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迷惑な同僚2


二人だけになった吉岡は、気まずそうな顔をしている奈緒に

「一ツ橋さん、我々も出ましょう」


吉岡の言葉にもう帰るという思いで頷くと席を立った。

店の外に出ると大分涼しい風が流れていた。


「気持ちいいですね。秋もだいぶ深まりました」


空を見上げると綺麗な月が浮かんでいる。


「まだ、八時過ぎです。少しだけ散歩しませんか」


この前の日曜に散歩すると言って、渋谷のメインストリートだけを歩いたことを思い出すとコクリと頷いた。事実、私も大分酔っていた。


 センター街を抜けてパルコ通りに入り、スペイン坂を吉岡に付いて歩いていた。

人がまだ大勢歩いていることを思うと私も夜風に打たれて気持ちが良かった。


スペイン坂から公園通りに歩いたのでそのまま駅に向かうと思ったが、吉岡は、NHKの方へ歩いた。


 チラリと腕時計を見るとまだ、八時二〇分。もう少しいいかと思うとそのまま付いて行った。適当に吉岡の言葉に相槌を打ちながら話を聞いていると


「一ツ橋さん。この前の日曜日、言った事覚えています」


なにっ、という顔をすると


「お付き合いして下さい」


言葉の意味が理解できると何も言わずに下を向いた。


少しだけ時間が流れると


「一ツ橋さん。本当に男の人と付き合った事ないんだ」

都合よく奈緒の態度を取った吉岡は、


「だめですか」

何も言わず下を向いている奈緒に横にいた吉岡が、いきなり前に来ると奈緒の両方の肩を優しく触った。


えっと思ったが、酔いにすぐに体を引くことが出来なかった。

自分よりはるかに大きい体で両肩に触れられ、動けないでいる私をいきなり引き寄せるとそのまま彼の体に引き込まれた。そして手を後ろに回された時、


「止めて下さい」


吉岡の力に自分自身の体が動かない奈緒は口でそう言うと一瞬だけ力が緩んだ。

そのすき、腕の中から抜け出そうとしたが、もう一度抱きすくめられると


「お願いします。誰も付き合っている人いないんでしょう」


強引な言い回しに

「止めて下さい。大きな声出しますよ」


吉岡は、自分の体に触れる奈緒の柔らかな体を腕で包みながら


「いいです。大きな声を出してください」


そんなことはこの人は出来ないと、たかをくくりながら思いきり両腕で彼女を抱きしめた。


「止めて下さい。本当に止めて下さい。心に決めた人がいるんです」


さすがにこの言葉に吉岡が腕を緩めると信じられないと言う顔をした。


「だって、この前の日曜日だって、楽しく時間過ごせたじゃないですか」

「あの時は、本当に時間が有っただけです」


腕の力を抜いて奈緒を離すと

「本当なんですか」

「本当です。既に結婚の約束もしています」


嘘でもいい、いずれ事実になると思って私は、真剣な眼差しで言った。


吉岡は、そのまま後ずさりするとクルッと向きを変えて今まで来た方向に早足で戻って行った。


淳以外の人に体を触られたショックだった。自分は淳のもの、やがて淳のお嫁さんになる。すべてはそう思っていた。急いで吉岡と別の道を通って駅に向かった。


経堂の駅に着いて、急いで家に戻ると何も言わずに二階に上がった。


母親が、いきなり帰って二階に上がる娘に声を掛けたが、何も返事がなかった。

どうしたのかと思ったが、明日の朝には、また元通りになるだろうと思うと無理して声を掛けるのを止めた。


 私の体は淳のもの。私は淳のお嫁さんになる。他の人に体を触れられるなんて吉岡のいきなりの行動を許せないながら、一瞬でも気を許した自分が嫌だった。


 シャワーを浴びて思いきりボディシャンプーで体を洗いながら涙が止まらなかった。淳、ごめん。


僕の頭の中にいきなり奈緒の声が入って来た。

ホテルの部屋でPCを開けて明日の最終テストの受入れ手順を確認していた僕は、どうしたんだろうと思った。

日本とは、一時間のタイムラグがある。今、午後一〇時頃だ。


横に置いてあるスマホでメールしようとしたが、無理かと思うとスマホをデスクの元の場所に戻した。


キーボードから手を離した。奈緒の声が聞こえる。さっきまで一緒だった瞳の事が心の隅に有ったが、僕は、頭の中に日本にいる奈緒の事が気になり始めた。


今、心配しても仕方ない。明後日には帰れる。成田に着いたらすぐに連絡すればいいと思うとまた、PCに向かった。


淳、側にいて。


心の中で大きな声で言うと奈緒の瞳から涙が枕にこぼれて行った。





「淳、終わったね。今日も柏木部長と後藤課長は、どこかに出かけて行ったわ。あの二人どこに行くのかしら」

「さあ、ここで行きつけの店でもあるんじゃないか」

「そうね」


瞳は、周りを淳に気付かれないように見渡しながら、セキュリティか、ガードか。本当にいるのかな。でも分からないな。

私が分かるようじゃ、駄目だもんね。そう思いながら淳の顔を見ると何か、頭の中が別の事を考えているような顔をしていた。


「淳、何考えているの」

「えっ」

「えっ、じゃない。私以外の事考えていたでしょ」 


えーっ、焼きもち焼きなの、瞳って。

実際、奈緒の事が心配になっていた。明日、日本に帰ることには、なっていたが、昨日の夜の出来事が気になっていたのも事実だった。


「いあや、そんなことない。これからどこ行こうかなと思って」


母から見せられた写真がはっきりと思い出された。淳は、私。誰にも渡さない。どんなに可愛くて綺麗な人でも。自分自身こんなに思うようになるとは思っていなかった。


だが、彼に自分とは別の女性ひとがいるのを分かってから、自分自身の心が彼にあるのがはっきり分かった。

体を許した事が理由ではなかった。明らかに心が彼を見ていた。


「淳、嘘ついたらこうだから」

と言って、いきなり左の頬をつねった。


「いたっ、たたっ」


瞳の手を自分の手で止めさせると、

「痛いよ。いきなり。周りの人も見ている」


瞳が、周りを見ると確かに笑っている人達がいた。

「だって、淳が・・」

「なんだよ。もう」

ちょっと怒った感じで言う彼に


「お腹すいた。どこか連れって」


いつもの言葉に戻った瞳に

「分かりました」

と言うとホテルのコンシェルジュで、マーライオンの側で港の近くにあるレストランを紹介されると瞳を連れて行った。


「淳、日本に帰ったらすぐに会える。土曜日でも」

「えっ」

「話したいことがある」

奈緒との約束を考えると

「土曜日は約束が入っている」

「じゃあ、日曜日」

少しだけ躊躇したが、

「いいよ」

と言うと、目の前の大皿に盛られているカニの料理に箸を付けた。



―――――


一ツ橋奈緒子は、吉岡からの強引なアプローチは避ける事が出来ましたが、

ますます淳への気持ちが強くなります。


竹宮瞳も淳への思いが強くなっていきます。


三人の関係は難しくなっていきますが、…まだこれからです。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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