P.S.これは日記と呼べるのか?
僕はいつも思う。推理小説を読むとあり得ないほど色々なダイイングメッセージがある。モールスなどはまだ分かるが、たまによく死ぬ前にこんなにも頭が回るなと感心するほどのものがある。どれだけ落ち着いて死んで行くのだろうか。
なぜこんなことが浮かんだかというと僕が何者かに殺されそうになっているからだ。
後ろからよく視線を感じる。殺人を予告した電話や手紙が来ることもある。
正直自分がそこまで恨まれることをして生きてきたつもりはないが、自分の立場上恨んでいたり妬んでいたりする者もいるのだろう。
そして、あることを思いついた。
〈物語みたいに色々残して死のう!〉
僕は別に武器があったり武道をやっていたりしない。さらに運動は苦手だ。だから死を免れることは出来ないだろう。正直自分自身は生きていても死んでいてもどっちでもいい。でもせめてならちょっと面白い事をしてみたい。これはそんな僕の準備の経過を残した日記だ。
1、僕は
僕は伊東賢也。34才。独り身で小説家をやっている。物によっては売れ、物によってはそこそこの売れ行きしかとれない、そんな作家だ。
命を狙われていると知ったのはおよそ一週間前、用があって編集社に行き、帰ったあと「殺す」と書いてある紙とGPSが鞄の中に入っていた。明らかに警察行きの話だ。だけど、編集社の人はあまりそういう問題事を世に出したくないと言い、相談させてくれなかった。その代わり色々会社内で調べると言ってくれていたがそれでも嫌がらせは続く。多分編集社は何もしてくれない。
僕は勝手に警察に相談した。が捜査は行われなかった。僕を殺そうとしている人、もしくは大事にしたくない編集社の人にそういうことが出来る有力者がいるのだろうか。そんなフィクションの世界の中だけの事なんてあるわけないか。
とにかくまあ正直これだけのことで僕が殺されそうになっているとは限らないだろう。ただのいたずらなのかもしれない。でも、殺られる可能性はある。なら死んだ後のために色々しておこう。
2、すべきこと
死ぬ前にすべきことをまず考えよう。浮かんできたのはこれだ。
〇すべきこと
・自分の殺される理由を突き止める。
・いつどのように誰に殺されるか突き止める。
・死んだときにしっかり捜査してもらえるようにする。
・自分が死んだ後軽くでも僕を殺した人に仕返しを出来るようにする。
・親兄弟の為になることをする。
これくらいの事がなんとかなれば良いだろう。
親や姉には迷惑をかけてばっかりだったからな。遺産とまではいかなくても少しでも生活の足しになるくらいの金を残そう。
こんなにもいろんな事を考えて殺されるのか。いつも小説の中の被害者はこんな宿命を負わされているのか。可哀想に。
3、どうして殺されるのか
どうして殺されるのか考えよう。僕は小説家だ、恨まれる所が無い事はないだろう。
僕の思いついた理由は以下の通りだ。
・自分より売れてて憎い。
・話が嫌い等のアンチ。
・思った以上にヒットが少ないことによる編集社の怒り。
この3つくらい?まあ、編集社内で紙とかGPSとか入れれるんだから2個目の可能性は低いと思うけど。
探るにはどうするべきか。そうだ、まずはエゴサしよう。自分の嫌いな所をあげている人がネット上にはいるかもしれない。
調べた結果、少し辛くなった。まあ勿論僕の作品を好いてくれる人も沢山いるが、やはりアンチの言葉はかなり痛い。
他の方法はないか。そうだ、盗聴しよう。一応お金は独り暮らしにしてはまあまあある。これを利用しよう。
僕はボイスレコーダーを買い、作戦を実行した。編集社の色んな所に隠して盗聴した。かなり大変だった。意外にもあまり怪しまれずに出来たが、
結果会社内のトイレで電話で話しているらしきものが一番有力そうだった。内容はこうだ。
・なにかに関して怒られている。
・内容的に何処かのタレント事務所との電話。
・「問題解決の為に尽くします。」と言っていた。
この内容から浮かんだ説がある。
うちの編集社は正直余り作家に恵まれていない。こんな僕でも何度か一番の売り上げになれるほどだ。そんな会社が残って行けてるのはタレントの力があるからである。この会社はちょっと前まで有名なアイドルとか俳優の書いた本を主流にしていた。そのお陰でなんとか保ってきたが、あるときそれが難しくなった。
それの原因は僕だ。(自分で言うのもあれだが、)僕はこの会社では珍しくまあまあ良い売り上げを挙げる存在だった。僕の本が売れるたびタレントの書いた本がその編集社の中で存在が薄くなってしまう。さらにそのくせして会社の未来を完全に任せる事が出来るほど物凄く売れているわけではない。そのせいで芸能事務所からは好かれなくなるし、段々赤字に近づいてしまっている。だから僕の存在を消して元の状態に戻したいのだろう。
この説が正しいかはわからないけどあり得なくないと思う。(自分を評価し過ぎかも?)
