さようなら
「ごめん……」
泣きそうな声で謝る彼を、私は笑顔で赦す。
「謝らないで、貴方が悪いわけではないのですから」
「……」
彼は悲しそうな悔しそうな顔で歯を食い縛る。
「さあ、早く」
「……でも…僕は、僕は!君と共に暮らしていたい!!」
まったく、彼は私の決意を曲げるような事を言う。愛した男性からそんなことを言われれば誰だって心が揺らぐ。
「私を殺さないと貴方はずっと命を狙われますから」
「……いやだ…」
「そんな、子供の我が儘のような事を言っても駄目ですよ」
「僕が、守り抜くから…だから!!」
彼が言い切る前に、彼の手からナイフを奪い自分の胸に突き刺す。
「……ぇ……そんな…そんな…いやだいやだいやだ」
突然の事に取り乱す彼に、優しく手を伸ばす。悲しまないで、泣かないで貴方の進む未来はきっと明るいものだから。
「貴方の、こと…大好きです」
身体が冷たくなっていく。ボロボロと崩れていくような、大切なものがこぼれていくような。伸ばした手で触れた彼の頬は、火の様に暖かくてその熱さが心地よくてずっと感じていたくて貴方の事が大好きで貴方の前では最後まで格好付けたくて笑った。
「…なんで…君が…僕は…君と」
「あなたが、いきて……わたしのぶんまで………」
「ぁ………」
私はもう声は出ないけれど目も見えないけれどしっかりと聞こえた、貴方の私を愛してくれていた人の私の為の涙の音。