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予期せぬ事1


 奈緒を送っていったのは、十一時半を少し回っていた。タクシーで家がある路地の手前まで行くと一緒に降りた。


 路地を少し入ると奈緒が、右と左を見て、淳の手を引きながら脇道に入り顔を見ながら目を閉じた。

ゆっくりと唇だけを合わせた。少しだけそうしているとゆっくりと奈緒が離れて

「淳、ありがとう。もう家に入る」

そう言って体を離した。


 僕は、家の玄関を入る奈緒を遠目で確認すると自分も駅の方に戻った。


 私は、淳の後姿を、ドアを開ける前に少しだけ見ると体を家の中に入れて、ゆっくりとドアを閉めた。静に玄関を上がろうとすると急に人影が現れた。


「奈緒、何時だと思っているの。連絡もせずに。こんなに遅くなるなら電話位入れなさい」

きつい声で言う母親に


「お母さん、ごめんなさい」

下を向いたまま母親の横を通り過ぎようとすると

「待ちなさい」

左手を掴まれた。母親の目がじっと自分を見ている。視線を離せないままに母親の顔を見ていると

「奈緒」


それだけ言って私の体を優しく抱擁してくれた。少しの間そうしているとゆっくりと体を離して、

「お風呂入る?」


気付かれたような気がした。頷きながら

「うん」

と言うと二階の自分の部屋に行った。お母さんにばれたかなそう思いながらドアを開けた。


 既に、十二時近かったので経堂の駅からタクシーを拾うと用賀の家まで帰った。

僕の家は、駅から少し離れた住宅街の為、この時間になるともう人通りはなかった。タクシーを降りて、玄関を開ける前、腕時計を見ると午前〇時一五分。


 信号のつながりも良かったし、道路もすいていたからかなと、思ったより早く着いたことに安心しながら、ドアを開けた。このくらいの時間なら仕事がら、たまにあることだった。何気なく、

「ただいま」

と言って、玄関を上がると父親が風呂から出てリビングに居た。


「今帰ったのか。遅かったな」


 特に気にも留めない言い方にリビングに顔を出すと、父親と母親がまだ起きていた。父親が、自分の顔をじっと見ると少し顔を笑わせながら

「淳、さっぱりしているな。風呂でも入って来たのか」


自分の行動を見透かされた様な強烈な一言に一瞬どきっとすると


「ほう、そうか、そうか」

と言って、お母さんの方へ顔を向けるとにやっとした。


「えっ、なんで。お母さん、お風呂入る」

「もう、あなただけですよ」


 母親も少し顔が笑っている。なんだと思いながら自分の部屋に戻ろうとするとリビングで両親が聞こえない声で話していた。


 何なんだ。あの笑いは。分かる訳ないし洋服を脱いで、お風呂の入口の左に置いてある洗いかごに今日来ていた洋服を入れた。


 さっき奈緒と一緒に入ったけど、まあいいやそう思いながら両親の手前入ることにした。


 もう一度一通り体を洗い、湯船につかるとやっぱり、家の風呂はいいな当たり前の事を思いながら少し使った後、風呂から出てバスタオルをタオル賭けから取ろうとした時だった。


「えっ」


 明らかに自分の思い切り知っている匂いがそこに有った。奈緒の匂い。自分の鼻がお風呂でリセットされたことで、洗いかごにある洋服の匂いに気が付いたのだ。

 自分のシャツに付いている奈緒のオーデコロンの匂いだった。


 両親にばれたかそう思ったが、もういいかと思うとタオルを体に巻いて自分の部屋に戻った。




「では、始めよう。山之内、全体スケジュールを出してくれ」


 柏木部長の指示に、自分のPCから共有サーバに格納しているプロジェクトスケジュールをプロジェクターでスクリーンに表示した。


 柏木部長が、ミーティング参加者に海外展開するシステムのカテゴリ毎の進捗を説明している。


「いよいよ、来月から、シンガポールと導入の為の調整に入る。前段、テレカンで説明後、具体的な内容を現地で説明する。先発メンバーは、山之内、竹宮、後藤と私だ。向こうでの具体的な役割は、これから説明する」


 柏木部長の話にもうそんな時期かと思っていた。

このプロジェクトが始まってから二か月。移行プロジェクトだが、実働は現地で行う為、淳は、自分のパートの資料の英文翻訳とシンガポールの担当者との打ち合わせに毎日追われていた。実際、奈緒と会わなくても帰宅が二時を過ぎることも多々有った。



「奈緒、来週末からシンガポールに行って来る。最初は一週間だけだ。僕がいなくても寂しがるなよ」

冗談っぽくいう淳に


「やーっだ。絶対寂しがってやる。早く帰ってこないと私もシンガポール行っちゃうよ」

「えーっ」

「ふふっ、うそ。早く帰って来て」

「うん」


 目の間の琥珀色の液体が、氷の肌とすれ合うように触れ合っているのを見るとグラスを口元に持って行った。


 横目で隣に座る奈緒を見ると、じーっとほとんど水に近い透明感の漂った水割りの入ったグラスを見つめていた。


 僕は、翌週土曜日に仲間と一緒にシンガポールに向かった。


 淳、行っちゃた。

一週間か長いなそう思ったその時だった。私は、いきなり何とも言えない気持ちの悪さを感じトイレに駆け込んだ。



―――――


えっ、奈緒子さん。まさか。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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