もしこの説が正しいとしても殺す必要は無いと思うがまあ普通に辞めさせたら、「何か不祥事を起こしたわけでも無いしそこそこ売れてるのに辞めさせるなど酷すぎる。」と批判を浴びるだろうし、勝手に辞めたと言ったり不祥事を演出するとしても黒幕と言われかねない。
としても殺すのは酷いと思うけどね。
4、いつ誰にどのように
次はいつ誰にどのように殺されるのかだ。まあ、正直だいたいどれも心当たりがある。
まず簡単なのは「どのように」だ。誰にも見られたくない、そして自分達のしたことと思わせたくない場合、一番しやすいのは「家で自殺したように見えるようにする」だ。
例えば無理矢理首を釣らせたり煉炭で一酸化炭素中毒を起こさせるとか相手の手にナイフを握らせて刺すとか、多分そんな感じだろう。
次に、「誰に」だ。これに関しては少しだけ調べた。警備員に「持ってきた原稿を落とし、盗まれたかもしれない」と言ったら簡単に例のトイレの監視カメラを見せてくれた。
そこに写っていたのは編集長だった。恐らく編集長が僕を殺そうとしている、もしくは殺させようとしているのだろう。
最後に「いつ」だ。
これも簡単。約三週間後に僕の家である打ち合わせをしたいと言われている。編集長と僕の担当の人と3人で。この時に行われる可能性が高い。それにこの話で編集長への疑いの信憑性も高くなる。
これって僕の考えが外れたときめっちゃ怖いな。
5、捜査して貰うために
最初にあったことから考えて、殺人だと判断されても何者かの手によって隠蔽され、自殺とされる可能性がある。それを阻止する方法。それは「隠蔽される前に第三者に知らせる事。」だ。例えば家族に先に相談するとかネットで証拠を広めるとか様々ある。でもすぐ隠蔽される確率が高いものばかりだ。
そこでちょっと思った事があった。それは「探偵に頼る」事だ。
ふざけてると思う人も多いだろう。僕も思った。だが意外にも頼れそうな探偵を見つけてしまった。
「浅原信之」という探偵だ。探偵なんてペット探しや浮気調査ばっかしてるものだと思ったが、彼はサスペンスの主役のように様々な難事件に関わり解決している。ニュースで報じられた事件にも関わっていた。
嘘かもしれないと思い、ネットの評価を見たり直接会ってみたりして調べてみたが嘘はなかった。話してみた限り、その探偵がよく頼る警察官もいるらしい。その警察ならもしかしたら揉み消したりもせずやり遂げてくれるかもしれない。
本当に嘘がないかは分からないがまあ、利用しても良いだろう。
作戦は簡単。どっかの大泥棒の予告状のようなものをしっかりとした証拠とともに送りつける。頭の余り回らない僕にしては良い案だろう。
そうでもないか。
6、仕返し
正直こんなでっかく枠を作ったがしっかりと事件が明るみになれば仕返しにはなるだろうし、どっちにしても特にしたいこともないから良いか。
7、親兄弟の為に
最後に考えるべきなのは親兄弟の為に最後にすべきことだ。僕には母親と姉がいる。父親は事故で他界した。ちなみに姉は結婚もして子どもも生まれ幸せに暮らしている。それなのに僕が死んだらその幸せを邪魔してしまうだろう。でも、多分どうあがこうが僕は死ぬだろう。これを書いている間にも色々情報を集めているが、段々殺されるかもという予感が強まっていくばかりだ。
親兄弟に残せるもの、それはお金だけだ。僕は小説家になるために母親とは軽く縁を切っている状態にあった。(姉との縁はまだ残っているが、)多分生きてるときに会っても何の恩にもならないだろう。だからせめてお金だけでも残そう。
8、前日
遂にこの日が来てしまった。僕の推理から導き出された犯行日の前日だ。恐らく明日僕は殺される。そんなとき僕はある1つの疑問が浮かんだ。なぜ「殺す」と予告したのか。僕が考えることの出来た理由は只一つ、「恨み晴らし」だ。ただ一回殺しただけで死んでしまったらつまらない。だから、「死ぬまでも苦しめ!」て事だろう。
これですべての謎は解け、したいこともすべて出来た。遺言も書き終わった。正直これまでの人生で一番しっかりとやり遂げることが出来たと思う。この何となくつけていた雑な日記もこのままにしておくには勿体無い。死ぬ直前にネットにでも公開しよう。もしかしたら意外と人気になって売れるかもしれない。そしたらまた少しは親孝行になるかも。
これで最後の言葉になる。何を書くべきか悩みどころだ。どうしよう。まあ、最後はきれいに締めよう。
この美しい世界に生まれてこれて良かった。僕の生き甲斐をここに残す。
P.S.
これは日記と呼べるのか?
次のニュースです。
一昨日正午ごろ作家の伊東賢也さん(34)が自宅で首を釣った状態で見つかり、その後病院に搬送され死亡が確認されました。
最初は自殺と判断されましたが、その後の調べで様々な証拠が見つかり殺人と判断されました。
容疑者として伊東賢也さんの担当編集者であった田仲泰彦(26)と編集長の畑中友加里(45)が捕まり、田仲泰彦は容疑を認めておりますが畑中友加里はまだ否認を続けています。
田仲泰彦は「うちの会社が売れなくなったのはこいつのせいだから一緒に殺すぞ。もし手伝えばお前を大企業に紹介してやる。と条件を出され、その話をのんでしまった。」と述べており、また捜査が進んで畑中友加里は警察内の協力者とともにこの事件を隠蔽しようとしていた事が分かり、警察内でも捜査が行われています。
亡くなられた伊東賢也さんは亡くなられる前に作品をネット上にアップしており、警察はその内容が今後の捜査の鍵になると考えています。