を持ち、ハーフのような顔をしている。肩の辺りで切りそろえられた直毛の黒髪は艶やかだ。昔から二人で会話をしていると、自然と男子が近寄ってきた。目当ては必ず昭子で、昭子にばかり話しかける。その男子が昭子に向ける視線は、不自然なほど熱がこもっていた。私は隣で取り残されたような、どことなく心細い気持ちになった。
今も似たような状況だった。目のやり場に困り、視線を下げた。高柳の机の横にある黒色の巾着袋を見る。
彼はバスケットボール部に所属しており、体育館で部活動を行う際は、バスケットボール用のシューズを履く。そのシューズを入れているのだろう。
「今日のバスケ部は外練習だから、部活が休みになりそうだね」私は顔を上げ、口に出した。唐突に出した私の声は独り言のように、教室で空中分解しそうだったため「けっこう雨が降っているから」と付け加える。
「まあ、外練習は坂道ダッシュや筋トレの基礎練習しかないし、休みになってラッキーだけどな」高柳が笑う。
「坂道ダッシュ?」聞きなれない言葉をおうむ返しする。
「正門を出てすぐ目の前に窪内山があるだろう。窪内山に登る坂を全速力で走るんだ。上まで行ったら、歩いて下り、また走って上る」なんて無意味な作業だと、嘆いた。
「一年って、こういうのばっかりだもんね」無意識に優しい声を発してしていた。
「仕方がないけど、飽きるよな」高柳が肯定してくれる。
話の区切りが付いたので、他のクラスメイトのノートの回収に戻ろうした。そこで、高柳が呼び止める。