表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シケンカントク

作者: 浅野浩二

試験監督をしている男と女のプラトニックな恋愛小説です。

ここはあるシケンのシケン会場。拓殖大学の六階。年に一度のシケンなので、受験生は、おちたら、もう一年同じことをやらなくてはならないし、やったからといって、学力が上がる、というわけでもないようなので、一年をこの日のためについやしてきた、のだから、もっとキンチョーしたフンイキでもいいと思うのだが、さほど、はりつめたフンイキではなく、またそうぞうしくもない。シケンカントクは四人で、ジャベール的な人はいなかったので、こちらもリラックスしてシケンという自分とのコドクな戦いに集中できた。若い、京本的なスポークスマンと、うるわしき、いとなやましげなる人がいた。私は、その時のシケンはおちて、同じ勉強をするはめになった。

 ある初夏の日、気がつくと私はその二人をイメージして、掌編小説をかいていた。

 彼らは試験がおわったら、いっしょに車で帰って行った。試験監督おわりの飲み会・・・ということで、これからカラオケスナックに行くらしい。

 スポークスマンの若い男が、

 「二日間、ごくろうさま。」

 と、ねぎらって、カンパーイ。ゴクゴクゴクッ。ウィー。ヒック。

「飲もおー。今日はーとこーとんもーりーあがろーよー(森高千里)」・・・てな具合でもりあがった。

 名前は、スポークスマンが「牧」で、

 女の人は「佐藤」・・である。

 彼は一曲うたったあと、カウンターでマスターと話している。彼は少しの酒ですぐ赤くなる。つかれて少しうつむきかげん。彼女はさりげなくとなりに座ってマスターに、オン・ザ・ロックを注文する。その声に彼はハッと気づいて目がさえる。彼はグラスを手でまわしながら、

 「グラスの底に顔があったっていいじゃないか・・・」

 と、わけのわからんことをつぶやきながら照れくさそうにしている。彼女のあたたかさが伝わってくる。

 「牧さん、おつかれさまでした。」

 「い、いえ。佐藤さんこそおつかれさまです。」

 彼女はおもしろがって、

 「私、忘れっぽいから、お酒がはいった時、言ったことや聞いたことって翌日になると、すっかり忘れてしまって、おもいだそうとしてもおもい出せないの。牧さんは知性的だから、そんなことはないでしょう。」

 彼「い、いえ。僕もまったく忘れっぽいです。」

 彼女、前をみてる彼を微笑みながら、じっとみすえて、

 「私、牧さん好きです。」

 と、きっぱり言った。他の人は離れた所にいて、カラオケをたのしんでいる。室内にひびくマイクの大きさは、彼女のコトバを消すのに十分だった。マスターは気をきかせて、さりげなく厨房に入っていった。スポークスマン、声をふるわせて、

 「ぼ、僕も佐藤さん。好きです。とってもすきです。」

 そのあと、マスターがもどってきて、二人はだまってのみつづけた。

 翌朝、社へ向かう途中の交差点で二人は出会った。彼は少し恥ずかしそうに、

 「おはようございます。」

 と言った。彼女も同じコトバを返した。彼女は空をみて、

 「私、きのう何かいったかしら。ぜんぜんおぼえてないわ。牧さんはおぼえていますか。」

彼は胸をなでおろし、ほがらかな口調ではっきりと言った。

 「僕もまったくおぼえていません。」

 彼はさらにつけ加えた。

 「さ。今週も一週間ガンばりましょう。」

 彼女も快活に「ええ。」と答えた。

 信号が青にかわった。

 人々はそれぞれの目的地へ向かって歩きだす。

 大都会の一日がはじまる。



試験監督をしている男と女のプラトニックな恋愛小説です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