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贄と呼ばれた少女の、幸せ【書籍化】  作者: 紬夏乃
第7章 「守る」
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ジェシカを手伝って

 





 ニナは、噴水広場に立ってハンナを待っていた。今日、ハンナと一緒にジェシカの家を訪ねるのだ。


 ライノとジェシカの家は、街の中心部から少し外れた場所にあるそうだ。ハンナにわかる場所だったので、噴水広場で待ち合わせをしてふたりで歩いてジェシカを訪ねることにした。


「お待たせ、ニナ!」


 たくさんの荷物を抱えて、はじける笑顔を浮かべたハンナが駆けてきた。産着を縫うための布や、道具をたくさん持ってきてくれたのだ。


「ハンナちゃん、こんにちは。荷物を少し持ちますね」


「いいわ!こんなのへっちゃらよ。さ、行きましょ!」


 ふたりは顔を合わせて微笑み、ジェシカの家を目指して歩き始めた。少し距離があるが、仲良く話しながら歩けばすぐに着いてしまう。一緒に街を歩くだけで、ふたりはもうたのしかった。


 ジェシカの家は、住宅地の一角にある庭のついた一軒家だった。ドアノッカーを叩くと、すぐにジェシカが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、待ってたよ」


 招かれてリビングに入ると、ジェシカは歩いてきたふたりに冷たい果実水を振る舞ってくれた。歩いて火照った体に冷たい飲み物が気持ちよく、ふたりはよろこんで果実水を飲み干した。


 新生児用の肌着には、生成りの綿の布を使うことにした。性別はわからないし、気持ちよく着れて洗いやすいのがいいだろうと話したのだ。秋に生まれる予定なので、暖かい着ぐるみや着る毛布なんかも、順番に一緒に作っていこうと話している。小さな小さな手袋や、靴下も作るのだ。新しい命を迎える準備は、とても温かくうれしいことだった。


「生まれたての赤ちゃんは肌が弱いから、縫い代を外に出すんですって」


「へえ、ほつれないの?」


「片側の縫い代を大きめにとって、こうやって折り込んで縫い止めるのよ」


「ふうーん、首周りは?」


「同じ布をこう斜めに裁って、テープを作って布の端を挟み込んで縫い付けるの。あと、ボタンは危ないってお母さんが。取れちゃって口に入れたら大変だからって。リボンで結んで着付けるようにするんですって」


「へえーたくさん考えてるんだねえ」


 ハンナの母親が用意してくれた型紙をもとに、3人で布を裁って、服を縫い始めた。ニナは普通の縫い物をあまりしたことがないので、テープを折ってアイロンをかけ布を挟みやすくしたり、服を結ぶためのリボンを作ったり、細かい作業を進んで請け負った。


 ジェシカは普段から(つくろ)い物をしていたようで布を縫うのがうまかったが、冒険者の装備を(つくろ)っていたからか縫い目がやたらと頑丈だった。ハンナはジェシカが縫った縫い目を見て「これならどんなに洗ってもほつれないわね」と言って笑った。


 できた肌着には、ジェシカに断って胸元に小さくネビュラの姿を刺繍した。ニナにとって、ネビュラは『守り』の象徴だ。きっと、生まれたての赤ちゃんを守ってくれるとそう思っている。ジェシカはニナの刺繍を見て、「すごいご利益ありそう」と言って笑った。


 おむつもたくさん用意した。ニナとハンナは、週に二度ジェシカの家を訪れて、たくさんジェシカを手伝った。


 ジェシカもライノも頼れる親がいない。ふたりはニナに感謝するのはもちろんだったが、ニナの友達だからというだけでこんなにも手伝ってくれるハンナにとても感謝していた。


 ハンナ本人に礼を言っても、ハンナは「うちでたくさん布を買ってくれるからいいのよ!」と言って笑ったが、ジェシカもライノも、ハンナにもっと礼をしたいと思っていた。ニナはそんなふたりに相談されて、ハンナに内緒で「ハンナはプティ・ブティの服に憧れている」とこっそり教えた。それを聞いたジェシカはとてもいたずらそうな顔をして笑ったから、ニナは、近いうちにハンナが飛び上がって驚く日が来るんじゃないかとたのしみにしている。


 ニナは、週に一度ギルドの食堂でゲアトにお菓子作りを教わる。作ったお菓子は、一番最初はヒースクリフと一緒に食べたし、ジェシカの家に持っていくこともある。みんなでお菓子を摘んで、赤ちゃんを迎える準備をする。


 聖域の家では毎日家事をして、ネビュラに魔力の扱い方を教わる。マダムに用意してもらったタオルにも、刺繍を始めた。


 ネビュラはニナが刺繍するところを横でずっと見守って、それから「このタオルがボロ布になっても、主が『捨てない』と言って聞かなくなるのではないか?」と呟いた。ニナはそれを否定できなくて、「ハンナちゃんに、刺繍したところだけきれいに取っておく方法がないか相談してみます」と笑った。


 市場にもよく買い物に行く。気温があがっても、保冷カバンがあるからなんだって気にせず買えた。


 ニナの毎日はとてもたのしくて、充実していた。もう、ひとりで街を歩くことも、人と交流することも、ちっとも怖くない。


 夏は盛りを迎えた。ニナが聖域で暮らすようになって、3年が経とうとしていた。






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